最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
1,401 / 1,989
サカダイ編

1384.圧倒的な強さのナギリ

しおりを挟む
 前方からはランク『5』の妖魔、背後からは『退魔組』の『式』に護衛剣士、そして『特別退魔士とくたいま』の二人が何やら『術』を施しているのがナギリには見えた。

 先程までの状況であれば、どう足掻いても全ての攻撃を避け切る事は難しいところだったが、今はナギリは人を一人抱えているというハンデが取り除かれている。

 それどころか抱えていた『二組』の妖魔退魔師も戦闘状態に入っている。

 今ならば十分に対処は可能であるはずである。

 そしてナギリに視線を向けてきた『ヤヒコ』は、視線を一度だけ後ろへ向けた後に再びナギリに頷いて見せる。

 どうやら後ろは任せたぞという意味合いなのだろうとナギリは受け取り『瑠璃』を纏わせた得の刀を握りしめてそのまま向かってくる『退魔組』達に、ナギリもまた向かっていった。 

「なっ……! お、王連殿の『神通力』で奴の仲間は動けないんじゃなかったのかよ!?」

 手印で術式を展開しようとしていたヒイラギは、仲間の妖魔退魔師を地面に立たせたかと思うと、そのままこちらに向かって全力疾走してくるのを見て、驚きながらそう言葉にするのだった。

「ま、まさか……!! お、王連がやられたというのか!? くっ……! くそっ……! スオウ殿に式札を破かれたか!」

 契約紙帳から王連の契約の式札が消えているのを確認したジンゼンは、自身の魔力が残り僅かだという事を自覚しながらも悔しそうにそう呟くのだった。

 しかしジンゼンが気にするべき事は、もう終わったことよりも、現実に目の前で起きている事に目を向けるべきだった――。

 悠長に自身の魔力の残量を確かめたり、契約紙帳の王連の名を探したりしていた『ジンゼン』は、全く危機的な状況だという事に、意識を向け切れていないのであった。

 先程までの『ナギリ』は人を一人抱えた状態で刀を振る事すらできない状態だったからこそ、退魔組の者達に追い立てられて袋の鼠状態だったが、今はもうその足枷は取り除かれて本来の『特務』所属の『妖魔退魔師』が殺すつもりで刀を握って襲い掛かってきているのである。

 距離のあるうちに策を巡らせて戦いを継続するか、それとも『退魔組』の者達を囮にそのままこの場を離脱するかを選ぶべきであったのだ。

 …………

 ヒイラギとクキが使役している『式』は、どちらも人型の取れるランクが『3』の妖魔だったが、今はその『特別退魔士とくたいま』達であるヒイラギとクキの使った禁術によって、どちらもランクが『4』へと昇華していた。

「グオオオッ!!」

 口から涎をまき散らしながら正気を失っている『式』達が、次々にナギリに襲い掛かってくる。

 そしてあと一歩踏み込めば互いの間合いだという距離の中、突如としてナギリはその場で足を止め始めた。

 当然正気を保っていない『式』の妖魔達は、相手の動きが止まろうがお構いなしに飛び掛かってくるが、ナギリは冷静に刀を構えると、そのまま脚に力を込めて一気に前へと刺突をするように刀を突き出した。

 一番先頭で向かってきていたランク『4』相当の妖魔の皮膚を刀で突き破ると同時、唐突に突き入れられた箇所から火柱が上がるのだった。

 ――刀技、『百火ひゃっか』。

 火柱が上がったせいで視界が遮られた妖魔達の背後へとナギリは、音もなく忍び寄ったかと思えば、残りの妖魔達も次々に斬り伏せていく。

「グ……、ゴハ……!」

 苦しげな声と共にフラフラとよろめいていた妖魔達だが、ぼんっという音と共に『退魔組』の『特別退魔士』が使役した『式』達は全員が式札に戻されていく。

 更にそこでナギリは足を止めずに姿を消したかと思うと、あっという間にその更に背後から迫ってきていた『退魔組』の護衛剣士達に辿り着いてみせるのだった――。

「くっ、くぅ……!!」

 この場に居る『特別退魔士とくたいま』達の護衛を務める護衛剣士は、全員が『退魔組』内では優良とされる剣士達ばかりであった。

 ――しかしそれでも流石に『妖魔退魔師』が相手では分が悪すぎる。

 護衛剣士達はその戦力を高く見積もっても『妖魔退魔師』組織の『予備群』には届かない程の力量である。

 予備群に及ばぬ者達が、その更に上の『妖魔退魔師衆』そしてそのまた更に上に居る『妖魔退魔師』に勝るはずもなく――。

「くっ、くそぉ……!」

 『ヤエ』と『サキ』が同時にナギリに斬りかかっていくが、ナギリは先程の妖魔に使った刀技を使うでもなく『瑠璃』ではなく『浅葱色』の青のオーラを刀に纏わせたかと思うと、あっという間に斬りかかってきた『ヤエ』と『サキ』の両者の刀を巻き上げた。

「えっ? う、うぐっ!?」

 両者の手から刀が失われたことにようやく気付き、互いに自分の手元を見始めたが、次の瞬間にはその両者共に白目を剝いて気を失うのであった。

「殺しはしない……。少し眠っていてもらうがな」

 ナギリは刀の柄の部分で『ヤエ』と『サキ』の鳩尾を突いた後、そのまま前のめりになったところに、刀で首に衝撃を与えて強引に意識を絶ったのであった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...