最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
1,657 / 1,982
妖魔山編

1640.サカダイの町で行われる、最後の会議

しおりを挟む
「ヌー殿達が言う通り、我々がやるべき事は変わらない。明日、予定通りにソフィ殿の力を借りて『ゲンロク』殿達の里へ向かい、そのままコウヒョウ入りを果たした後に『妖魔山』へ向かうとしよう」

 シゲンの言葉に全員が神妙に頷いた。

「では改めて確認を行わせて頂きます。当初の予定ではシゲン総長に私、そして組長格で『禁止区域』まで向かい、副組長を含めた幹部の者達を中腹付近で駐屯という話でしたが、前回の襲撃の件を考慮して各組の副組長以下、特務を含めた隊士はこの『サカダイ』の町の警備にあたって頂きます」

 ミスズはそう告げるとその場に居る者達を見渡して、質問などがないかを確認した後、更に言葉を続けた。

「それでは次に移ります。まず我々は『ゲンロク』殿達『妖魔召士』組織とは違い、妖魔山に入ったことがありません。その為にまずは足場を固める意味を込めて、麓から中腹までを中心に調査を行いたいと思っています。そこで前回にも話をした通りに『鬼人』の集落を目指し、百鬼なきり殿の同胞の情報を集めたいと思います」

 ソフィ達から得た情報では、百鬼の同胞である『動忍鬼どうにんき』は自由の身になった後、人里を襲撃しようと『ケイノト』へ向かおうとしていた様子だったが、ソフィとの別れ際の様子を見るに大人しく『妖魔山』へ戻っただろうという話であった。

 つまりは『妖魔山』で戻ってきているかどうかの確認を行う意味を込めて、中腹付近までにあるとされる『鬼人』の縄張りにある彼らの集落に向かう事が最善だという判断に至ったのである。

「貴方達の目的を考えれば、少し遠回りになるかもしれぬが宜しく頼む」

 百鬼はそう言って立ち上がると、皆に頭を下げるのだった。

「百鬼殿、頭を上げて下さい。我々組織の今後の事を考える上で、貴方の集落へ向かう事はとても重要な事であり、最初に申し上げた通りに『妖魔山』の調査を行う為には必要な事なのです」

 申し訳なさそうに頭を下げた百鬼に、調査を行う上で『鬼人』の棲み処に向かう事は好都合な事なのだと、説明を行うミスズであった。

 決してこれは百鬼を思っての発言というわけではなく、これまで『妖魔召士』組織が管理していた『妖魔山』を『妖魔退魔師』組織が担う事となる為、一から調べる事は当然であり必要な事だと、この場の者達に対しても示した形であった。

「かたじけない」

 百鬼なきりは下げていた頭を戻すと改めて笑みを見せながら、ミスズに感謝の言葉を告げるのだった。

百鬼なきり殿、もし貴方の同胞が集落に戻っていなければ、いつでもこの『サカダイ』の町を拠点にして頂いて結構ですからね。我々組織は貴方をいち『妖魔』としてではなく、組織の客分として扱う事に決めていますので」

 そのミスズの言葉に百鬼なきりは驚いた顔を見せる。そして他の妖魔退魔師の組長格の顔を見ると、キョウカがまず百鬼なきりに笑顔を向けて、スオウやヒノエも思うところはある様子ではあるが、嫌そうな顔を見せたり、反対するような言葉は一切発しなかった。

 ――彼らも『百鬼なきり』という鬼人の妖魔を『客分』と認めたという事だろう。

「恩に着る……!」

 百鬼なきりは『妖魔退魔師』という妖魔と敵対している筈の人間達の組織の言葉に、目頭を熱くさせながら再び感謝の言葉を告げるのだった。

。やはり人間とは他の種族と共存を行える種族なのだと再確認が出来た……!)

 そう考えた末に、自分の心が打ち震えている事に気づき、ソフィは満面の笑みを浮かべるのだった。

「それではソフィ殿、明日は申し訳ありませんが、お力をお貸し願います」

 笑みを浮かべているソフィが視界に入ったのだろう。ミスズは最後に彼にそう告げる。

「うむ、了解した。ゲンロク殿の里もコウヒョウとやらの町もいつでも移動は可能だ。我に任せるがよい」

 ソフィの返答にミスズとシゲンが感謝の言葉を口にして、改めて頭を下げるのだった。

 ――こうして『サカダイ』の町での『妖魔退魔師』組織との最後の会議が終わり、ソフィ達はサカダイの町に別れを告げて、明日あすから『妖魔山』へ向かう事となるのであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

眠り姫な私は王女の地位を剥奪されました。実は眠りながらこの国を護っていたのですけれどね

たつき
ファンタジー
「おまえは王族に相応しくない!今日限りで追放する!」 「お父様!何故ですの!」 「分かり切ってるだろ!おまえがいつも寝ているからだ!」 「お兄様!それは!」 「もういい!今すぐ出て行け!王族の権威を傷つけるな!」 こうして私は王女の身分を剥奪されました。 眠りの世界でこの国を魔物とかから護っていただけですのに。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

処理中です...