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イダラマの同志編
1432.ヤエの覚悟
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「ひとまずここに残っていても仕方あるまい。我々はもう追われる身というわけでもないのだし、一度『イツキ』様の居た長屋に戻るとしようか? ミヤジ殿」
「そうっすね。本当ならここに『イツキ』様も居てた筈なんだけどなぁ」
旅籠町の『牢』からヒュウガの手によって脱獄させられた『ミヤジ』だが、彼は『ケイノト』で一度はイツキと再会する事が出来ていたのである。
本来であればあのまま『ケイノト』から離れて逃げ出すことも出来ていた筈なのである。
もしその道を選んでいたならば、自分たちは追われる立場の身になり、ヒュウガ一派からも狙われていたかもしれないが、それでも『イツキ』と一緒に過ごせるのであれば、それでも悪くはなかったと考えるミヤジであった。
「ところで……、お前はいつまでここに居るのだ?」
ユウゲがそこで背後を振り返ると『退魔組』があった頃に、彼の護衛を務めていた『ヤエ』の姿があった――。
「え! わ、私はユウゲ様の護衛ですから、いつまでもお傍におりますよ!」
「いや、退魔組はもうなくなる事は間違いない状況なのだぞ? 他の者達も去ったようだし、今後はワシの護衛などやっていても俸禄や金子なども出ぬぞ」
「そ、そんなのは要りません! た、退魔組としてではなく、今後もお傍に置いてもらえませんか!」
「お姉さん。アンタがユウゲ殿の事を好いていて、そんな事を口にしているというのは理解したけど、俺もユウゲ殿もやる事があるんだ。下手をすれば命を落としかねない大事な事が……。だから悪いけど――」
「私も手伝います! ですからユウゲ様のお傍に!」
どうやら理屈抜きにヤエという女性は、ユウゲを慕っているという事だろう。
彼女の目は盲目的にユウゲを追っている様子はなく、本当に彼の為なら死んでも構わないという気概が感じられるミヤジであった。
「こりゃあ言ってどうにかなる感じじゃないっすねぇ。ユウゲ殿、どうします?」
困ったとばかりに頭を掻きながらミヤジは、ユウゲにそう告げるのであった。
「いいか、ヤエ。ワシらは一度は『ケイノト』に戻るが、そこで暮らすという意味ではなくてな。あくまで今後の目的の為に拠点とする意味なのだ。そしてその目的の結果次第では、無事に生きて帰る事も出来ぬ。というよりもほとんどの確率で生きては帰れぬだろう」
最初は自分を遠ざけようと二人は自分に対して芝居を打っているのだろうと思って、話を聴いていたヤエだったが、目的とやらの話を始めた時からの『ユウゲ』の覚悟を据えた目を見た事で、冗談ではなく本当の事だと確信を持ったヤエであった。
――そしてその言葉にヤエもまた頷きを見せた。
「構いませんよ。貴方と共に死ぬ事が出来るのであれば、貴方の目的にこの命を賭す事も厭わない。貴方の元で死なせて頂けませんか?」
「むっ!」
ヤエはユウゲの前で刀を抜くと、その刃を自分の首に当てた。
「よ、よせ!!」
ヤエの突然の行動に『ミヤジ』は声を上げて、慌てて手を伸ばそうとする。
「もうこれ以上貴方と離れるのは耐えられないんです。貴方の目的を達成するのを見届けさせて頂けないというのであれば、私はこの場で自ら首を落とします。貴方は私の全てなのです。どうか分かって……」
ヤエは儚げに困り笑いを浮かべたかと思うと、刀を握る手に力を込め始めた。
しかし――。
ユウゲはヤエの首にあてている刀の切先を握りしめると、強引に引きはがそうとする。
当然抜き身の刀を握っているユウゲの手の皮膚から血が滴り落ちてくるが、それを見たヤエは慌てて込めていた手の力を抜くと、ユウゲにヤエの刀を奪われるのだった。
そしてその刀をその場に捨てると同時、ユウゲはヤエを強引に自分の胸の中に引き寄せるのだった。
「お前には今後もワシの護衛を務めてもらう。その代わり、今後お前とワシは一蓮托生だ。ワシが死ぬ時にはお前も死んでもらう事になる。それでもいいのか『ヤエ』よ!」
「も、もちろんです! 喜んで死なせて頂きます! ああっ! あああっ!! ありがとうございます!」
ヤエはユウゲの胸の中で泣きながら、喜びの声をあげるのだった。
(と、とんでもねぇ女だな……。し、しかし過去にユウゲ殿とこの女の間に、一体何があったのかは知らねぇが、ここまでしてみせる程だ。この様子ならばユウゲ殿を裏切る事はないだろう)
