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サカダイ編
1362.カヤの決死の覚悟
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(い、今の一撃で決められなかったのは非常に痛い。力で及ばぬ私では『幻朧』での不意を突いた一撃で仕留める以外に手立てはなかった。それもどうやら次は通用しないであろうし、そもそも先程の奴の一撃によって、どうやら木に激突させられた拍子にどこか身体を痛めてしまっている……)
傷を負った今のカヤでは先程までのような速度を出す事は出来ないだろう。
更に今度は今みたいな油断をしてくれる事を期待も出来なくなってしまった。あれだけの強さを誇る妖魔である以上は、当然の事ながら学習能力も高いだろう。
――まさに八方塞がりとなってしまう『カヤ』であった。
『黄雀』は木にもたれ掛かりながら必死に立ち上がる『カヤ』を見て、口では先程の続きをみせろと告げてはみたが、もう先程の面妖な攻撃は見られないだろうなと確信に近い思いを抱いていた。
(どうやら立ち上がれはしたようだが、背骨が折れたか? こちらに悟られないと刀を杖代わりにもせずに健気に刀を構えてはいるが、視線は泳いでおるし、何より背筋は真っすぐ伸びておらぬ。あれでは先程のような動きを見せるどころか、こちらに歩いてくる事すら困難な状態だろう。まぁそれでも奴らは妖魔退魔師だ。後先を考えずに一矢報いようと血反吐をぶち撒けようとも覚悟を決めて斬りかかってくるかもしれぬが、そんなやぶれかぶれでは俺には絶対に通用しないと断言が出来る。ひと思いに楽にしてやるのもいいが、我が契約主の事を思えば、あえてこやつを生かしたままで時間を稼ぐのも手だな)
そんな風に『黄雀』が考えていると、刀を構える事すら相当に辛いだろうに『カヤ』は健気にも『黄雀』に向かって駆け出そうと再び『霞の構え』を取りながら『青』を纏い始めるのだった。
「驚いた……。お主こそ真の『妖魔退魔師』で間違いはない。敵ではあるが俺はお前のような気骨のある『武士』は嫌いではない。どうだろう? 先程とは気が変わってはおらぬか? 本当に少しの間、大人しくしていてくれるのならば、俺はお前の命までは奪わずにおいてやってもいいと本当に考えている。これは誓って嘘ではない。お前達『妖魔退魔師』に『妖魔』に対して聞く耳を持っているならば、ここは俺の気持ちを汲んで生き延びてみるつもりはないか?」
死を厭わずに勝てぬと理解しながらも、痛む身体に鞭を打ってまだ戦おうとする『カヤ』に、思うところがあったようで本音を告げる『黄雀』であった。
「あ、ありがたい申し出だけどね。わ、私は名誉ある『妖魔退魔師』の隊士なの。妖魔に情けをかけられて生き延びるくらいならば、このまま誇りを持って最後まで戦って死んだほうがマシよ!」
カヤがそう啖呵を切った瞬間に、彼女が纏っていた『淡い青』が、鮮明な『天色』へと変貌を遂げていくのであった。
「……」
腕を組んでカヤに視線を送り続けていた『黄雀』は、その組んでいた手を解くと大きく頷いて見せた。
「残念なことだ。お主のような真の武士こそ、後世まで生きてもらって『後進』を育てていってもらいたいところなのだがな」
そう告げながら、心の底から残念だとばかりに『黄雀』は溜息を吐くのだった。
「そ、そんな心配は無用よ。当代の『妖魔退魔師』組織の者達は、私などよりもずっと優れた隊士が集まっているからね! い、いくわよ!!」
その掛け声と共になんと『カヤ』は先程と同様とまではいわないが、それでも歩く事すら困難だろうと思っていた『黄雀』の考えとは掛け離れる程の速度で向かってくるのであった。
「まっこと大したものだな、当代の妖魔退魔師よ。それならばこちらも手を抜くような愚かな真似はせぬ。全霊をもって、お主の気持ちに応えようではないか!」
次の瞬間――。
先程までとは比較にもならぬ程に『黄雀』の『魔力』が跳ね上がったかと思うと、彼は口で何かを呟き始めた。
それこそは最初にこの場に居た妖魔退魔師達全員を一斉に動けなくさせた『呪詛』であった。
傷を負わされる前の『カヤ』であればまだ、この『黄雀』の呪詛に対しても回避が行えたかもしれない。しかし今のカヤでは、とてもではないが回避を行えるような余力は残されてはいなかった――。
「あ……」
まるで見えない壁がいきなり立ち塞がったように感じられたカヤは、最後の抵抗も空しくその場に足を止められてしまった。そして立ち止まった彼女に向けて『黄雀』は右手に先程込めた『魔力』を集約し始める。
