最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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イダラマの同志編

1541.根深い復讐心

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 セルバスは『隠幕ハイド・カーテン』を用いながら戦場となっている大広間や廊下を素通りして、そのまま『シグレ』の居る場所へと向かい始める。

 現在シグレはスオウ組長の指示で宛がわれている自室ではなく、スオウの懐刀である『サシャ』の信頼する部下数名と共に襲撃に参加せず別室で待機させられているのであった。

 今のシグレは『妖魔退魔師』組織の幹部しかいない『二組』に仮という形ではあるが在籍を果たしている。

 本来であれば『二組』の組員となった以上は、彼女も戦闘に参加する必要があるところなのだが、現在の彼女は『ミスズ』の指示で戦闘に参加する事を禁じられているのであった。

 シグレの精神状態は『ミスズ』の献身により、一時に比べると落ち着きを取り戻している状態であるが、戦闘に参加する事でいつまた『』に戻るか分からない危うい状態だからである。

 これがまだ『妖魔』だけが相手であったならば話は変わるだろうが、この場に襲撃に現れているのは『妖魔召士』達であるが故に、ミスズの指示はまさに的確だったと褒めざるを得なかった。

 もしもミスズが適切な指示を出さずにおいていたら、今頃『シグレ』もこの襲撃に際して喜々として『妖魔召士』を殺しに向かっていたかもしれない。

 いくら一時よりマシになったとはいっても、今のシグレはまだ完全に元に戻っているわけではなく、コウゾウを殺められた事に対する復讐心は、想像を絶する程に根深さを秘めているからである。

 事情を理解しているセルバスは、元々シグレのために力になってやりたいと考えてはいたが、今の彼の主君となった『ソフィ』からもシグレの元に居てやれと里に向かう前に言い残されたために、今の彼は主観だけではなく客観的にも彼女の元に居る事が出来る口実を手にしているのであった。

 そして彼がシグレの居る一階の奥の部屋の前に辿り着くと、何やら部屋の中から喧騒が聴こえてくるのだった。

 セルバスは訝し気に眉を寄せながらも静かに部屋の扉を開けた。

「離してください! は、離せよぉ!!」

「こ、こら!! 落ち着け! お前程度が一人向かったところで何も出来はしないというのに!」

「くそっ! 最近は冷静さを取り戻していたというのに『妖魔召士』達が現れた途端にこれだ!」

 セルバスが部屋の中に入ると、髪を振り乱しながら暴れているシグレと、そのシグレを取り押さえる『妖魔退魔師』達の存在が彼の目に入ってくるのであった。

「何だ、何があったんだ?」

 セルバスが壁際にもう一人いた『妖魔退魔師』の女性に何があったかを尋ねると、困った表情を浮かべながらその女性が口を開くのだった。

「あ、ああ……。セルバスさん、貴方か。見たら分かるでしょう? 襲撃に来たのが『妖魔召士』の連中だと分かった途端に、最初の頃にこの子が見せていた発作をまた起こしたのよ」

 『二組』の『妖魔退魔師』の女性は困ったものだとばかりに溜息を吐きながら、顔見知りとなったセルバスに教えてくれるのだった。

 妖魔退魔師から事情を聞いたセルバスは、心配そうにシグレに視線を送る。

 どうやらセルバスが現れても彼女の状況は変わらず、彼女はまるでセルバスが見えてはいないように、彼の背後の扉を一心に見つめていた。

 セルバスはそのシグレを見て辛そうにしていたが、やがて何やら意を決したようにシグレの元に向かって、歩き始めて行く。

「ちょ、ちょっと、貴方……!」

 腕を組んで溜息を吐いていた女性の『妖魔退魔師』は、突如としてシグレの元に向かっていくセルバスに驚いて声を掛けるのだった。

 今のシグレは右手に刀を握っている状態であり、非常に精神も不安定な状況である。

 取り押さえている男達が何かあっても直ぐに対処出来る『妖魔退魔師』だからこそ、女性も平然と見ていたのだが、単なる一般人にしか見えないセルバスが近づいた事で、危険だと判断して止めようとしたようであった。
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