最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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妖魔山編

1587.愉悦と共に得る新たな力

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 ソフィが『サカダイ』の町の『一の門』の前に辿り着くと、直ぐに見張りの『予備群』が集まってきた。

「な、何事かと思いましたが、ソフィ殿でございましたか!」

「い、いやはや……! 話には聞いておりましたが、本当に空を飛んで移動が行えるのですね……」

 『妖魔退魔師』組織の本部付けの『予備群』達は、ソフィの『高等移動呪文アポイント』で実際に鳥のように自由に大空を飛んでこの場所へきた事に驚きと感動を覚えて、そう早口で捲し立てるのだった。

「大事な任務中に驚かしてすまぬ。代わりといっては何だが、ここから一番近くの『旅籠町』までの距離で、こちらに向かってくる存在は何も居らぬから、安心するがよいぞ」

「は……? は、はい?」

「そ、そのような事が『妖魔召士』の方々でもないのに、お分かりになられるのですかっ!?」

「クックック! まぁ、直ぐに信じろといっても信じられる事ではないだろうからな。あくまで情報の一つとして受け取っておいてくれればよい。それで、中に入っても良いだろうか?」

「あ、は、はい! す、直ぐに門を開きますので、もう少しだけお待ちください!」

「長々とすみませんでした!」

 ソフィは彼らの自分を見る目が、かつての『リラリオ』の冒険者ギルドに居た人間達と同じだったものに気付き、少し嬉しそうに口元を緩めながら、予備群達が門を開ける様子を眺めるのだった。

 ……
 ……
 ……

 そして門が開かれた後、ソフィが町の中へと入っていく後ろ姿を見て、門の中で見張りを務めていた予備群達が、先程ソフィと会話をしていた門前の隊士の元へと駆け寄っていく。

「お、おい! 先程ソフィ殿と何を話していたのだ?」

「ず、ずるいぞ! 妖魔退魔師の方々を全員生き返らせた『奇跡の英雄』殿と直に会話が出来るなんて!」

「ははははっ! 運が悪いと思って諦めるんだな! なぁ?」

「ふふふっ、そうだな。門の中の温かい場所に居る方が悪いんだ」

「ちぇっ……!」

 襲撃を行った『妖魔召士』達を見事に撃退し、奇跡の『力』で仲間や同志達を蘇らせた者として、彼ら『予備群』や『妖魔退魔師』衆達の間でソフィは『奇跡の英雄』と呼ばれているようであった。

 そんな風に思われている事など露ほどにも知らないソフィは、少しは余所者である自分が受け入れられ始めたのだろうかと考えて、ニコニコと機嫌をよくしながら『サカダイ』の町を歩いていく。

 町に居る者達もソフィの姿を見ると口々に声を掛けてくる。

 如何にこの町全体で『ソフィ』の事が、どう伝わっているかがよく分かる光景であった。

 ソフィも声を掛けてくる者達にしっかりと返事を行い、手を振って別れて行く。

 そうしている内に『妖魔退魔師』組織の『本部』の建物が見えてくるのであった。

「うむ。この町は本当によい町だな。さて、まずは『シゲン』殿の部屋へと向かってみるとするかな」

 そう言ってソフィは『本部』のある建物の中へと入っていくのであった。

 ……
 ……
 ……

 その頃、ソフィが向かっている先であるシゲンの部屋では、その部屋の主人であるシゲンが腕を組みながら何やら険しい表情で思案を続けていた。

(ソフィ殿の強さはどうやら俺が思っていた以上だったようだ。あの時にソフィ殿が放った光で突如として倒れ伏せた『妖魔召士』をみるに、ソフィ殿は直接相手に触らずとも命を断つ事を可能とするのだろう。それもヌー殿の説明では、あの手を上げた瞬間に、この町に襲撃に来ていた『妖魔召士』達の魂を一斉に葬ったとか口にしていたな。そんな事が本当に可能なモノなのだろうか? いや、確かにこの目で実際に目の前に居た『妖魔召士』があっさりとやられたのだから、そういう『力』が実在する事は間違いないのだろうが……)

