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妖魔山編

1616.弱肉強食の世界

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「そこな人間、死にたくなければそこを退け。わらわの狙いは同胞に手を掛けたそこの小僧だけだ」

「おや、私達も彼と同様にこの『妖魔山』に乗り込んできた人間達なのだが、その言い分だと私達は許されるという事なのかな?」

 イダラマはエヴィを救出すべく、まずは話題をずらして自分のペースに持っていこうと考えたようであった。

「ふんっ、今の妾はこの『妖魔山』の管理者ではないのでな。お主らが妾の同胞を襲おうとしたり、縄張りを争うと目論んでいないのであれば後は妾は知らぬ、勝手にすればよい。だが、そやつは妾の大事な同胞達を殺めたのだ。何があろうとこの場で死んでもらう」

 どうやら『帝楽智ていらくち』は同じ『妖魔山』であっても、自分達の縄張りと同胞に関与しないという前提であれば我関さずを貫く『天狗』のようであった。

 彼女がこうしてエヴィの前に顕現した理由としては、同胞に手を出された事に対しての報復を行うためだけだったようである。

(ちっ! 見回りの『天狗』に見つからなければ、この『帝楽智』を敵に回さずにすんだものを。やはり早々に離れておればよかったか……!)

 ――イダラマの胸中で呟いた言葉は間違ってはいない。

 だが、間違ってはいないが、この山の中腹の顔である『天狗』達はその数も多く、一度も『天狗』達に見つからずに『妖魔山』の中腹を抜けることは現実的ではなかったであろう。

 この『妖魔山』の『禁止区域』に向かうのであれば、結局はつまるところ『座汀虚』や『帝楽智』を相手にせざるを得なくなっていた事は想像に難しくない。

 しかしイダラマの言い分としては、もう少し『麒麟児』が大人しくしていてくれたのであれば、もっと上手く立ち回ってみせて、この目の前の妖魔ランク『8.5』以上の存在にして『天狗の支配者たる魔王』の『天魔てんま』と呼ばれた『帝楽智』を敵に回さずにすんだかもしれないのにとばかりに後悔するのだった。

「麒麟児を見逃してくれないというのであれば、仕方あるまいて」

 何とか『帝楽智』との戦闘を避ける手立てはないものかと思案を行ったイダラマだが、どうやら彼の中でいい案は出ずに無理だと結論付けた様子であった。

 『結界』を自身の前に展開していた『イダラマ』だが、それとは別に両手に『魔力』を集約し始める。

「愚かな……。確かにそのお主の内包しておる『魔力量』を見るに、昔からこの『妖魔山』をうろちょろとしておる『妖魔召士』と呼ばれる一派で間違いはなかろうが、その程度では些か妾には及ばぬぞ?」

 今の『イダラマ』の状態を妖魔ランクで表すと良くて『8』。戦力値で換算するのならば『8800億』から『1兆』未満といったところであろう。

 それでも『先天性の贈り物』と呼ばれる『金色』や『妖魔退魔師』達や、目の前の『帝楽智ていらくち』が使っている『青』のオーラを纏わずしての結果なのだから相当なモノではあるといえる。

 それも前時代の『四天王』と呼ばれた『最上位妖魔召士』の『コウエン』すらも、一対一で勝負を決める程の強さを『イダラマ』は有している程である。

 ――だが、そうであっても懸念すべき事が存在しており、この『妖魔山』というところは常識が通用しない場所だという事を理解していなければならない。

 山の中腹以上に至れば、そこに居るのは高ランクの『妖魔』達であり、この場においては『天狗』を束ねる頭領たる『帝楽智』が強さの頂点に居るが、ここより更に山の上『禁止区域』に至る場所であれば、この『帝楽智』であってもまず近寄る事はしない。

 『妖魔山』内での摂理というモノを知らない者から見れば、それは『臆病』だとか『日和っている』という言葉が飛び出すかもしれないが、この『妖魔山』では常に自分より強い者が居ると思って行動をとる事こそが重要であり、危ない場所に自ら赴き、命を投じるような真似をする者こそが『馬鹿者』と揶揄されて扱われる。

 つまり里では『最上位妖魔召士』として扱われていた『イダラマ』程の『存在』であっても、この『妖魔山』の中では目の前に居る『帝楽智』にさえ『魔力値』では劣り、確実に勝てるだろうと『帝楽智』に思われてしまっているからこそ、この場に彼女は姿を現しているのであった。

 そんな彼女は自身の同胞である『座汀虚ざていこ』や『天狗』達を直接手を下した『エヴィ』を許すつもりはないが、自分達の縄張りに手を出そうとしなければ、別に『イダラマ』やこの場に居る他の者達には手を出すつもりはなかったのである。

 しかしこうして『イダラマ』が天狗の頭領である『帝楽智ていらくち』の報復対象を庇い、盾になろうとした事で『帝楽智』に『イダラマ』達もまた『仇名す者』として『目標の修正』が行われてしまうのだった。

 ……
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