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妖魔山編
1675.護衛の役目を全うする者達
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「どうやらようやく、あの小僧も終わりのようだな。しかしよ、まさかここまでやれる奴だとは思わなかったぜ。お前もそう思うだろう?」
悟獄丸は妖魔山の頂の上で、隣に居る七尾の妖狐の『七耶咫』にそう告げる。
「……」
悟獄丸に話し掛けられたというのに、七耶咫は一切返事をしない。
本来であれば『妖魔神』である『悟獄丸』に対して、恭しい態度を取る筈の『七耶咫』が先程からおかしい。
一度目の時は行われている戦闘に集中しての事だと悟獄丸は渋々納得をしたが、今回は間違いなく聴こえている筈なのである。
「おい、さっきからどうした?」
「……」
――だが、何度悟獄丸が七耶咫に声を掛けようとも彼女からの返事はなく、無表情でひたすらに遠くの空に居るエヴィを見続けているのみであった。
……
……
……
そして『魔力枯渇』を引き起こしかけているイダラマの元に、アコウやウガマといった護衛達が辿り着くと、直ぐにこの中で一番大男であったウガマが、立ち眩みを起こしたようにふらふらと動いているイダラマを担ぎ上げるのだった。
「ひ、ひとまずはコウエン殿のところまで戻り、合流を果たした後に山を下りてしまいましょう!」
ウガマがイダラマを運ぶ準備が整った後、傍に寄っていたアコウがそう口にするのだった。
「あ、ああ……。わ、悪いが後を……、たのっむ」
そう告げてイダラマの瞼が閉じられていく。どうやらもう限界だったようだ。あれだけ『魔利薄過』を長時間用いて戦っていたのだ、当然ともいえた。
「し、しかしアコウ殿、まだ我々が入ってきた木の方にはまだ、悟獄丸と名乗っていた『妖魔神』が居ますが……!」
「し、然り! それにその傍にもまだ『妖狐』の存在もあります。このまま来た道を引き返すのも危険では?」
護衛の退魔士達は、意識が混濁して虚ろな目になっているイダラマに視線を向けた後、次にこの場の決定権を持っているであろう『アコウ』と『ウガマ』の両名に進言するように伝え始めるのだった。
「そんな事は百も承知だ。しかしここに残っていたところで問題は解決しない。それどころか今を逃せばエヴィもまたあの『神斗』と名乗っていた妖魔にやられて更に窮地に陥るだけだろう。それならば敵が少ない今の内にイチかバチかでも山を下った方がよいと俺は思うが?」
アコウが何処か諭すように提案を行った退魔士に言うと、意識を失ったイダラマを背負ったウガマが続ける。
「ああ。俺達の役目はイダラマ様の護衛だからな。イダラマ様が助かる確率が高い方を選ぶ。先立ってはアコウよ……」
「ふぅ……、分かってる。だが、相手は『妖魔神』と少なく見積もってもランクが8.5より上の『妖狐』なんだ。稼げる時間など無に等しいだろう。期待だけはするなよ?」
「分かっている。少なくともこのまま入り口に向かって突っ込むような馬鹿な真似はしない。だが、お前の稼ぐ貴重な時間でこの場から離脱はしてみせる」
「ああ……。ウガマ、頼んだぞ?」
「任せろ」
アコウとウガマだけのやり取りが進んでいくが、他の護衛の退魔士達は要領を得る事が出来ずに顔を見合わせて、首を傾げるのだった。
そんな退魔士達に刀を抜いた『アコウ』が口を開いた。
「よし。お前達、よく聞け。俺がここで奴らの注意を引き付ける。その間にウガマと共に山を下りろ。悪いが、ここから先はお前達の『結界』が頼りとなる。一秒でも長く見つからぬように上手くやってくれ」
「は……、はっ!? そ、それでは、アコウ様は……?」
「俺は護衛の本分を全うする。俺達はイダラマ様の護衛だからな」