 そこで一度溜息を吐くと、シゲンは自身に『瑠璃るり』のオーラを纏い始める。

 次にその『瑠璃るり』のオーラを増幅させるかの如く『金色』のオーラを併用させると、先に纏われた『瑠璃』のオーラが膨れ上がり、徐々にその膨れ上がった『瑠璃るり』のオーラと均等に『金色』のオーラが同時に膨れ上がり、更にはそのまま『青』と『金』が同一のオーラ量に均等化されると、次にシゲンは『魔力コントロール』を器用にこなしながらピッタリと自身の周囲に纏わせた。

 ――それは正に大賢者『エルシス』が目指した『青』と『金色』のオーラのであった。

(あの時、確かにソフィ殿は『三色』のオーラを同時に纏わせていた。その内の二つはこの『瑠璃るり』と『金色』で間違いはないのだろう。つまりソフィ殿はこの状態から更に『力』を纏わせる境地に至っているという事であろうな。それがどのような『力』の増幅を意味するのか、それは俺にも理解が及ばないが、この『瑠璃るり』の『力』を体現した時に俺は『金色』だけの時に比べて、大幅に力を手にする実感を得た事は間違いない……)

 今度は再び『魔力コントロール』を用いて、同一のオーラ量であった『青』の『瑠璃るり』のオーラだけを増幅させ始める。

 ――だが、その瞬間にシゲンの『二色の併用』は解除されて、彼の周囲を覆うオーラが『瑠璃るり』だけになってしまった。

(やはり一度均等に施したオーラの片方を強引に操作すると、もう片方のオーラそのものが解除されてしまうな。これまでも同じ経験をしている以上、やはりあの『紅色』の『力』は『青』からの関連性は薄いと見える。根本から違う方法を用いなければならないのだろうな)

 先程の『二色の併用』状態でさえ、すでに『エルシス』は限界ギリギリといえる状況で発現させられる領域だったというのに、このシゲンは『魔力量』自体はその『エルシス』には到底及ばないが、このオーラをコントロールする技術一点に絞れば、その『エルシス』を遥かに凌駕していた。

 ――つまり、このシゲンという男は『魔法』や『ことわり』という存在すら知らぬというのに、単に『オーラ』のコントロールだけで大賢者である筈の『エルシス』の『魔力コントロール』を遥かに凌駕したという事である。

 もし、仮定の話ではあるが、この世界に『精霊』や『ことわり』を生み出す存在が居たとして、彼がその『ことわり』を学び『魔法』というモノに着手する事が出来ていれば、これ程の『魔力コントロール』を可能とする彼であるならば、もしかすると『大賢者』と呼ばれる領域に立っていたかもしれない。

「ふふっ、この俺が生きている内にこの『ノックス』の世界をどれ程までに変えられるだろうか? あの『妖魔山』の『禁止区域』で俺達は何処までやれるのだろうか……!」

 ――実に楽しみな事だ。

 総長シゲンが口角が吊り上がる程の笑みを浮かべながら、そう考えるのと同時――。

 彼の纏っていた『瑠璃るり』だけのオーラに少しだけ変化が訪れる。

 それは彼自身がやろうとして変化を起こしたわけではないが、高揚感がキッカケで齎した、再現の難しい新たな『力』のコントロールの結果が生じていた。

 『青』の限度とされる『瑠璃るり』と呼ばれる色から、緑がかった暗い青色をしているそれは――。

 ――現在の『青』の最終形とされていた『瑠璃るり』の『力』よりも更に上の位階領域。

 この『ノックス』の世界でさえ、過去に一度も体現を果たされた事がない『鉄紺てつこん』と呼ばれる『青』の更なる最終形の『力』であった。

 この実に類まれな『魔力コントロール』を自在に操る総長『シゲン』でさえ、再現が二度と行えるか分からないその『鉄紺』の『力』だが、彼自身はその色の体現に驚くことをせず、そんな事など些末な事だとばかりに、大魔王ソフィと共に『妖魔山』に向かう事で、自分達の道程にどのような結果が齎されるのかと想像して、愉悦に浸っている様子であった――。

 ……
 ……
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