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サカダイ編
1425.模倣の領域
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退魔組の者達が『サシャ』から今後の説明を受けている頃、再びイツキは『牢』からシゲンの元へ呼び出されて戻ってきていた。
「交渉対象となった『退魔組』の者達は、全員この場所から解放してくれたのか?」
シゲンの前に立ったイツキは開口一番にそう口にするのだった。
「安心しろ。お主との交渉は守るさ。お主もソフィ殿と戦った感想などを頼む。出来れば俺と手を合わせた時とどちらがやり辛かったかも交えて口にしてくれると有難い」
「分かった。あくまで俺が双方と戦った時の印象であるからな。実際は全然違うかったなどと後から文句は言わないでくれよ?」
イツキがソフィと戦った時の印象の中で、一番重要視するべきなのは『魔力』を使った攻撃方法に対して、ソフィが実際に抵抗を行った時の内容だと判断し、イツキは『ケイノト』の裏路地の一室で動きを止めた辺りから説明を行い始める事にするのだった――。
…………
「――という感じでアイツも俺と同じ湯気……。アンタの言葉を借りるなら『金色のオーラ』とやらを使っていた時に俺の『捉術』の発動タイミングをズラしてきたんだ。最初は俺が『魔力』を使い損ねて『捉術』を使う事に失敗をしたんだと思ったが、アンタの『体現者』とやらが扱う不思議な『力』をソフィ殿が使ったんだとしたら確かに合点がいく内容だと判断出来る。多分あれはソフィ殿の体現者『特有』の力なんだと思うよ」
「うむ。体現者特有の力。すなわち『特異』と呼ばれる力だ。しかしその話が本当だとすると、ソフィ殿の『特異』は相当に強力なものだ……。相手の『魔力』の道筋を変えて『発動』自体を詠唱者からタイミングを奪うだけではなく、その『発動』のタイミングをソフィ殿の任意で発動させられるのだとしたら、お主ら『退魔士』はお手上げだろうな……」
「いや、そもそもだな……。その『特異』の力がどうこうの前に俺が殺すつもりで本気でソフィ殿の首を掴んで『動殺是決』を使ったにも拘わらず、何事もなく笑みを浮かべながら無傷で反撃してくる事自体がお手上げなんだよな……」
どうやらイツキは説明を行う為にあの戦闘を回想して恐怖心が蘇ったのだろう。
何もしていないというのにシゲンの前で唐突に手が震え始めて、慌ててもう片方の手でぎゅっと握りしめるのだった。
「ありゃ、マジでどうしようかと思ったぜ? しかもその後にさっきも話した通り、更にソフィ殿の速度や力が比べものにならなくなって、さっきアンタと戦った時の俺の状態でもあっさり意識を失わされちまった。ありゃ間違いなく『化け物』だ。まぁいっちゃ悪いがアンタも似たような化け物なんだけどな……」
――そう告げるイツキの言葉は、紛う事なく本音であった。
イツキがこの部屋でシゲンと戦った時、その時のイツキもまた彼の『特異』でソフィの『特異』を『ラーニング』して放ってみせたが、シゲンもまた『金色のオーラ』を纏った事であっさりと対処されたのである。
確かにイツキの『特異』である『ラーニング』では、即座に本物と同一の代物が模倣出来るわけではなく、かつての『妖魔退魔師』の『天色』のオーラを模倣した時と同様に、研鑽が必要である為に、ソフィと同じ『力』を放てたわけではないが、それでもその型となる基本の『型枠』は、シゲンに放つときにイツキは完全に模倣が出来ていた。
つまり模倣の領域でいうならば、それは成立していたという事に他ならない。
――だからこそあの時シゲンは、咄嗟に『金色』を纏わせざるを得ないと判断したのであった。
(俺ではソフィ殿のあの『化け物』のような『力』には対抗出来なかったが、同様に俺の力を無力化してみせた、こっちの『化け物』ならば、あの時の結果はどうなっていたかな……)
