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妖魔山編
1596.本音と建前
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イダラマとコウエンが互いに気持ちを新たにした後、ようやく目を覚まして起きたエヴィを迎え入れる。
彼は明朝にあれだけの事を『コウエン』に告げたというのに、全く気にしていない様子で早く行こうと口にするのであった。
このエヴィという『魔族』とは出会った時から掴みどころのない小僧だと考えていたコウエンだが、今もその考えを改めるどころか、むしろ余計に分からなくなってしまうのであった。
そしてもうコウエンは、無理に関わろうという考えは抱かなかった。たとえ『妖魔』達がエヴィを襲おうとしても、無理に助けようとは考えていない。
あんな風に告げられたのであれば、それは当然の事であるといえた。
むしろいつ攻撃が行われるか分からない以上、これまで『妖魔山』で遭遇してきた『妖魔』よりも余程に警戒しなければならない敵である。
だが、確かに味方である内は心強いのも確かであり、イダラマが居なければ『禁止区域』に向かう事すら諦めていたために、仕方なくエヴィとの歪な協力関係は続けざるを得ないだろう。中腹に向かう途中の山の中で、静かにコウエンは『同志』達の前で溜息を吐くのであった。
「見られているな」
「そうなの? 君の『結界』のおかげで何も分からないや」
イダラマの警戒する視線とその言葉に、いち早くエヴィが反応するのだった。
本来であれば『エヴィ』は行動を共にする者とはいっても、こうして自身の『魔力感知』や『魔力探知』を阻害されることを良しとしないが、彼はイダラマだけは別であると考えているらしい。
どうやらこれまでの『ノックス』の世界で行動を共にした事で、エヴィはイダラマのやる事に懸念を抱くような間違いは起こさないだろうという信頼が築けているようだった。
そしてそれは『アレルバレル』の世界出身の『魔族』にしては、非常に珍しい事だともいえるのだった。
常に襲われる可能性のある『魔界』で、自分で周囲の索敵が行えない状況でへらへらと笑っていれば、即座に死が待っているからである。
しかしコウエンは二人の会話を傍で聴いていて『エヴィ』の言葉を真に受ける事なく、白々しいとさえ考えていた。
(確かにこの『結界』の中であれば、小僧は遠く離れた場所に居る連中までは『感知』を行えないであろうが、精々がこの距離であれば小僧も勘付いておったろうに……。やはりこやつを信用するのは危険じゃな)
エヴィの発言を真に受ければ痛い目を見るだろうと、コウエンはその痛い目を見る前に意識付けを行うのであった。
「それで、どうするの?」
『妖魔山』の中腹付近という危険な場所でエヴィは、まるで何事でもないかの如く頭の後ろで手を組みながら余裕たっぷりにイダラマにそう訊ねるのだった。
「同じ山の中とはいっても、私の張っている『結界』に気づける程の『妖魔』だ。気付いた時点で襲ってこないという事はそれなりに知恵も回るのだろう。こちらとしてもこんなところを目的としているわけではないからな、このまま視線を無視して上へ登ってしまおう」
イダラマの言葉に嘘はないが、本音をいえば真意は別のところにあった。
彼はエヴィとそれなりに行動を共にしてきた事で、今のエヴィは少しばかり暴れたそうにしていることや、昨夜『コウエン』に対して告げた言葉を省みて、この視線の先の『妖魔』達を相手にしようと考えている筈である。
――イダラマとしてはこの中腹付近ではまだ、大掛かりな戦闘は避けたいと考えている。
何故ならもう少し登れば山の中腹付近を縄張りとしている高ランクの『天狗』達が、姿を見せ始めてしまう事が容易に想像が出来るからであった。
『天狗』は『妖魔山』の中でも影響力を持つ『妖魔』である。
ここで争えば次から次に『妖魔』達が集まってきて『結界』を張っている意味が全くなくなってしまう。
『天狗』はそこまで好戦的ではないが、自分達に被害が及ぶと考えれば直ぐに持ち得る全ての手札を切って障害を排除しようと行動してくるだろう。
――そうなれば少々面倒な事になってしまう。
これが『妖魔山』だけの中の問題だけであれば、イダラマも致し方なしと判断して戦闘を行う事を由とするが、今は『サカダイ』の襲撃を食い止めた者の『存在』があるのだ。
コウエンの『同志』達、あの『サクジ』を含めた前時代の『妖魔召士』の一斉襲撃に対して、僅かな時間で完全に制圧してしまい、あれ程の膨大な『魔力』を持つ者であれば、この『妖魔山』での戦闘であっても直ぐにこちらに気づいて向かってきてしまうだろう。
そうなれば『エヴィ』の存在が明るみになるのも時間の問題になってしまう。
これまでのエヴィの話の中に出て来る『ソフィ』という存在が、実際にこの世界に居ると考えれば、十中八九『サカダイ』の襲撃を止めた者こそが『ソフィ』である事は想像に難くない。
――別世界というものが本当にある事は『麒麟児』の存在が証明している。
そうであるならば、同じ世界の存在だった者が、彼と同様にこの世界に訪れるという事も十分に考えられるのあである。
