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妖魔山編
1623.諦観の末の妥協
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山の中腹付近を縄張りとしていた『天狗』達とのやり取りを終えた後、イダラマ達は頂上付近の『禁止区域』を目指し再び『妖魔山』を登り始めた。
「しかし見回りを行う白狼天狗を倒したくらいで、あんなに早く『座汀虚』や『帝楽智』が姿を見せるとは思わなかったな」
気を失っているエヴィを『アコウ』が背中におぶさって山を登っているため、イダラマはそれを慮って登る速度を緩めて代わりに仲間内での会話を多くはかろうとするのだった。
「まぁ、一時の事を思えば数自体も減っておるのかもしれぬが、あの場に『座汀虚』が現れた理由としては、お主や小僧が一介の見回りを行うような『天狗』では手も足も出ぬと判断した為だろうな。藪を突いて蛇が出るではないが、そんな『座汀虚』がやられてしまえば、他の天狗達では話にはならぬだろうからな」
確かに『帝楽智』が現れた時、同時に多くの『天狗』達も集まってきてはいたが、イダラマの目から見て彼ら『天狗』の大半は大した事のないように思えた。
かつての組織に属していた、若かりし頃のイダラマであれば、あの場に居た『帝楽智』以外の『天狗』を見ても非常に厄介だと思えた事だろう。
「天狗達は非常に聡い妖魔達だ。ましてや『帝楽智』ともなれば、天狗の『魔王』と呼ばれるような存在であり、妖魔達全体からみても上位の者達となる。そのような連中から見ればお主や小僧を一目見て強さを感じ取り、相手を配下達にさせぬわけにはいかぬと判断したのだろう」
「この私も気付かぬ内に、貴方にそのように言われるような立場となったというわけですか」
「ふんっ、そんな事はこのワシに直々に勝利した時点で分かっておっただろう。何とも厭味な奴じゃな」
どうやらイダラマの態度を見たコウエンは、遠回しに自分に勝った男が自慢をしたと映ったのだろう。
――だが、イダラマはこの時に至っても未だ、コウエンに勝利した事を含めて自分が強くなったと思うより、周りが自分のレベルにまで落ちてきたのだと考えていた。
(確かに多少はこの私も強くはなったのだろう。だが、それはあくまで私の編み出した『術』や『捉術』が優れていただけの事であり、源となる『魔力』や『戦力値』自体はコウエン殿が思うような強さを得ているというわけでもないだろう。こんなモノは結局一時的な強さに過ぎぬ。何より人間の『寿命』の前には限りというモノがあるのだ。この私程度がいくら力をつけたところで『サイヨウ』殿や『シギン』様のような規格外な存在になり得ることは有り得ぬだろう。だからこそ、私は私の編み出した『術』を以て、少しでも強き者達を従えて圧倒的な強者から一目置かれて、肩を並べられる存在になる事が重要なのだ!)
誰にも明かした事のないイダラマの大望とは、人の身で覆す事が難しい『寿命』という命題の中で、彼なりに強さを求めた結果、彼の想うところの『強き者』に認められる事こそが、終着点となる『野望』なのだろう。
奇しくもこの『寿命』という命題の前に、絶望の末に諦観してしまった『ヒュウガ』と同じ苦しみを過去にも『イダラマ』も味わい、そしてそれ故に彼なりに出した結論がこの『大望』だというわけであった。
彼の考える末に至った結論とは、多数の者達から見れば『何だそんなモノ』と、一蹴するような内容かもしれない。だが、彼にとってはそれこそが自分の生きている内に成し遂げたい唯一の命題である。
――諦観の末の妥協。
人とはどのような道を目指しても、何処かで必ず壁に出くわすものである。たまに乗り越えられる超人と呼ばれる者も一定数存在はしているが、それでもこの『寿命』というものだけは、決して覆す事が出来ない最後の『壁』である。
その壁を前にして如何に、自分の思い描いた理想と折り合いをつけて、自分自身が生きた証として納得できるモノを見つけられるかが人の抱く『命題』となる。
諦念を抱いた末に単に絶望して人生を終えるのか、はたまたそこから再び立ち上がり、第二の目標たるものを見つけてそれを目指しゴールする道を選ぶのか、その諦観の末の行動こそが重要なのだ。
余所から見ればその行いもまた『妥協』なのだと判断するかもしれないが、本人にとってみれば、その所詮は妥協と呼ばれる事であっても、生きる上で必要な意欲の高める元となる動機付けであり、大事な行動を起こすための目標であり、自身の全てを突き動かすために必要な燃料なのである。
――イダラマはこの大望を叶えるまで自分の道を進んでいくだろう。
他人にとっては大した事のないものであろうが、イダラマにとってはこの世の全てを天秤にかけてでも成し遂げたい『野望』だからである――。
