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妖魔山編
1679.魔の概念と、神斗の抱く理念
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「あのガキッ! 何処へ行きやがったぁっ!?」
悟獄丸は七耶咫の張った、赤い正方形の『結界』を粉砕して自由を取り戻すと、まず七耶咫の名を叫びながら姿を探すのだった。
如何なる理由があろうとも、妖魔神である自分に刃向かうような態度と行動を起こした妖狐に我慢がならなかったようである。
しかし既にその七耶咫は、悟獄丸の攻撃範囲外に移動を行っており、遠く離れた空の上に居る『神斗』と『エヴィ』の元にその姿を見せていた。
…………
「さて七耶咫。これは一体、どういう事なのかな?」
突如として空間を切り裂くようにして現れた、七尾の妖狐に向けて神斗は問い詰めるのだった。彼にしてみればいきなりエヴィを仕留めるところを妨害された挙句、その妖狐は逃げるでもなく、わざわざ自分の前に姿を見せたのである。
――神斗は普段と変わらぬ笑みを見せてはいるが、心中穏やかではなかった。
「神斗、お前も『呪法』に対しては、ある程度の知識を持っているだろう? 今この場でコイツを殺せば呪いが山に蔓延し、取り返しがつかない事になるぞ」
七耶咫は先程悟獄丸にも告げた事を、再び口にして神斗に伝えるのだった。
「だから? そんな呪いなどは発動と同時に、空間を切り離して『隔離』させてしまえばいいだけの事だろう? 私達ほどの領域に達していれば、単なる一方向にだけ影響を与える『呪い』など、いかようにも対処は可能で何も問題はない。それより……」
――お前は何だ?
大魔王エヴィの引き起こそうとした呪法と特異による『特別攻撃』に対して、単一方向の攻撃など問題ないと言い切った神斗だが、次の瞬間には悟獄丸と同様に本来の『七耶咫』と違うと看破して、お前は誰なんだと訊ねるのだった。
その神斗の問いかけに、七耶咫の瞳が揺れた。
そして彼女はほんの一瞬だけ迷う素振りを見せたが、その後すぐに笑みを浮かべるのだった。
「流石は『妖魔神』と呼ばれるだけはある。力や持っている強さだけに意識を向けているような連中であれば、気付かれぬに誤魔化せると思ったが、やはり主や悟獄丸には見破られてしまったか」
「そりゃ、そんな完成度の『魔力コントロール』を、いち妖魔が纏っていたら誰でもおかしいと思うだろう? それに先程の距離を一瞬で縮めて見せた移動は、一度だけ昔に見た事がある。確かそれを使ったのは『人間』だったか……――っ!?」
――僧全捉術、『移止境界』。
七耶咫が目を細めて視線を鋭くさせながら神斗を睨みつけただけで、何の前触れもなく術が発動させられた。
――しかし、神斗の『透過』によって強引に内側からイジられて、術の効果が発揮されずにそのまま消失されてしまうのだった。
「私を舐めるなよ? 君が何者なのかは知らないが、そんな子供だましの『魔』の影響など、この私が受けるものか」
――『魔』の概念とは、非常に幅が広く奥が深いものである。
たかが千年や、二千年程度着手したくらいでは『魔』の全てを理解する事はまず不可能である。
その膨大な程の組み合わせから、才のある者でさえ幾重にも成り立つ『魔』の概念、そのほんの僅かなモノだけしか理解が及ばない。
大魔王フルーフや、大賢者エルシスといった一つの『理』を生み出した『魔』の化け物と呼ばれる者達でさえ、幾重通りに存在する『魔』の概念の一部を解き明かして、一般的なものへと『式』を世界に提示して『魔』の概念のほんの一部を分かりやすく翻訳を行ったに過ぎない。
『魔』の概念の中にある『透過』技法その一つでさえ、完全に理解するのに膨大な時間を要する。
イダラマという一人の人間が決して少なくない時間を要して『魔利薄過』という『防御』に特化したものを生み出したが、それすらも対処を行える技法は数多く存在し、更にはそのイダラマの『魔利薄過』の先を行く『エヴィ』の『透過』技法、そして更にその対処を行ってみせた『神斗』の『透過』技法が存在する。
このように『魔』の中であっても、一つの道を行き着くところまで突き詰めるにしても、人間の寿命では限界があるために、ある程度は妥協を行いつつ、別の『魔』の観点から自身の求める『魔』に行き着くように妥協を重ねながら自らを納得させなくてはならない。
