最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
1,618 / 1,985
妖魔山編

1601.大魔王による魔力吸収の地に対する考察

しおりを挟む
 ソフィの今回の検証に対しての結びとなる言葉を聞いた事で、大魔王ヌーは釈然とせず、苛立ちを覚えてしまうのだった。

(ちっ! 軽い気持ちでついてくるんじゃなかったぜ! この『化け物』は一体何なんだ!? 今回のように別世界の『ことわり』同士を理論的にではなく、直感的に混ぜ合わせる事を可能にして『魔法』を独自に進化させたかと思えば、今度は知りもしない筈の世界の『ことわり』を自動的に反射させた挙句、更に俺でも知り得ねぇ『魔法』の進化を本人が気付かぬ内に体現させるなどと、そんな事を『いち魔族』が可能と出来るものなのかよ!?)

 大魔王ヌーはもう『ソフィ』が自身と同じ単なる『魔族』ではなく、全く異質のナニかではないかと考え始めるのだった。

 ――そのヌーが感じ取った異質のナニかとは、具体的にいえば彼の隣に立つ『力の魔神』のような、神格を有するような『神々』の存在の事である。

 最早、ソフィという存在は『最強の魔王』という言葉で一括り出来る範疇に収まっているとは思えず、いずれは世界そのものを創造、もしくは再構築を可能とすらしそうだと、現実主義といえるヌーにさえ、空想家の理念を抱かせてしまうのであった。

 今後ソフィが『世界の根幹を少しだけ変えてみようと思う』とか言い出し始めて、世界の在るべき姿を捻じ曲げてしまったとしても、ヌーは驚きはしても信用をしてしまいそうだと、あまりに荒唐無稽な想像をして更に苛立ちを募らせると共に、彼は新たな感情として『焦り』を覚え始めるのだった。

 今の彼はもう『最強』の存在である大魔王ソフィを上回る事以外に、興味が失せてしまっている。

 それは一つの世界の支配などでは、もはや満足が出来ない程までに、自分が力を手にしているという事を自覚してしまっているのである。

 他の『魔神級』に達していない大魔王領域の『魔族』達から見れば、それは考えられない事かもしれないが、もう『魔神級』として立派に胸を張れる程の強さを手にしているヌーは、大魔王領域に居る『魔族』が支配する世界程度であれば容易に奪い取り、その世界の幾万の軍勢が報復を行うために自分に向かってきたとしても、その全てを返り討ちに出来るだろうという自信が生まれてしまっている。

 そしてそれは自惚れや慢心といった、自分の力を過信してしまっているという事でもない。本当の意味で今のヌーは『魔神級』に到達した『魔族』と呼べる存在となっているのである。

 そんな彼にとっては、大魔王ソフィを乗り越える事こそが、彼が唯一達成感を感じられる事なのである。

 しかしそんな越えるべき壁であり、成し遂げる目標である大魔王ソフィは、どんどんと自分の手の届かないところに向かっている。

 元々ソフィが強いという事は理解しているが、ここにきて更に強くなるところを目の当たりにしてしまい、彼は非常に焦り始めているのであった。

(ここで諦めたら二度と追いつけなくなる……! てめぇが何処まで強くなりやがろうと絶対に逃さねぇよ!)

 大魔王ヌーは焦りを抱きながらも、決して諦める事をせずに乗り越えてやろうと気を引き締め直すのであった。

「すまぬな、ミスズ殿。時間を取らせてしまったようだ」

「えっ? いえいえ、とんでもない!」

 ソフィがそう口にすると、訓練場の入口で茫然と眺めていたミスズが意識を戻すと、慌ててソフィに言葉を返すのであった。

 彼女は少しだけソフィの様子を見届けようとしていただけだったのだが、結局は最後までこの場で見届けてしまっていた。如何に自分がソフィに対して興味を抱いているかを自覚したのだった。

「では私はこれで失礼をします。部屋を出る時もそのまま『特務』の者達に知らせずに退室して頂いて結構です! それではまた『コウエン』殿達の足取りが分かりましたら、改めてお伝えしますので!」

 そしてミスズはソフィ達にそう告げると、足早にその場を去っていった。

「ふむ。忙しい時に頼んで申し訳なかったな……」

「まぁ、理由は別にあるんだろうがな」

 急いで戻っていくミスズの後ろ姿を見ながらソフィがそう告げると、ヌーはミスズの心境に見覚えがあるのか静かにそう口にするのだった。

 ソフィとヌーが会話をしている横でセルバスは、じっとソフィの『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』の張っていた場所を見つめていた。

(旦那の進化した『死の結界アブソ・マギア・フィールド』の効力は、相手が『結界』の影響下で『魔』を行使する事でその術者の『魔』の効果を完全に打ち消し、そしてその術者が行使した『魔』に必要な『魔力』分を吸い取り、更にはその『魔』の効力をそっくりそのまま相手に跳ね返す。ここまでがどうやら本来の『死の結界アブソ・マギア・フィールド』の進化の結果なのだろう。あくまで最後のヌーの『ヨールゲルバ』の世界の『ことわり』を使った『魔法』から新たな進化を遂げた『魔法』は、一過性の現象と捉えるべきだろうな。次にヌーがこの『死の結界アブソ・マギア・フィールド』中で『揺煌三河口ディスターブ・エスチュアリー』を使役したとして、同じ効力を持つのかどうかは未確定だろう。むしろ旦那のその時の『魔力値』に影響して効力が発揮される可能性が高いな)

 大魔王セルバスは自身の本来の『魔力』が戻ったことで、これまで以上に『魔』に対する考察が捗った様子であった。

 彼は本来『煌聖の教団こうせいきょうだん』の中でも『魔』に対しては一際執着心を持つ『魔族』であり、エルシスやフルーフ程までに『魔』に対して追随を許さないというわけではないが、単なる『大賢者』階級程であれば、知識の上でも上回る程に『魔』に精通している。

 そんな彼は本来の『魔力』を手にした事で、自分ならばあの『魔法』を使う時にどれくらいの分量を用いればよいか、そして他者が用いる『魔法』の『発動羅列』を見ただけで、その世界の『ことわり』の完成度が如何程までに成立しているかをある程度把握する事が可能なのであった。

 セルバスはソフィの一連の検証を省みて、もう一度発動した場合にどういう結果を齎すか、ヌーと同様に予測立てて影響などを考察するのであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...