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妖魔山編

1696.結論を下す者

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 この世界に居る『鬼人』と呼ばれる妖魔は、腕力に絶大な自信を持ち荒々しいものが多く、どうやら悟獄丸は妖魔神と呼ばれていても、その見た目通りの鬼人然の妖魔だったようである。

「一つだけいいか? お前は神斗と同様にイダラマの『透過』技法に興味を示していたように思えたが、それは何故だ? 私が思うにお前は『魔』に対してそこまで執着心もなく、神斗みたいに『魔』の概念について魅了されているという様子も見受けられないが、山の頂でお前がイダラマの『透過』を見た時だけは神斗と見紛う程に、いやそれ以上と思えるくらいに思えたのだが」

「あ? そんなモン決まってるじゃねぇか! あの人間が使っている『透過』が非常に優れているからだ。それ以上でもそれ以下でもねぇし、俺はお前が言う通りに神斗みてぇに『魔』という力を認めてはいるが、だからといってこの俺がそこまで傾倒しているわけでもねぇ。単に勝負に勝つために利用する価値があるってくらいの認識でしかない。俺は『魔』を使うからあの野郎を認めたわけじゃねぇ。あの野郎があそこまで自分を高められていたから興味を持っただけだ。アイツはしっかりと芯を持って『透過』っつー技法に向き合い、間違いなくあの野郎は一つの到達点を迎えていた。それはこの俺が保証する。まぁ本音を言うとアイツが生涯をかけて編み出した『透過』に俺もこの拳で挑んでみたいと思って、こうやって今追いかけてるだけだ」

「何だそれは……」

 妖魔召士である『シギン』はこの『悟獄丸』を単に『妖魔神』としての存在としか認識出来ていなかったようで、戦えばどうなるか、そしてどう戦うべきかのみに重きをおいて考えていて、妖魔神の『悟獄丸』という妖魔の部分を履き違えて考えており、実に自分の認識が甘かったのだと再認識するに至るのであった。

 悟獄丸は実に人間臭い考えを持つ『妖魔』であり、強さのみの観点から他の妖魔達から『妖魔神』として恐れられてはいるが、その中身は『鬼人』という種族然の考え方をそっくりそのまま抱いている様子であった。

 そしてシギンはそれを踏まえた上で、ここにきた目的を予定通りに行うかどうか悩んでしまい、二の足を踏んでしまうのであった。

「ここに来る時にそのお前が挑みたいと言ったイダラマの仲間が殺されていたが、それはお前がやったのは間違いないか?」

「もちろんだ。俺が通ろうとする道を邪魔をして遮りやがったから殺してやった」

 その言葉を聴いたシギンは迷いを振り払った。この悟獄丸は神と呼ばれてはいるが、単に鬼人の種族のまま、強くなりすぎてしまっただけであり、自分の思い通りに事を運ばせる以外には興味をもたず、また加担もしない。 

 ――謂わば、我儘の権化がそのまま『妖魔神』の名を冠しただけなのだ。

 善くも悪くも純粋な『妖魔』ではあるのだろうが、神斗のように話が通じる相手ではないとシギンは結論を出すのであった。

 シギンの目的に対してはこの悟獄丸も直接は関係がないが、それでも自分と同じ人間に脅威が迫っている以上はここで止める事に越した事はないだろう。

「悟獄丸、悪いがやはりここでお前にはこの山から退場願うとしよう。これまで生かしといてやっても構わないと考えてはいたが、生かしておいても何も利点はなく、それどころかこうして犠牲が出てしまった以上は不利益にしかならぬと判断した」

 悟獄丸にとっては看過出来ない言葉を、淡々と吐き出し続けるシギンだった。

「だからてめぇは、一体何様のつもりなんだ? 見たところお前も人間のようだが、俺から見ればお前は芯の通っているようにはみえねぇ。単に才能に溺れて勘違いしたか? 俺からすりゃイダラマって奴の方が骨があるように見えるぜ?」

 頭をガシガシと掻きながら『悟獄丸』は、そんな言葉を口にするのだった。

「だったら試してみるといい。まぁ、お前がこれからどうしようが、私はもう結論は出した。このままお前は表舞台から消え去ってもらう」

 その言葉に遂に悟獄丸は我慢の限界を迎えたようで、恐ろしい程の殺意をシギンに向けて『オーラ』を纏め始めるのであった。
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