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サカダイ編

1378.誘引と油断

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 スオウが王連と一騎打ちで戦い始めた頃、王連の神通力によって動けなくされた『ヤヒコ』を抱きかかえたままのナギリは、森の中を移動していた。

 元々離れた理由としては、王連の神通力の範囲から逃れた上で、二組の組長である『スオウ』の戦闘の邪魔にならないようにしようという考えがあったのだが、その他にも重大な理由があった。

 それは『王連』を使役した妖魔召士『ジンゼン』をおびき寄せるという狙いである。

 王連と相対していた時には『ジンゼン』は姿を見せてはいなかったが、あの場所には『ジンゼン』が居た事はナギリ達にも分かっていた。

 どうやら『ジンゼン』は、妖魔退魔師達が魔力を感知出来ないと頭から決めつけて油断をしていたようだが、ナギリやスオウはジンゼンが隠れてこちらを見ている事に気づいていた。

 妖魔退魔師達の中でも『組』に属する幹部や、ミスズに直接鍛えられている『特務』に所属するナギリ達であれば、そこまで離れていない場所であればだが、ある程度は気配などから位置情報を探り当てる事が出来る。

 カヤであればナギリよりもう少し詳しく特定が出来るだろうが、油断をしていたジンゼンが相手であった為に、ナギリでも十分に気づけていた。

 そしてスオウが王連と戦い始めた時、彼はヤヒコを担いでその場を離れようとした時にジンゼンが動いたのを察知した為、実際に離れる時にはスオウにジンゼンをおびき寄せる旨を伝えてその場を離れていた。

 そのままその場を離れるナギリを何処までついてくるかで対応を変えようとは考えていたが、結局最後までジンゼンはついてきたようであった。

 どうやら本気で戦うスオウの場に居れば邪魔になるだろうと判断したナギリ達と同様に、ジンゼンの方も天狗の『王連』が戦うところに自分は不要だと判断してこちらを追ってきたのだろう。

 若しくは王連であればスオウ組長を倒せると信頼して、こちらも始末してしまおうと考えたのかもしれないが、どちらにせよナギリにとっても『ジンゼン』だけが追ってくるのであれば都合が良かったといえる。

 確かにジンゼンは『上位妖魔召士』で簡単に倒せる相手でない事は重々承知しているが、それでも『王連』という妖魔を使役し続けている以上は今も『魔力』を消費し続けている筈であり、いくら多くの強力な妖魔と契約を行っていたとしても、同時に複数の高ランクの妖魔を使役は出来ないだろう。

 つまりスオウ組長が『王連』と戦っていてくれている現在は、単独で追って来てくれた方が『ナギリ』にとっては非常に有難い事なのであった。

「この辺までくれば『スオウ』組長の戦闘の邪魔にはなるまい」

 ナギリはそう独り言ちると足を止めて振り返る。

 するとやはりというべきか、振り返った先の空から『鳥』に跨ってナギリを追ってくる『ジンゼン』の姿が見えた。

 足を止めてじっと空にいる自分を見つめるナギリの姿を見たジンゼンは、もう身を隠そうとするのをやめて、そのまま地上へと降りてくるのだった。

「驚いたな。私が追ってきているという事に気づいていたのか……? お主ら妖魔退魔師は魔力を感じ取れないと思っていたのだがな」

「俺達妖魔退魔師を甘く見ないでもらおうか。魔力を感知出来なくともあれだけ近くに居れば、気配でだいたいの居場所は分かる。何より『結界』だかを張っているせいで、アンタが隠れていた場所だけ、あまりにも不自然さがにじみ出ていたからな」

 ジンゼンはナギリの話を聞いて合点がいったとばかりに頷いて見せた。

 ジンゼンは決して妖魔退魔師を侮っていたわけではないが、それでも魔力での感知は出来ないだろうと、意識がいき過ぎていたようであった。

「やれやれ。どうやら私も相当に焦っていたようだ。だが、お前も私以外の存在には気づけてはいなかったようだな?」

「むっ! あれは……」

 ジンゼンの言葉を聞いてどういうことかと尋ねようとした瞬間。再びジンゼンが飛んできた背後の空から次々に白い狩衣を着た『退魔組』の『特別退魔士とくたいま』達が、妖魔に跨りながらこちらに向かってくるのが見えた。

 更にその『式』の妖魔に跨った『特別退魔士』達に並走するように、地上からも複数の人間達がこちらに向かってくるのも見える。

 見覚えのある服装から『ナギリ』は彼らも『退魔組』に属する護衛剣士達だろうとアタリをつけるのだった。

 どうやら追ってきていたのは『ジンゼン』だけではなかったようである。

「ちっ……! まさか他にもこれだけ大勢隠れていたとは予想外だったな」

 確かにあの場で『結界』の影響による気薄な気配は感じられたが『王連』を『式』にしている事で有名な『ジンゼン』の事が先入観にあり、隠れているのはジンゼンだけだと無意識に絞って考えてしまっていたようである。

 続々と集まってくる者達を前に、動けないヤヒコを抱えたままであった『ナギリ』は舌打ちをしながらも『オーラ』を纏わせ始めるのだった。
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