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イダラマの同志編

1583.不承不承

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「いやいや、テツヤやタケル達の『同志』である前時代の『妖魔召士』達は、あの『シギン』様の代に側近を務めた者達も多く居てな、引退した今でも侮れぬ者達が多いのだ」

 ヌーは前時代の『妖魔召士』達の実力を、エイジの話を聞く前から薄々ではあるが理解はしていた。そして理解はしていながらも実際に聞いてみて、自分の印象と照らし合わせて考えて頷いていた。

「だが、そんな連中も結局はソフィに一網打尽にされたんだ。問題は解決したと考えていいんじゃねぇか?」

 ヌーのその言葉にエイジは首をゆっくりと横に振った。

「確かに『テツヤ』達が持っていた情報での『同志』の襲撃は、前時代の『妖魔召士』達の事で間違いはないのだろうが、少し気になる事があってな……」

「あぁ? 何だよ気になる事って」

「お主の操った『テツヤ』達の『同志』とは、確かに小生達が居た頃の組織の『妖魔召士』なのだが、彼らは今の『改革派』と呼ばれるゲンロク達一派の者達ではなく、かつての『守旧派』と呼ばれる者達なのだ。今回の襲撃に参加した者達を小生も確認はしたが、確かに『テツヤ』達の持っていた情報通りの『守旧派』の者達で間違いはなかった」

「だったら、何も問題はないんじゃねぇのかよ」

「いや、うむ。確かにこれは小生の考えすぎなのかもしれないのだが……」

 何やら歯切れが悪く、納得の言っていない様子を見せるエイジに、訝しむように眉を寄せるヌーであった。

「この『守旧派』の一派を束ねているとしたら、かつての『シギン』様の最側近であった『』殿ではないかと小生は思っていたのだ」

「コウエン……?」

「ああ……。その証拠に先程確認した『妖魔召士』達の顔ぶれの中に『サクジ』殿の姿があった。この『サクジ』殿は確かに『守旧派』の中でも名声も高い実力者ではあったが、この『サクジ』殿は『コウエン』と呼ばれるかつての『最上位妖魔召士』の片腕と呼べる男でな? この『サクジ』殿が襲撃に参加したというのであれば、その一派の旗頭である筈の『コウエン』殿が居ないという事が小生は気に掛かっておるのだ」

「その辺の事情は知らねぇがよ、お前が口にしている事は組織に居た頃の話なんだろ? もう組織を離れた後はそのサクジだかなんだかって奴と、お前がいっている『コウエン』が共に行動していたとも限らねぇだろうがよ」

 『妖魔召士』組織の事情というモノを詳しく知らないヌーの言葉は、確かに一般的な常識論で語る上では何も間違ってはいない。

 一度組織を離れた以上、それまでの付き合いがその後も続くとは限らないのが常だからである。

 ――しかし、エイジ達のような『妖魔召士』の組織の中ではまた、組織の外部の者達とでは、常識が異なってくるのであった。

「ヌー殿、小生達『妖魔召士』の組織では、一度はぐれになろうとも決して結びつき事態が解消されるわけではなくてな? それも『妖魔召士』組織内での『守旧派』といえば、如何に組織を離れていようとも、今回の襲撃のような大きな出来事を前に、その閥族であった『コウエン』殿や、その他の『守旧派』の名立たる方々が参加していないというのが、小生は少しばかり腑に落ちぬのだ」

「お前が言いたい事はあれか? まだ『妖魔召士』達の襲撃は終わってないとでも言いたいのか?」

「……」

 ヌーの視線とエイジの視線が重なって数秒程――。

「いや……。確かに小生が深く考えすぎているだけかもしれぬ。お主の『魔瞳まどう』で『テツヤ』達の持っていた情報では、牢に居る『同志』達を助けに前時代の『妖魔召士』達が乗り込んでくるであろうという事だけであった。そうである以上、奴らの目的は『失敗に終わった』が、結論で問題ないであろう」

「そうかよ……」

 ヌーの言葉に首を縦に振って頷くエイジだった。

 エイジはそう口では結論を出したが、内心ではやはり『コウエン』や、他の『守旧派』の『最上位妖魔召士』が今回の一件で無関係で終わっているとは思えなかった。

(前時代の『守旧派』と呼ばれる『妖魔召士』は、その全員の結束も固い。小生やサイヨウ様は今回確かに行動を共にするような事はなかったが、それはあくまでサイヨウ様は連絡が取れずにいる事と、小生がすでに『ゲンロク』達と行動を共にしているからに他ならない。もし、小生がまだ『ケイノト』の裏路地ではぐれを続けていたならば、今回の襲撃に関して小生の元にも話が来ていてもおかしくはなかっただろう。単に『コウエン』殿や他の四天王と呼ばれていた方々も連絡が取れなくなっていただけなのだろうか……?)

 何故、これ程までの大規模の襲撃を起こしたのが『サクジ』達だけだったのか――。

 確かに『サクジ』も実力者で間違いはないのだが、エイジの中では閥族を束ねる旗頭としては、少しばかり『サクジ』では力不足ではないかと、自ら失礼な事だと自覚しながらもそう考えたのであった。

 ――そしてそのエイジの考え通り、本来であれば『イダラマ』の招集で四天王の一角である『コウエン』も『襲撃』に参加する予定であった。

 奇しくもその招集をかけた『イダラマ』本人の行動によって『コウエン』は、その襲撃に参加する事はなかったのだが、そんな事は知る由もないエイジは自分の考えを頭の片隅に置いて、強引に納得する事にするのであった――。
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