イツキは胸中であの時に自分ではなく、シゲンという『妖魔退魔師』の『総長』が相手であったならば、結果はどうなっていただろうかと思案するのだった。
「交渉対象となった『退魔組』の者達は、全員この場所から解放してくれたのか?」
シゲンの前に立ったイツキは開口一番にそう口にするのだった。
「安心しろ。お主との交渉は守るさ。お主もソフィ殿と戦った感想などを頼む。出来れば俺と手を合わせた時とどちらがやり辛かったかも交えて口にしてくれると有難い」
「分かった。あくまで俺が双方と戦った時の印象であるからな。実際は全然違うかったなどと後から文句は言わないでくれよ?」
イツキがソフィと戦った時の印象の中で、一番重要視するべきなのは『魔力』を使った攻撃方法に対して、ソフィが実際に抵抗を行った時の内容だと判断し、イツキは『ケイノト』の裏路地の一室で動きを止めた辺りから説明を行い始める事にするのだった――。
…………
「――という感じでアイツも俺と同じ湯気……。アンタの言葉を借りるなら『金色のオーラ』とやらを使っていた時に俺の『捉術』の発動タイミングをズラしてきたんだ。最初は俺が『魔力』を使い損ねて『捉術』を使う事に失敗をしたんだと思ったが、アンタの『体現者』とやらが扱う不思議な『力』をソフィ殿が使ったんだとしたら確かに合点がいく内容だと判断出来る。多分あれはソフィ殿の体現者『特有』の力なんだと思うよ」
「うむ。体現者特有の力。すなわち『特異』と呼ばれる力だ。しかしその話が本当だとすると、ソフィ殿の『特異』は相当に強力なものだ……。相手の『魔力』の道筋を変えて『発動』自体を詠唱者からタイミングを奪うだけではなく、その『発動』のタイミングをソフィ殿の任意で発動させられるのだとしたら、お主ら『退魔士』はお手上げだろうな……」
「いや、そもそもだな……。その『特異』の力がどうこうの前に俺が殺すつもりで本気でソフィ殿の首を掴んで『動殺是決』を使ったにも拘わらず、何事もなく笑みを浮かべながら無傷で反撃してくる事自体がお手上げなんだよな……」
どうやらイツキは説明を行う為にあの戦闘を回想して恐怖心が蘇ったのだろう。
何もしていないというのにシゲンの前で唐突に手が震え始めて、慌ててもう片方の手でぎゅっと握りしめるのだった。
「ありゃ、マジでどうしようかと思ったぜ? しかもその後にさっきも話した通り、更にソフィ殿の速度や力が比べものにならなくなって、さっきアンタと戦った時の俺の状態でもあっさり意識を失わされちまった。ありゃ間違いなく『化け物』だ。まぁいっちゃ悪いがアンタも似たような化け物なんだけどな……」
――そう告げるイツキの言葉は、紛う事なく本音であった。
イツキがこの部屋でシゲンと戦った時、その時のイツキもまた彼の『特異』でソフィの『特異』を『ラーニング』して放ってみせたが、シゲンもまた『金色のオーラ』を纏った事であっさりと対処されたのである。
確かにイツキの『特異』である『ラーニング』では、即座に本物と同一の代物が模倣出来るわけではなく、かつての『妖魔退魔師』の『天色』のオーラを模倣した時と同様に、研鑽が必要である為に、ソフィと同じ『力』を放てたわけではないが、それでもその型となる基本の『型枠』は、シゲンに放つときにイツキは完全に模倣が出来ていた。
つまり模倣の領域でいうならば、それは成立していたという事に他ならない。
――だからこそあの時シゲンは、咄嗟に『金色』を纏わせざるを得ないと判断したのであった。
(俺ではソフィ殿のあの『化け物』のような『力』には対抗出来なかったが、同様に俺の力を無力化してみせた、こっちの『化け物』ならば、あの時の結果はどうなっていたかな……)
イツキは胸中であの時に自分ではなく、シゲンという『妖魔退魔師』の『総長』が相手であったならば、結果はどうなっていただろうかと思案するのだった。
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