上 下
1,433 / 1,906
サカダイ編

1416.上には上がいるという事

しおりを挟む
 イツキはケイノトでソフィと戦った時と全く同じ『瑠璃』と『金色』の二色の併用状態になり、膨れ上がった『魔力』で今度は単なる『魔力圧』ではなく『捉術』を放った。

 ――僧全捉術、『』。

 それは彼が頭の中で描いて実際に現実に形にしようとしたモノであり、明確な名などない新たな『捉術』。

 しかしその規模は単なる『捉術』の域ではなく、名もなき『』と呼べる代物だった。

(何だ……? 何か攻撃をしようとしたのではないのか? 何故動かな……――)

 目の前で『瑠璃』と『金色』の二色を混ぜ合わせた後、こちらに向かって何かを仕掛けようとしていた筈のイツキの動きが止まったのを見たシゲンは、頭の中でそう考えていた次の瞬間、彼の傍で声が聴こえるのであった。

「別にアンタに恨みはねぇからよ。命を奪うような事はしないつもりだ。ただ、一発だけ思い切りアンタの横っ面を殴り抜かせてもらうぜ?」

 殺すつもりはないと口にしたイツキだが、今までのシゲンは『青』を纏っていなかった。当たりどころが悪ければ死ぬどころか、ほぼ確実に当たれば絶命することだろう。

(まぁ、こっちが殺すつもりじゃなくても耐えられるだけの防御力がなければ、高確率で死ぬだろうけどな)

 ほくそ笑みながらイツキが拳を突き出すが、目の前に迫ったそのイツキの拳を見た瞬間に、シゲンの身体が動いた。

「!?」

 シゲンに攻撃を放ったイツキは目の前の相手が自分の制御下から抜け出したことを知るが、もう振り切っている拳を止めることは出来ない。

 そのまま勢いを止めることなく放たれたイツキの拳をシゲンは右手で払うとそのまま左手で流れたイツキの腕を取りそのまま地面に組み伏せるのだった。

「ぐがっ……、イッテテテ!!」

 殴りかかった手を取られたイツキは、そのまま関節を極められて地面で寝転ばされるのだった。

「今のは流石に予想外だった。あんな隠し玉を潜ませながら、これまでそれを匂わせる事なく使わなかった事にお前の恐ろしさを感じ取れた。

「へっ! 妖魔退魔師の総長様に褒められ……――!?」

 イツキは『褒められて光栄』だと続けようと見上げた視線の先で、自分に乗っかっているシゲンの周囲に自身と同様に『金色のオーラ』が纏われていたのを見て口を噤んだ。

「それは俺と同じ……?」

「ああ……。先程お主に説明したものと同じものだ」

「アンタも本当に化け物だな。昔からアンタの強さと恐ろしさは噂で耳にしていたが、アンタが『金色』を使えるってのは俺の情報網でも掴めていなかったぞ」

「ふっ……。これまではこの世界で使うからな」

 そう言ってシゲンはイツキの身体から手を放して立ち上がった。

 どうやらそのまま解放するつもりらしい。

 シゲンが自分の身体の上から退くと、イツキもその場で立ち上がるのだった。

「やれやれ……。あっさり解放しやがって。もう俺は脅威じゃないって事かい?」

「いや、お主が考えている事とは少し違うかな。単にお主とは真正面から話を交わせる人間だと判断したまでだ」

 そう言ったシゲンは本当に何事もなかったかのように、再び椅子に腰を下ろすのだった。どうやら本当に言葉に偽りはないのだろう。

(これまでこの世界で使う必要性が感じられなかったから……か。確かにこんな化け物みたいな強さを有している者であれば、そういう考えを持つ事もあるのか? しかし全く。ソフィ殿といい、上には上がいるもんだな。世界は思っていたより広いのかもしれないな)

 そう胸中で呟くイツキは『ソフィ』と戦った時のあの『化け物じみた』姿を思い出して苦笑いを浮かべるのであった。

「さて、お主の実力も理解が出来た事だし、そろそろ本題に入らせてもらうがいいかな?」

「え?」

 今までのは一体何だったのかと言いたくなるのを何とか堪えて、唖然とした表情でシゲンに視線を送るイツキなのであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...