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サカダイ編

1380.追う者と追われる者

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「くそっ! これだけ離れているというのに、まだヤヒコ殿は動けるようにならないのか!?」

 ナギリは『退魔組』の連中やジンゼンを気にしながら森の中を駆けていく。

 ジンゼンはナギリが闇雲に走っているだけだと判断していたようだが、実際にはナギリは『王連』の『神通力』の効力が『時間制限』なのか、それとも『距離』が問題なのか、はたまた王連自身の『魔力』が続く限り、本人が倒されぬ限り永続的に続くのか。

 それを確かめる意味を込めて距離を取りつつ時間を稼いでいたのであった。

 だが、どうやらここまで離れても『ヤヒコ』が動けなくなっている様子をみるに、単に距離や時間制限が要因というわけではなさそうである。

 ナギリは知る由もない事だが、この王連の『神通力』が『キョウカ』に放たれた時にも、王連が去った後も『神通力』の効力は消えず『チジク』というキョウカの『組』に所属する妖魔退魔師の命を奪った直後にようやく『神通力』の効力が消えたのであった。

 つまりいくら王連から離れようが、時間を引き延ばそうが『神通力』と呼ばれている『術』が解かれるという事はなく、王連が自分で解くという意思がないのであれば、彼の魔力が枯渇して術が解かれるのを待つか、はたまた対戦を行っているであろう『スオウ』によってその命が奪われるのを待つしか手立てがないという事であった。

 『王連』の『神通力』が解けない以上は『ヤヒコ』が動けるようにはならないという事であり、それはつまり『ナギリ』が追手である『ジンゼン』や『退魔組』と戦うことは難しいという事に繋がる。

 これがまだ『退魔組』とその退魔士の使役する『式』や護衛剣士達だけだったならば、妖魔退魔師の『特務』に所属する『ナギリ』であれば『ヤヒコ』を庇いながらも何とかなる可能性も残されているといえるが、ジンゼンが居る時点でその選択肢は取ることは出来ないだろう。

 それ程までに『上位妖魔召士』が一人いるだけで変わるといえるのであった。

 そしてどうやら『ジンゼン』もその事に気づいているようで、退魔組の者たちを先行させて追わせながら自分自身は速度を緩めて進み、こちらがどう動くかを空から逐一確認しているようであった。

 動きを止めて戦うか、それともこのまま逃げ続けるか。先程のナギリが考えた事と同様な事をジンゼンも考えている。

(あの妖魔退魔師は背後に居る『特別退魔士とくたいま』達や『式』の妖魔達には、そこまで意識を向けてはいないが空にいる私を必ず見ている。どうやら奴の中では大勢の『退魔組』の連中よりもこの私の存在を意識下において行動を決めているようだ。まぁ動けない者を抱えながら移動を行っているんだ。自分が動けなくなれば終わりだと判断するのは当然の事だな)

 ジンゼンは細かにナギリの行動の分析を続けながら、どう仕留めようかと思案を続けていく。

 高ランクの『王連』を使役し続ける事で何もせずとも『魔力』は消費し続けてはいるが、それでも『魔瞳まどう』などは扱える分はしっかりと残している。

 動きさえ止められる事が出来れば、妖魔退魔師を仕留める役目は『退魔組』に任せればいい。

 いくら妖魔退魔師が『魔力』を用いて自身の防御力を高める技法を使っていようが、妖魔のランクを一時的に上昇させる『妖魔召士』の禁術を扱える『特別退魔士とくたいま』達であれば、時間はかかろうともあの妖魔退魔師をしっかりと倒してくれることだろう。

 ジンゼンは空の上から逃げる『ナギリ』を見ていた視線を追いかける『退魔組』の者たちに向け始める。

 その視線を感じ取ったのかどうかは定かではないが『クキ』は目ざとく上空にいる『ジンゼン』を見上げると、走っている速度を緩めながらこちらの指示を待ち始める。

「どうやら役目というモノをしっかりと理解しているようだな。ではそろそろ仕掛けてみようか……」

 ジンゼンはそう結論に至ると、こちらを見ている『クキ』に大きく頷いて見せるのだった。
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