そういう意味ではイダラマという『人間』は、この『魔』の求道者の中では限りなく成功を収めた方ではあるが、それでも寿命が更に長い『妖魔』に『透過』という分野では追いつく事が出来なかった。
当然、これは神斗という妖魔が『透過』という面において研鑽を積み重ねてきた事による結果であり、これが同じように寿命が長い妖魔であっても、神斗程に『透過』の研究を修めて居なければ、人間であるイダラマの方が優れた結果を残すだろう。
いずれにしても『魔』の中の一つの事であっても、完璧に追及しようとすれば相応の時間を要するものであり、寿命が長い種族であればある程に、有利不利は如実に結果として残る。
この『魔』の観点に絞った上での考えではあるが、種族による寿命を覆せるとするのならば、それは人知を超えた叡智の源を司る存在でなければ覆す事は難しいだろう。
そして寿命もさることながら、この『魔』の概念に於いて同じ種族、同じ妖魔の中であっても他の追随を許さぬ程に研鑽を積み重ねてきた『神斗』は、概念の一つである『透過』に留まらず、あらゆる『魔』の根本となる理念を心得ている為、自分より秀でた分野の『魔』の概念を示されようとも、彼は瞬時に思想の『式』を独自に描いて追跡を行い、その研鑽を収めた者の答式を共感する事で理解して自らの糧とする事を可能とする。
先程、七耶咫の姿をした存在が用いた空間を狭めるかのような移動法を用いたが、これは本来はあり得ない事象であり、明らかに『魔』の概念が用いられていた。
それを見た神斗が、この七耶咫に対して『過去に一度使っている人間を見た事がある』と口にした。
つまり『魔』の概念に対して独自の理念を持つ彼は、この未曾有の『魔』の移動法に対しても既に対処を終えているという事と同義であり、他の存在が同じ技法を用いた場合には、普通に足を使って歩く事と同じようなモノとして考えて対処を行う。
このように気が遠くなる程の時間を『魔』に費やしてきた『神斗』にしてみれば、今を生きる短い『寿命』に縛られた『人間』が用いる『魔』の技法は、一切合切の全てが過去に自分自身が辿ってきた探求の代物である。
――完全に彼を出し抜く程の『概念』は、それこそこの世界にはない『魔』の技法を繰り出すしかないだろう。
「やれやれ……。どうやら悟獄丸という『妖魔神』は独自の感性や感覚で『魔』を利用しているに過ぎないようだが、お前は『魔』というモノを完全に理解して、その気が遠くなる程の膨大な知識を少しずつ紐解いて、己の力として役立てているようだ。この世界のバランスが崩壊する程の『呪法』を前に焦ってしまい、些か表舞台に出るのは急ぎ過ぎたようだ」
七耶咫の存在をした何かは、目の前に居る『妖魔神』の居る『魔』の高みを知り、やり合うには不利とまではいかずとも時間を使わされると判断したようで、この場で大きく溜息を吐くのであった。
……
……
……
悟獄丸は七耶咫の張った、赤い正方形の『結界』を粉砕して自由を取り戻すと、まず七耶咫の名を叫びながら姿を探すのだった。
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しかし既にその七耶咫は、悟獄丸の攻撃範囲外に移動を行っており、遠く離れた空の上に居る『神斗』と『エヴィ』の元にその姿を見せていた。
…………
「さて七耶咫。これは一体、どういう事なのかな?」
突如として空間を切り裂くようにして現れた、七尾の妖狐に向けて神斗は問い詰めるのだった。彼にしてみればいきなりエヴィを仕留めるところを妨害された挙句、その妖狐は逃げるでもなく、わざわざ自分の前に姿を見せたのである。
――神斗は普段と変わらぬ笑みを見せてはいるが、心中穏やかではなかった。
「神斗、お前も『呪法』に対しては、ある程度の知識を持っているだろう? 今この場でコイツを殺せば呪いが山に蔓延し、取り返しがつかない事になるぞ」
七耶咫は先程悟獄丸にも告げた事を、再び口にして神斗に伝えるのだった。
「だから? そんな呪いなどは発動と同時に、空間を切り離して『隔離』させてしまえばいいだけの事だろう? 私達ほどの領域に達していれば、単なる一方向にだけ影響を与える『呪い』など、いかようにも対処は可能で何も問題はない。それより……」
――お前は何だ?
