最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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イダラマの同志編

1549.死屍累々

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『サクジ』が使う『捉術』の効果範囲に『妖魔退魔師』達をおびき寄せるように、あえて『式』を出す場面に出さずに、優勢になるように局面を上手く形作っていた『同志』の『妖魔召士』達。

 その中でも『サクジ』と最後まで作戦を練り、先程『空空妨元くうくうぼうげん』を出す瞬間に合図を送っていた側近といえる『同志』の一人は、ナギリとカヤが抜け出す瞬間に、出していた『式』を全てナギリ達に差し向け直すと、自身もまたナギリ達の後を追うように駆け出し始めて行く。

「グガアアアッ!」

「「グルァ!」」

 『ナギリ』と『カヤ』の『特務』の隊士タッグは、眼前に居る『サクジ』を斬り伏せようと迫っていたが、そこで接近してくる『狗神』や『妖魔』達の方が早く彼らの元に向かって襲い掛かるのだった。

「ちっ!」

 先に飛び出していた『ナギリ』だが、迫ってくる『妖魔』達の気配を背中から感じ取って舌打ちをする。

 このままだと自分が『妖魔召士』達に斬りかかる前に『妖魔』達に襲われる方が早いだろうと気づいた様子であった。

 そして走っている事による空気抵抗を手に集めながらもナギリは、手に持っていた刀を頭上に掲げる。

 どうやら迫りくる『妖魔』を優先的に対処しようと考えたのだろう。

 ――しかし、その時だった。

「ナギリ! 貴方は立ち止まるな! 優先すべき対象を間違えてはいけない!」

 それは自分と共にほぼ並走状態で駆けていた『カヤ』の怒号に近い声であった。

「!」

 その声にナギリは振り返ろうとしていた身体を強引に押し戻すと、再び前へと向き直りながら脚に力を込めて速度を上げる。

 そして背後から刀の振り切る音と共に、後から『妖魔』が式札に戻る音がナギリの耳に聞こえてくる。

(これなら背後はカヤに任せて大丈夫のようだ! ならば、俺のやるべき事は唯一つ!!)

 自分の仲間を頼もしく思いながら、ナギリは『捉術』の効力を出している『妖魔召士』である『サクジ』を斬ろうとするが、そこでまたもや背後からカヤの声が鮮明に耳に届いた――。

 そしてその声は、先程の勇ましい彼女の声ではなく……。

 ――悲鳴であった。

「!?」

 衝動的にナギリは立ち止まってしまい、更には背後を振り返ってしまう。

 今度はカヤの制止する声が聴こえてくる事もなかったが、代わりに見てはいけないものをナギリの両目は捉えてしまうのであった――。

 それはカヤの心臓のある胸元に『鬼人』の腕が貫通している姿であった。

 虚ろな目を浮かべながら口から血が流れ出ているカヤを見たナギリは、慌ててカヤの元へ駆け寄ろうとしたのだが、その足は自分の意思に反するように動かなくなる。

「なっ――!?」

 ナギリが驚きの声をあげると同時、背中から羽根を生やしている天狗がナギリの様子を見て、厭味な笑みを浮かべていた。

 そして後ろから迫って来ていた『妖魔召士』が更にそんな『ナギリ』に『魔瞳』である『青い目ブルー・アイ』を放つ――。

 ――『天狗』の呪詛じゅそ、妖魔召士の『魔瞳まどう』。

 その影響を一身に受けたナギリは動けなくなり、目の前で完全に目の色から光が消えた『カヤ』が、まさに死へと向かっていく様を始終に渡り、強引に見届けさせられるのであった。

(か、カヤ!!)

 声にならない言葉を胸中で呟くナギリの前で、ドサリと音を立てながら『特務』所属の『カヤ』は『鬼人』の『瑠慈るじ』によって、若いその命を散らされてしまうのであった――。

 ナギリはカヤの方へ何とかして手を向けようとするが、身体の支配を完全にされてしまい動けない。

 そんな彼もまた『サクジ』に首を掴まれて『動殺是決どうさつぜけつ』を使われてしまう。

(ぐっ……! こ、こんなところで俺はやられちまうのかよ! し、死んで……、たまるかっ……――!)

 だが、徐々にナギリの目から色が消えていき、やがては目の前が見えなくなるように感じた直後、彼は普段通りの呼吸が出来ない違和感をその身に感じとる。

 やがては呼吸の仕方を忘れたかのように、器官が自分の意思で動かせなくなり、そしてそのまま闇の中に身を委ねるように意識が落ちてしまうのだった――。

 そしてその先では一箇所に誘導されて集められていた『妖魔退魔師』達のほぼ全員が、先程の『サクジ』の放った『空空妨元』によって幻覚を見せられている中、全くの無抵抗といえる状況の中で高ランクの『妖魔』達によって、その全員が襲われていった。

 更にそれだけに留まらず、妖魔達に襲われた『妖魔退魔師』達に向けて、周囲の『妖魔召士』達が次々と手印を結んだかと思うと、場に次々と『スタック』が設置されていく。

 次の瞬間には、全ての者達は『妖魔召士』の『捉術』によってトドメを刺されてしまい、息の根を止められてしまうのであった――。
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