つまり、ここで『結界』に綻びが出るような事は、出来得る限り避けるに越したことはない。
彼は自分の目的の達成のためには些細な問題であっても、後々に響いてくる可能性のある事は、潰したいと考えているのであった。
彼は明朝にあれだけの事を『コウエン』に告げたというのに、全く気にしていない様子で早く行こうと口にするのであった。
このエヴィという『魔族』とは出会った時から掴みどころのない小僧だと考えていたコウエンだが、今もその考えを改めるどころか、むしろ余計に分からなくなってしまうのであった。
そしてもうコウエンは、無理に関わろうという考えは抱かなかった。たとえ『妖魔』達がエヴィを襲おうとしても、無理に助けようとは考えていない。
あんな風に告げられたのであれば、それは当然の事であるといえた。
むしろいつ攻撃が行われるか分からない以上、これまで『妖魔山』で遭遇してきた『妖魔』よりも余程に警戒しなければならない敵である。
だが、確かに味方である内は心強いのも確かであり、イダラマが居なければ『禁止区域』に向かう事すら諦めていたために、仕方なくエヴィとの歪な協力関係は続けざるを得ないだろう。中腹に向かう途中の山の中で、静かにコウエンは『同志』達の前で溜息を吐くのであった。
「見られているな」
「そうなの? 君の『結界』のおかげで何も分からないや」
イダラマの警戒する視線とその言葉に、いち早くエヴィが反応するのだった。
本来であれば『エヴィ』は行動を共にする者とはいっても、こうして自身の『魔力感知』や『魔力探知』を阻害されることを良しとしないが、彼はイダラマだけは別であると考えているらしい。
どうやらこれまでの『ノックス』の世界で行動を共にした事で、エヴィはイダラマのやる事に懸念を抱くような間違いは起こさないだろうという信頼が築けているようだった。
そしてそれは『アレルバレル』の世界出身の『魔族』にしては、非常に珍しい事だともいえるのだった。
常に襲われる可能性のある『魔界』で、自分で周囲の索敵が行えない状況でへらへらと笑っていれば、即座に死が待っているからである。
しかしコウエンは二人の会話を傍で聴いていて『エヴィ』の言葉を真に受ける事なく、白々しいとさえ考えていた。
(確かにこの『結界』の中であれば、小僧は遠く離れた場所に居る連中までは『感知』を行えないであろうが、精々がこの距離であれば小僧も勘付いておったろうに……。やはりこやつを信用するのは危険じゃな)
エヴィの発言を真に受ければ痛い目を見るだろうと、コウエンはその痛い目を見る前に意識付けを行うのであった。
「それで、どうするの?」
『妖魔山』の中腹付近という危険な場所でエヴィは、まるで何事でもないかの如く頭の後ろで手を組みながら余裕たっぷりにイダラマにそう訊ねるのだった。
「同じ山の中とはいっても、私の張っている『結界』に気づける程の『妖魔』だ。気付いた時点で襲ってこないという事はそれなりに知恵も回るのだろう。こちらとしてもこんなところを目的としているわけではないからな、このまま視線を無視して上へ登ってしまおう」
イダラマの言葉に嘘はないが、本音をいえば真意は別のところにあった。
彼はエヴィとそれなりに行動を共にしてきた事で、今のエヴィは少しばかり暴れたそうにしていることや、昨夜『コウエン』に対して告げた言葉を省みて、この視線の先の『妖魔』達を相手にしようと考えている筈である。
――イダラマとしてはこの中腹付近ではまだ、大掛かりな戦闘は避けたいと考えている。
何故ならもう少し登れば山の中腹付近を縄張りとしている高ランクの『天狗』達が、姿を見せ始めてしまう事が容易に想像が出来るからであった。
『天狗』は『妖魔山』の中でも影響力を持つ『妖魔』である。
ここで争えば次から次に『妖魔』達が集まってきて『結界』を張っている意味が全くなくなってしまう。
『天狗』はそこまで好戦的ではないが、自分達に被害が及ぶと考えれば直ぐに持ち得る全ての手札を切って障害を排除しようと行動してくるだろう。
――そうなれば少々面倒な事になってしまう。
これが『妖魔山』だけの中の問題だけであれば、イダラマも致し方なしと判断して戦闘を行う事を由とするが、今は『サカダイ』の襲撃を食い止めた者の『存在』があるのだ。
コウエンの『同志』達、あの『サクジ』を含めた前時代の『妖魔召士』の一斉襲撃に対して、僅かな時間で完全に制圧してしまい、あれ程の膨大な『魔力』を持つ者であれば、この『妖魔山』での戦闘であっても直ぐにこちらに気づいて向かってきてしまうだろう。
そうなれば『エヴィ』の存在が明るみになるのも時間の問題になってしまう。
これまでのエヴィの話の中に出て来る『ソフィ』という存在が、実際にこの世界に居ると考えれば、十中八九『サカダイ』の襲撃を止めた者こそが『ソフィ』である事は想像に難くない。
――別世界というものが本当にある事は『麒麟児』の存在が証明している。
そうであるならば、同じ世界の存在だった者が、彼と同様にこの世界に訪れるという事も十分に考えられるのあである。
つまり、ここで『結界』に綻びが出るような事は、出来得る限り避けるに越したことはない。
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