大魔王エヴィの引き起こそうとした呪法と特異による『特別攻撃』に対して、単一方向の攻撃など問題ないと言い切った神斗だが、次の瞬間には悟獄丸と同様に本来の『七耶咫』と違うと看破して、お前は誰なんだと訊ねるのだった。
その神斗の問いかけに、七耶咫の瞳が揺れた。
そして彼女はほんの一瞬だけ迷う素振りを見せたが、その後すぐに笑みを浮かべるのだった。
「流石は『妖魔神』と呼ばれるだけはある。力や持っている強さだけに意識を向けているような連中であれば、気付かれぬに誤魔化せると思ったが、やはり主や悟獄丸には見破られてしまったか」
「そりゃ、そんな完成度の『魔力コントロール』を、いち妖魔が纏っていたら誰でもおかしいと思うだろう? それに先程の距離を一瞬で縮めて見せた移動は、一度だけ昔に見た事がある。確かそれを使ったのは『人間』だったか……――っ!?」
――僧全捉術、『移止境界』。
七耶咫が目を細めて視線を鋭くさせながら神斗を睨みつけただけで、何の前触れもなく術が発動させられた。
――しかし、神斗の『透過』によって強引に内側からイジられて、術の効果が発揮されずにそのまま消失されてしまうのだった。
「私を舐めるなよ? 君が何者なのかは知らないが、そんな子供だましの『魔』の影響など、この私が受けるものか」
――『魔』の概念とは、非常に幅が広く奥が深いものである。
たかが千年や、二千年程度着手したくらいでは『魔』の全てを理解する事はまず不可能である。
その膨大な程の組み合わせから、才のある者でさえ幾重にも成り立つ『魔』の概念、そのほんの僅かなモノだけしか理解が及ばない。
大魔王フルーフや、大賢者エルシスといった一つの『理』を生み出した『魔』の化け物と呼ばれる者達でさえ、幾重通りに存在する『魔』の概念の一部を解き明かして、一般的なものへと『式』を世界に提示して『魔』の概念のほんの一部を分かりやすく翻訳を行ったに過ぎない。
『魔』の概念の中にある『透過』技法その一つでさえ、完全に理解するのに膨大な時間を要する。
イダラマという一人の人間が決して少なくない時間を要して『魔利薄過』という『防御』に特化したものを生み出したが、それすらも対処を行える技法は数多く存在し、更にはそのイダラマの『魔利薄過』の先を行く『エヴィ』の『透過』技法、そして更にその対処を行ってみせた『神斗』の『透過』技法が存在する。
このように『魔』の中であっても、一つの道を行き着くところまで突き詰めるにしても、人間の寿命では限界があるために、ある程度は妥協を行いつつ、別の『魔』の観点から自身の求める『魔』に行き着くように妥協を重ねながら自らを納得させなくてはならない。
そういう意味ではイダラマという『人間』は、この『魔』の求道者の中では限りなく成功を収めた方ではあるが、それでも寿命が更に長い『妖魔』に『透過』という分野では追いつく事が出来なかった。
当然、これは神斗という妖魔が『透過』という面において研鑽を積み重ねてきた事による結果であり、これが同じように寿命が長い妖魔であっても、神斗程に『透過』の研究を修めて居なければ、人間であるイダラマの方が優れた結果を残すだろう。
いずれにしても『魔』の中の一つの事であっても、完璧に追及しようとすれば相応の時間を要するものであり、寿命が長い種族であればある程に、有利不利は如実に結果として残る。
この『魔』の観点に絞った上での考えではあるが、種族による寿命を覆せるとするのならば、それは人知を超えた叡智の源を司る存在でなければ覆す事は難しいだろう。
そして寿命もさることながら、この『魔』の概念に於いて同じ種族、同じ妖魔の中であっても他の追随を許さぬ程に研鑽を積み重ねてきた『神斗』は、概念の一つである『透過』に留まらず、あらゆる『魔』の根本となる理念を心得ている為、自分より秀でた分野の『魔』の概念を示されようとも、彼は瞬時に思想の『式』を独自に描いて追跡を行い、その研鑽を収めた者の答式を共感する事で理解して自らの糧とする事を可能とする。
先程、七耶咫の姿をした存在が用いた空間を狭めるかのような移動法を用いたが、これは本来はあり得ない事象であり、明らかに『魔』の概念が用いられていた。
それを見た神斗が、この七耶咫に対して『過去に一度使っている人間を見た事がある』と口にした。
つまり『魔』の概念に対して独自の理念を持つ彼は、この未曾有の『魔』の移動法に対しても既に対処を終えているという事と同義であり、他の存在が同じ技法を用いた場合には、普通に足を使って歩く事と同じようなモノとして考えて対処を行う。
このように気が遠くなる程の時間を『魔』に費やしてきた『神斗』にしてみれば、今を生きる短い『寿命』に縛られた『人間』が用いる『魔』の技法は、一切合切の全てが過去に自分自身が辿ってきた探求の代物である。
――完全に彼を出し抜く程の『概念』は、それこそこの世界にはない『魔』の技法を繰り出すしかないだろう。
「やれやれ……。どうやら悟獄丸という『妖魔神』は独自の感性や感覚で『魔』を利用しているに過ぎないようだが、お前は『魔』というモノを完全に理解して、その気が遠くなる程の膨大な知識を少しずつ紐解いて、己の力として役立てているようだ。この世界のバランスが崩壊する程の『呪法』を前に焦ってしまい、些か表舞台に出るのは急ぎ過ぎたようだ」
七耶咫の存在をした何かは、目の前に居る『妖魔神』の居る『魔』の高みを知り、やり合うには不利とまではいかずとも時間を使わされると判断したようで、この場で大きく溜息を吐くのであった。
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