「残念だが、これで終わりだ」
『黄雀』の右手に形成付与された『魔力』によって、カヤの命を確実に奪えるだけの威力が調節された『衝撃波』が放たれようとするのだった。
傷を負った今のカヤでは先程までのような速度を出す事は出来ないだろう。
更に今度は今みたいな油断をしてくれる事を期待も出来なくなってしまった。あれだけの強さを誇る妖魔である以上は、当然の事ながら学習能力も高いだろう。
――まさに八方塞がりとなってしまう『カヤ』であった。
『黄雀』は木にもたれ掛かりながら必死に立ち上がる『カヤ』を見て、口では先程の続きをみせろと告げてはみたが、もう先程の面妖な攻撃は見られないだろうなと確信に近い思いを抱いていた。
(どうやら立ち上がれはしたようだが、背骨が折れたか? こちらに悟られないと刀を杖代わりにもせずに健気に刀を構えてはいるが、視線は泳いでおるし、何より背筋は真っすぐ伸びておらぬ。あれでは先程のような動きを見せるどころか、こちらに歩いてくる事すら困難な状態だろう。まぁそれでも奴らは妖魔退魔師だ。後先を考えずに一矢報いようと血反吐をぶち撒けようとも覚悟を決めて斬りかかってくるかもしれぬが、そんなやぶれかぶれでは俺には絶対に通用しないと断言が出来る。ひと思いに楽にしてやるのもいいが、我が契約主の事を思えば、あえてこやつを生かしたままで時間を稼ぐのも手だな)
そんな風に『黄雀』が考えていると、刀を構える事すら相当に辛いだろうに『カヤ』は健気にも『黄雀』に向かって駆け出そうと再び『霞の構え』を取りながら『青』を纏い始めるのだった。
「驚いた……。お主こそ真の『妖魔退魔師』で間違いはない。敵ではあるが俺はお前のような気骨のある『武士』は嫌いではない。どうだろう? 先程とは気が変わってはおらぬか? 本当に少しの間、大人しくしていてくれるのならば、俺はお前の命までは奪わずにおいてやってもいいと本当に考えている。これは誓って嘘ではない。お前達『妖魔退魔師』に『妖魔』に対して聞く耳を持っているならば、ここは俺の気持ちを汲んで生き延びてみるつもりはないか?」
死を厭わずに勝てぬと理解しながらも、痛む身体に鞭を打ってまだ戦おうとする『カヤ』に、思うところがあったようで本音を告げる『黄雀』であった。
「あ、ありがたい申し出だけどね。わ、私は名誉ある『妖魔退魔師』の隊士なの。妖魔に情けをかけられて生き延びるくらいならば、このまま誇りを持って最後まで戦って死んだほうがマシよ!」
カヤがそう啖呵を切った瞬間に、彼女が纏っていた『淡い青』が、鮮明な『天色』へと変貌を遂げていくのであった。
「……」
腕を組んでカヤに視線を送り続けていた『黄雀』は、その組んでいた手を解くと大きく頷いて見せた。
「残念なことだ。お主のような真の武士こそ、後世まで生きてもらって『後進』を育てていってもらいたいところなのだがな」
そう告げながら、心の底から残念だとばかりに『黄雀』は溜息を吐くのだった。
「そ、そんな心配は無用よ。当代の『妖魔退魔師』組織の者達は、私などよりもずっと優れた隊士が集まっているからね! い、いくわよ!!」
その掛け声と共になんと『カヤ』は先程と同様とまではいわないが、それでも歩く事すら困難だろうと思っていた『黄雀』の考えとは掛け離れる程の速度で向かってくるのであった。
「まっこと大したものだな、当代の妖魔退魔師よ。それならばこちらも手を抜くような愚かな真似はせぬ。全霊をもって、お主の気持ちに応えようではないか!」
次の瞬間――。
先程までとは比較にもならぬ程に『黄雀』の『魔力』が跳ね上がったかと思うと、彼は口で何かを呟き始めた。
それこそは最初にこの場に居た妖魔退魔師達全員を一斉に動けなくさせた『呪詛』であった。
傷を負わされる前の『カヤ』であればまだ、この『黄雀』の呪詛に対しても回避が行えたかもしれない。しかし今のカヤでは、とてもではないが回避を行えるような余力は残されてはいなかった――。
「あ……」
まるで見えない壁がいきなり立ち塞がったように感じられたカヤは、最後の抵抗も空しくその場に足を止められてしまった。そして立ち止まった彼女に向けて『黄雀』は右手に先程込めた『魔力』を集約し始める。
「残念だが、これで終わりだ」
『黄雀』の右手に形成付与された『魔力』によって、カヤの命を確実に奪えるだけの威力が調節された『衝撃波』が放たれようとするのだった。
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