「お、お待ちください! それならば我々もイダラマ様の護衛です!」
「駄目だ、お主らはイダラマ様を抱えているウガマを助けてやってくれ。お主らは『妖魔召士』ではないが、俺達には扱えない『結界』を扱うだけの『魔力』もある。僅かでも『結界』の維持に努めて山を下りるんだ、それはここに残るよりも余程に意味がある事だ」
アコウの言葉には、他者に有無を言わさないだけの力があった。やがて退魔士達は、そのアコウの言葉と視線に折れるのだった。
「わ、分かりました……」
提案を口にしていた退魔士は、アコウの話に納得して頷いて見せた。
「他の者達もそれでいいな? お主らはイダラマ様がお認めになって直々に雇った護衛達だ。その力をイダラマ様の為に使ってくれ」
この場に居た護衛の退魔士達は、そのアコウの言葉を聴いてウガマの背で意識を失っているイダラマの姿を一瞥すると、決心したようにアコウに頷いて見せるのだった。
「よし……。あいつらはまだ、エヴィ達に意識を向けている。今の内に行け!」
「「御意!」」
退魔士達はその声に悟獄丸の居る方向とは、逆の方向へと駆け出していく。
「アコウ! お前とは色々あったが、最後に志を共に出来たことを誇らしく思うぞ!」
「ふっ、イダラマ様を頼んだぞ、ウガマ」
――互いに笑みを向け合うと、最後の会話を終える。
そしてそのまま大男のウガマは、イダラマを背に抱きながら退魔士達の後を追うのだった。
サカダイの町で本部付けの『予備群』であった頃、最大のライバルであった『ウガマ』と最後の会話を交わした『アコウ』は、鮮やかな『青』を刀に纏わせ始める。
そのアコウの『魔力』に気づいた『悟獄丸』は、理解が出来ないとばかりにアコウを一瞥した後、ここから去って行くその背後の者達を眺めて口を開いた。
「何だ? 仲間がやられそうになったから逃げようって算段か?」
『天色』を纏って戦力値が大幅に上昇していくアコウを見て、仕方ないとばかりに悟獄丸もエヴィ達からアコウの方へと身体を向き直るのだった。
……
……
……
悟獄丸は妖魔山の頂の上で、隣に居る七尾の妖狐の『七耶咫』にそう告げる。
「……」
悟獄丸に話し掛けられたというのに、七耶咫は一切返事をしない。
本来であれば『妖魔神』である『悟獄丸』に対して、恭しい態度を取る筈の『七耶咫』が先程からおかしい。
一度目の時は行われている戦闘に集中しての事だと悟獄丸は渋々納得をしたが、今回は間違いなく聴こえている筈なのである。
「おい、さっきからどうした?」
「……」
――だが、何度悟獄丸が七耶咫に声を掛けようとも彼女からの返事はなく、無表情でひたすらに遠くの空に居るエヴィを見続けているのみであった。
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そして『魔力枯渇』を引き起こしかけているイダラマの元に、アコウやウガマといった護衛達が辿り着くと、直ぐにこの中で一番大男であったウガマが、立ち眩みを起こしたようにふらふらと動いているイダラマを担ぎ上げるのだった。
「ひ、ひとまずはコウエン殿のところまで戻り、合流を果たした後に山を下りてしまいましょう!」
ウガマがイダラマを運ぶ準備が整った後、傍に寄っていたアコウがそう口にするのだった。
「あ、ああ……。わ、悪いが後を……、たのっむ」
そう告げてイダラマの瞼が閉じられていく。どうやらもう限界だったようだ。あれだけ『魔利薄過』を長時間用いて戦っていたのだ、当然ともいえた。
「し、しかしアコウ殿、まだ我々が入ってきた木の方にはまだ、悟獄丸と名乗っていた『妖魔神』が居ますが……!」
「し、然り! それにその傍にもまだ『妖狐』の存在もあります。このまま来た道を引き返すのも危険では?」
