上 下
1,704 / 1,915
妖魔山編

1687.かつての妖魔召士達の長

しおりを挟む
 空の上で神斗とのやり取りを終えたそのナニカは、目論み通りに危険な存在であるエヴィを回収した後、再び『妖魔山』の頂へと『空間魔法』を用いて到着する。

 どうやらそのナニカのもう片方の目的の人物は、すでに移動が行われていたようで、到達した座標の場所には居なかった。

「それなりの時間を神斗と話し込んでいたわけだしな。いつまでも、もう片方の『妖魔神』の居る場所に居続けるわけもないか……。さて、あまり時間を掛けていてはここに神斗の奴が戻ってきてしまう。急ぐとしようか」

 そのナニカはエヴィを担いだままそう独り言ちると、その場で気配を探るように周囲を見渡し始める。

「悟獄丸に私の『魔力』の残滓を残しておいて正解だったな。どうやらイダラマ達を追って移動を行っているようだ。アイツは『神斗』のように『魔』の概念に傾倒している様子はなかったが、それでも今のイダラマ達程度ならば楽に捕まえられるだろうに。狩りのつもりか? 全く趣味が悪いな妖魔神めが……」

 そのナニカはイダラマの『魔力』ではなく、先程『結界』で閉じ込めた時に送り込んでいた『魔力』の欠片程度の残滓からその場所を探り当てた。

 どうやら神斗のような『魔』に対する理論的な観点を持ってはおらず、感覚的に『魔』を利用する悟獄丸の方が扱いやすいと感じたようで『結界』などで居場所を探りにくくしているイダラマ達の方ではなく、悟獄丸から場所を割り出したようであった。

 ソフィ達の世界にあるような『ことわり』から生み出された『魔力感知』や『魔力探知』ではなく、独自の『魔力』感知方法を用いて居場所を探るそのナニカだが、全体を考えた上での便利さでいえば『魔力感知』や『魔力探知』の方が上であろうが、このナニカの独自に編み出した『ことわり』から用いられたモノは、自分自身の『魔力』を残滓とはいえ付与する事で確実にその居場所を突き止める事が出来る。

 あくまで自分自身の『魔力』から特定するのだから、いくら『結界』などを用いようとも逃れる事は出来ない。この点では確実にナニカの感知能力が上だと、断言が出来る程である。

 そしてこのナニカは『空間魔法』をある程度の領域まで自在に操る事が出来る為、非常に感知能力と相性が良い。

 ――否、相性を合わせるためにその『ことわり』を生み出したのだから、良いのは当然の事であった。

 このナニカはこの山を至る場所まで知り尽くしている。その理由は最初にこの『妖魔山』に入り込んだ後、瞬く間に自身が世間から姿を消して、この山を自身の生涯の大半と呼べる程の期間をかけて調べ尽くしたからである。

 ――何故そんな事をする必要があったのか。

 それは当時、この妖魔山に登った時にこのナニカだけにしか感じられなかった、とある『妖魔』の存在の『魔力』を感じ取ったからである。

 そのとある『妖魔』とは『神斗』や『悟獄丸』といった『妖魔神』と、同じ時代を共有してきた『妖魔』で間違いはないのだろうが、その存在は間違いなく『神斗』や『悟獄丸』よりも禍々しい化け物で間違いなかった。

 この化け物は過去のどの世代かまでは分からないが、このナニカと同じ『妖魔召士』によって『封印』を施されてこの山のとある場所に今も現存している。

 当時の仲間達にさえ居場所を知らせず、このナニカはたった独りでこの山に残る事を選び、その『妖魔』の監視を行い続けたのであった。

 ――そしてこのナニカの存在とは、今ではもう数世代前の妖魔召士の長となった、稀代の天才と呼ばれた妖魔召士『』であった。

 ……
 ……
 ……

 山の頂から『空間魔法』を用いて悟獄丸の居場所までを狭めながら、確実に同次元に居る者達からは観測されないように少しずつ移動を行っていたシギンだが、もうすぐで悟獄丸やイダラマ達が居るだろうという場所の近くで、首を引き千切られて事切れている人間の姿を発見するのだった。

「悟獄丸も惨い事をするものだ……」

 ――その人間とは青く長いピアスを耳につけていた『イダラマ』の護衛であった『』であった。

「後で必ず葬ってやるから、いましばらくは悪いが我慢してくれ」

 シギンはアコウの亡骸にそう告げると、再びその場から姿を消して悟獄丸達の場所へ向かうのだった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...