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サカダイ編

1357.ヒュウガの頷き

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「ここで一体、何をしているのですか?」

「ひ、ヒュウガ様!」

 こことは違う洞穴で待機していた筈のヒュウガが、まさかこの場に現れるとは思っていなかった事で、最高幹部の一人である『ジンゼン』は当然の事ながら、他の『退魔組』の『特別退魔士とくたいま』も慌ててヒュウガの元へ来るのであった。

「貴方に『王連』を使役して頂いて、この場に現れた妖魔退魔師達の足止めをするように、キクゾウに伝令を頼んでおいたはずなのですが、何故ここにキクゾウの姿はなく、代わりに貴方がここで休んでいるのか。それを私に説明しては頂けませんかねぇ……?」

 言葉遣いはとても丁寧なヒュウガだが、眉をピクピクと動かしながらジンゼンを睨んでいる今のヒュウガは、誰から見ても相当に苛立っているのだろうと察しがつく程であった。

「も、申し訳ありません。キクゾウ殿は私の『魔力』が残り少ない事を案じて、代わりにこの森に入り込んできている『妖魔退魔師』を止める為に、キクゾウ殿の『式』である『黄雀こうじゃく』を用いて私の代わりに森の中へと向かわれました……!」

 ジンゼンがそう告げると『ヒュウガ』は思案していた表情を変えて、じっと何かを探るようにジンゼンに視線を向け始める。

「そういう事ですか。そういえば貴方にはここに来る前に既に『ケイノト』の前で一戦交えていましたね。その上に『隻眼』と戦う『王連』を使役し続ける魔力を消費し続けていた。確かに『魔力枯渇』を行うのも無理はありません。これは確かに私の認識不足からくる誤った命令でした」

 謝罪をしているようにもとれるヒュウガの言い方に、ジンゼンは何と言っていいのか分からず黙っていると、ヒュウガは洞穴の外の方に視線を向けながら、再び何かを思案する。

 どうやらヒュウガの様子を見るに、妖魔退魔師のある程度の位置を把握し直そうと『魔力探知』をおこなっているのだろう。それを見たジンゼンも同じように『キクゾウ』の居る場所の方に絞って『魔力』を探知し始めるのだった。

 キクゾウも『結界』を張って居場所を突き止められないようにしているが、ヒュウガやジンゼン達は元々『キクゾウ』が何処へ向かったかをある程度は把握している。

 つまりその状況であれば『魔力』の奔流が少し他の場所と違う違和を感じるところが、キクゾウの居る場所だと察する事が出来るのであった。

(※『上位妖魔召士』のキクゾウの張った『結界』でも、これ程に見つけ出す事に苦労をするが、更に『ヒュウガ』や『イダラマ』の張っている『結界』は更にその上をいく為に、彼ら『最上位妖魔召士』の『結界』であれば『魔力』の奔流での違和すら感じさせなく出来る為に、もはや『理』を使った魔法である『隠幕ハイド・カーテン』ほどに見つけ出す事が難しくなるだろう)。

 そしてヒュウガとジンゼンは互いに、現在キクゾウが居る場所を割り出す事に成功するのであった。

 ヒュウガはそこでジンゼンの方を向き直り口を開いた。

「私の命令で動いたキクゾウが、貴方の代わりに『黄雀こうじゃく』を使役して妖魔退魔師の足止めに向かった以上は、彼は魔力枯渇を気にせずに全力で奴らの足を止めようとするでしょう。キクゾウと『黄雀』であれば大抵の『妖魔退魔師』達が相手でも何とか出来るでしょうが、この森にはあの『スオウ』組長殿や彼らの組織の『副総長』であるミスズ殿も居ます。彼はどうやら『ミスズ』殿や『スオウ』殿とも違う相手と戦っているようですが、これはどうやら彼の作戦でしょうね。より強力な者達を分断させて、私の命令通りに足止めを優先させようとしているのでしょう」

 流石に『妖魔召士』組織のNo.2の指揮官ともよべる地位に居たことがあるヒュウガは、キクゾウが自分の命令の遂行を果たす為には何が一番効果的だろうかと考えて行動を取ったのだと察したヒュウガは、感心するような頷きを見せるのだった。

「本来ならばここで合流をしていた筈のイツキと共に、貴方と『王連』を向かわせる事で、分断して孤立をしている『妖魔退魔師』達を個々に狙い、最後に全勢力で『ミスズ』殿を片付けられた筈なのですが。まぁ居ないものを戦力として数えても栓なき事ですね」

「ひゅ、ヒュウガ様! も、もう私も『王連』を一回くらいの戦闘ならば、最後まで使役し続けられる『魔力』が戻りましたので、これより参戦致します! キクゾウ殿が分断した妖魔退魔師の数を減らして参ります!」

 実際にはあれだけの戦闘で減らした『魔力』がこんな短時間で戻る筈もなく、ジンゼンは『魔力』の代わりに『生命力』で補うつもりで戦場に出るつもりであった。

 もしこのまま『魔力枯渇』を理由に戦闘に参加せず、妖魔退魔師達にやりたい放題されて彼らの長である『ヒュウガ』の計画が頓挫するような事にでもなれば目も当てられない。

 そう考えたジンゼンは、泣き言を言っている場合ではないと考えて必死に戦場に出る意思をヒュウガに伝えるのであった。

「こちらも少し計画が狂いましてね。戦える人数に限りがあるので、貴方がそう言ってくれて助かりましたよ、ジンゼンさん。そうだ! 貴方達もここまで見張りのみに徹して頂いていましたよね? 貴方達もジンゼンさんと協力して奴らを追い払って頂きましょう。これだけ『退魔組』の皆さんが揃っていれば、ジンゼンさんも大助かりでしょう。是非協力をお願いしますよ」

 その優しげな口調とは裏腹にヒュウガの目は『お前達、手伝わなければ分かっているだろうな』と告げていた。

「は、はい! わ、我々も魔力は十分に残っております! ぜ、是非手伝わせてください」

「が、頑張ります!」

 ヒイラギとミナが慌ててそう告げると、もう一人の『特別退魔士』のクキや、他の護衛達も頷くのであった。

「では貴方がたは一番この場所に近づいてきている『スオウ』殿の相手をお願いしますよ。組長格が相手ではありますが、相手の後続がスオウ殿達の居る場所へ向かう事は当分はありませんでしょうから『王連』を使役させて一気に叩き潰して差し上げなさい。そして見事に倒した後は『キクゾウ』と合流するのです。私も他の妖魔退魔師を片付けたら、そちらに合流しますので」

「わ、分かりました!」

「では、お願いします」

「「はい!」」

 ジンゼンと退魔組の者達が慌ててヒュウガに頭を下げたかと思うと、一目散に命令に従って洞穴を出て行くのであった。

 その場に一人残されたヒュウガは去って行く者達の後ろ姿を見ながら、これで『退魔組』の『特別退魔士』達も遊ばせておくだけではなく、有効活用が出来たとばかりに上機嫌に笑うのであった。

 ……
 ……
 ……
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