護衛の退魔士達は、意識が混濁して虚ろな目になっているイダラマに視線を向けた後、次にこの場の決定権を持っているであろう『アコウ』と『ウガマ』の両名に進言するように伝え始めるのだった。
「そんな事は百も承知だ。しかしここに残っていたところで問題は解決しない。それどころか今を逃せばエヴィもまたあの『神斗』と名乗っていた妖魔にやられて更に窮地に陥るだけだろう。それならば敵が少ない今の内にイチかバチかでも山を下った方がよいと俺は思うが?」
アコウが何処か諭すように提案を行った退魔士に言うと、意識を失ったイダラマを背負ったウガマが続ける。
「ああ。俺達の役目はイダラマ様の護衛だからな。イダラマ様が助かる確率が高い方を選ぶ。先立ってはアコウよ……」
「ふぅ……、分かってる。だが、相手は『妖魔神』と少なく見積もってもランクが8.5より上の『妖狐』なんだ。稼げる時間など無に等しいだろう。期待だけはするなよ?」
「分かっている。少なくともこのまま入り口に向かって突っ込むような馬鹿な真似はしない。だが、お前の稼ぐ貴重な時間でこの場から離脱はしてみせる」
「ああ……。ウガマ、頼んだぞ?」
「任せろ」
アコウとウガマだけのやり取りが進んでいくが、他の護衛の退魔士達は要領を得る事が出来ずに顔を見合わせて、首を傾げるのだった。
そんな退魔士達に刀を抜いた『アコウ』が口を開いた。
「よし。お前達、よく聞け。俺がここで奴らの注意を引き付ける。その間にウガマと共に山を下りろ。悪いが、ここから先はお前達の『結界』が頼りとなる。一秒でも長く見つからぬように上手くやってくれ」
「は……、はっ!? そ、それでは、アコウ様は……?」
「俺は護衛の本分を全うする。俺達はイダラマ様の護衛だからな」
「お、お待ちください! それならば我々もイダラマ様の護衛です!」
「駄目だ、お主らはイダラマ様を抱えているウガマを助けてやってくれ。お主らは『妖魔召士』ではないが、俺達には扱えない『結界』を扱うだけの『魔力』もある。僅かでも『結界』の維持に努めて山を下りるんだ、それはここに残るよりも余程に意味がある事だ」
アコウの言葉には、他者に有無を言わさないだけの力があった。やがて退魔士達は、そのアコウの言葉と視線に折れるのだった。
「わ、分かりました……」
提案を口にしていた退魔士は、アコウの話に納得して頷いて見せた。
「他の者達もそれでいいな? お主らはイダラマ様がお認めになって直々に雇った護衛達だ。その力をイダラマ様の為に使ってくれ」
この場に居た護衛の退魔士達は、そのアコウの言葉を聴いてウガマの背で意識を失っているイダラマの姿を一瞥すると、決心したようにアコウに頷いて見せるのだった。
「よし……。あいつらはまだ、エヴィ達に意識を向けている。今の内に行け!」
「「御意!」」
退魔士達はその声に悟獄丸の居る方向とは、逆の方向へと駆け出していく。
「アコウ! お前とは色々あったが、最後に志を共に出来たことを誇らしく思うぞ!」
「ふっ、イダラマ様を頼んだぞ、ウガマ」
――互いに笑みを向け合うと、最後の会話を終える。
そしてそのまま大男のウガマは、イダラマを背に抱きながら退魔士達の後を追うのだった。
サカダイの町で本部付けの『予備群』であった頃、最大のライバルであった『ウガマ』と最後の会話を交わした『アコウ』は、鮮やかな『青』を刀に纏わせ始める。
そのアコウの『魔力』に気づいた『悟獄丸』は、理解が出来ないとばかりにアコウを一瞥した後、ここから去って行くその背後の者達を眺めて口を開いた。
「何だ? 仲間がやられそうになったから逃げようって算段か?」
『天色』を纏って戦力値が大幅に上昇していくアコウを見て、仕方ないとばかりに悟獄丸もエヴィ達からアコウの方へと身体を向き直るのだった。
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