ミヤジは先程のヤエの尋常ならざる様子を省みて、ユウゲに対して相当の想いがあるのだろうと察して頷くのであった。
「そうっすね。本当ならここに『イツキ』様も居てた筈なんだけどなぁ」
旅籠町の『牢』からヒュウガの手によって脱獄させられた『ミヤジ』だが、彼は『ケイノト』で一度はイツキと再会する事が出来ていたのである。
本来であればあのまま『ケイノト』から離れて逃げ出すことも出来ていた筈なのである。
もしその道を選んでいたならば、自分たちは追われる立場の身になり、ヒュウガ一派からも狙われていたかもしれないが、それでも『イツキ』と一緒に過ごせるのであれば、それでも悪くはなかったと考えるミヤジであった。
「ところで……、お前はいつまでここに居るのだ?」
ユウゲがそこで背後を振り返ると『退魔組』があった頃に、彼の護衛を務めていた『ヤエ』の姿があった――。
「え! わ、私はユウゲ様の護衛ですから、いつまでもお傍におりますよ!」
「いや、退魔組はもうなくなる事は間違いない状況なのだぞ? 他の者達も去ったようだし、今後はワシの護衛などやっていても俸禄や金子なども出ぬぞ」
「そ、そんなのは要りません! た、退魔組としてではなく、今後もお傍に置いてもらえませんか!」
「お姉さん。アンタがユウゲ殿の事を好いていて、そんな事を口にしているというのは理解したけど、俺もユウゲ殿もやる事があるんだ。下手をすれば命を落としかねない大事な事が……。だから悪いけど――」
「私も手伝います! ですからユウゲ様のお傍に!」
どうやら理屈抜きにヤエという女性は、ユウゲを慕っているという事だろう。
彼女の目は盲目的にユウゲを追っている様子はなく、本当に彼の為なら死んでも構わないという気概が感じられるミヤジであった。
「こりゃあ言ってどうにかなる感じじゃないっすねぇ。ユウゲ殿、どうします?」
困ったとばかりに頭を掻きながらミヤジは、ユウゲにそう告げるのであった。
「いいか、ヤエ。ワシらは一度は『ケイノト』に戻るが、そこで暮らすという意味ではなくてな。あくまで今後の目的の為に拠点とする意味なのだ。そしてその目的の結果次第では、無事に生きて帰る事も出来ぬ。というよりもほとんどの確率で生きては帰れぬだろう」
最初は自分を遠ざけようと二人は自分に対して芝居を打っているのだろうと思って、話を聴いていたヤエだったが、目的とやらの話を始めた時からの『ユウゲ』の覚悟を据えた目を見た事で、冗談ではなく本当の事だと確信を持ったヤエであった。
――そしてその言葉にヤエもまた頷きを見せた。
「構いませんよ。貴方と共に死ぬ事が出来るのであれば、貴方の目的にこの命を賭す事も厭わない。貴方の元で死なせて頂けませんか?」
「むっ!」
ヤエはユウゲの前で刀を抜くと、その刃を自分の首に当てた。
「よ、よせ!!」
ヤエの突然の行動に『ミヤジ』は声を上げて、慌てて手を伸ばそうとする。
「もうこれ以上貴方と離れるのは耐えられないんです。貴方の目的を達成するのを見届けさせて頂けないというのであれば、私はこの場で自ら首を落とします。貴方は私の全てなのです。どうか分かって……」
ヤエは儚げに困り笑いを浮かべたかと思うと、刀を握る手に力を込め始めた。
しかし――。
ユウゲはヤエの首にあてている刀の切先を握りしめると、強引に引きはがそうとする。
当然抜き身の刀を握っているユウゲの手の皮膚から血が滴り落ちてくるが、それを見たヤエは慌てて込めていた手の力を抜くと、ユウゲにヤエの刀を奪われるのだった。
そしてその刀をその場に捨てると同時、ユウゲはヤエを強引に自分の胸の中に引き寄せるのだった。
「お前には今後もワシの護衛を務めてもらう。その代わり、今後お前とワシは一蓮托生だ。ワシが死ぬ時にはお前も死んでもらう事になる。それでもいいのか『ヤエ』よ!」
「も、もちろんです! 喜んで死なせて頂きます! ああっ! あああっ!! ありがとうございます!」
ヤエはユウゲの胸の中で泣きながら、喜びの声をあげるのだった。
(と、とんでもねぇ女だな……。し、しかし過去にユウゲ殿とこの女の間に、一体何があったのかは知らねぇが、ここまでしてみせる程だ。この様子ならばユウゲ殿を裏切る事はないだろう)
ミヤジは先程のヤエの尋常ならざる様子を省みて、ユウゲに対して相当の想いがあるのだろうと察して頷くのであった。
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