こうしてイダラマはまた一つ、かつての『強者』であった『天魔』と呼ばれた天狗の頭領たる『帝楽智』を従える事に成功し、更にはかつての『強者』であった『コウエン』と共に、聳え立つ『山』を再び登り始めるのだった。
「しかし見回りを行う白狼天狗を倒したくらいで、あんなに早く『座汀虚』や『帝楽智』が姿を見せるとは思わなかったな」
気を失っているエヴィを『アコウ』が背中におぶさって山を登っているため、イダラマはそれを慮って登る速度を緩めて代わりに仲間内での会話を多くはかろうとするのだった。
「まぁ、一時の事を思えば数自体も減っておるのかもしれぬが、あの場に『座汀虚』が現れた理由としては、お主や小僧が一介の見回りを行うような『天狗』では手も足も出ぬと判断した為だろうな。藪を突いて蛇が出るではないが、そんな『座汀虚』がやられてしまえば、他の天狗達では話にはならぬだろうからな」
確かに『帝楽智』が現れた時、同時に多くの『天狗』達も集まってきてはいたが、イダラマの目から見て彼ら『天狗』の大半は大した事のないように思えた。
かつての組織に属していた、若かりし頃のイダラマであれば、あの場に居た『帝楽智』以外の『天狗』を見ても非常に厄介だと思えた事だろう。
「天狗達は非常に聡い妖魔達だ。ましてや『帝楽智』ともなれば、天狗の『魔王』と呼ばれるような存在であり、妖魔達全体からみても上位の者達となる。そのような連中から見ればお主や小僧を一目見て強さを感じ取り、相手を配下達にさせぬわけにはいかぬと判断したのだろう」
「この私も気付かぬ内に、貴方にそのように言われるような立場となったというわけですか」
「ふんっ、そんな事はこのワシに直々に勝利した時点で分かっておっただろう。何とも厭味な奴じゃな」
どうやらイダラマの態度を見たコウエンは、遠回しに自分に勝った男が自慢をしたと映ったのだろう。
――だが、イダラマはこの時に至っても未だ、コウエンに勝利した事を含めて自分が強くなったと思うより、周りが自分のレベルにまで落ちてきたのだと考えていた。
(確かに多少はこの私も強くはなったのだろう。だが、それはあくまで私の編み出した『術』や『捉術』が優れていただけの事であり、源となる『魔力』や『戦力値』自体はコウエン殿が思うような強さを得ているというわけでもないだろう。こんなモノは結局一時的な強さに過ぎぬ。何より人間の『寿命』の前には限りというモノがあるのだ。この私程度がいくら力をつけたところで『サイヨウ』殿や『シギン』様のような規格外な存在になり得ることは有り得ぬだろう。だからこそ、私は私の編み出した『術』を以て、少しでも強き者達を従えて圧倒的な強者から一目置かれて、肩を並べられる存在になる事が重要なのだ!)
誰にも明かした事のないイダラマの大望とは、人の身で覆す事が難しい『寿命』という命題の中で、彼なりに強さを求めた結果、彼の想うところの『強き者』に認められる事こそが、終着点となる『野望』なのだろう。
奇しくもこの『寿命』という命題の前に、絶望の末に諦観してしまった『ヒュウガ』と同じ苦しみを過去にも『イダラマ』も味わい、そしてそれ故に彼なりに出した結論がこの『大望』だというわけであった。
彼の考える末に至った結論とは、多数の者達から見れば『何だそんなモノ』と、一蹴するような内容かもしれない。だが、彼にとってはそれこそが自分の生きている内に成し遂げたい唯一の命題である。
――諦観の末の妥協。
人とはどのような道を目指しても、何処かで必ず壁に出くわすものである。たまに乗り越えられる超人と呼ばれる者も一定数存在はしているが、それでもこの『寿命』というものだけは、決して覆す事が出来ない最後の『壁』である。
その壁を前にして如何に、自分の思い描いた理想と折り合いをつけて、自分自身が生きた証として納得できるモノを見つけられるかが人の抱く『命題』となる。
諦念を抱いた末に単に絶望して人生を終えるのか、はたまたそこから再び立ち上がり、第二の目標たるものを見つけてそれを目指しゴールする道を選ぶのか、その諦観の末の行動こそが重要なのだ。
余所から見ればその行いもまた『妥協』なのだと判断するかもしれないが、本人にとってみれば、その所詮は妥協と呼ばれる事であっても、生きる上で必要な意欲の高める元となる動機付けであり、大事な行動を起こすための目標であり、自身の全てを突き動かすために必要な燃料なのである。
――イダラマはこの大望を叶えるまで自分の道を進んでいくだろう。
他人にとっては大した事のないものであろうが、イダラマにとってはこの世の全てを天秤にかけてでも成し遂げたい『野望』だからである――。
こうしてイダラマはまた一つ、かつての『強者』であった『天魔』と呼ばれた天狗の頭領たる『帝楽智』を従える事に成功し、更にはかつての『強者』であった『コウエン』と共に、聳え立つ『山』を再び登り始めるのだった。
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