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サカダイ編
1354.部下達の緊張を解すサシャ
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――カヤ達が『黄雀』と遭遇する少し前。
その背後でヒュウガの捜索を行っていた『サシャ』達の部隊は、森の中にあった『洞穴』から出て来た。
「また外れのようね」
サシャが溜息を吐いてそう告げると、彼女の組の隊士達も一様に肩を落としていた。
そしてそんな隊士達を見て一言励ましの言葉をかけようとしたサシャだったが、洞穴の方へ徐々に近寄ってきていた妖魔達の気配を感じて『サシャ』は刀を構え始める。
「お前達……」
「はい……。この洞穴の周囲一帯は既に囲まれているようです。どうやら罠だったようです」
ヒュウガ一派についている『妖魔召士』の数が如何ほどかまでは分からないサシャ達は、こんなところにいないだろうと思う場所であっても、人数を分散させて隠れている可能性も考慮しなければならない。
一つ一つこのような人が数人程でも入れる洞穴があれば、見て回らなければならないと考えていたが、こんな風に都度出て来たところを囲まれて罠に嵌められるのであれば、これからは何か別の対策をとらなければならないだろうなと考えるのであった。
まだ妖魔達は妖魔退魔師の前にまで姿を見せてはいないが、既にこれほどの近くの距離まで迫って来ていたならば、妖魔退魔師達では十分に気配を探れる。
「当然ここに集まっているであろう妖魔達はその全てが『人型』を取れるだろうが、もし獣系のままや本来の姿のままで姿を現したとしても、その見た目に惑わされないようにしなさい。この森に居るのは最高幹部であった『ヒュウガ』の一派達に付き従って動いている幹部連中です。ランク『1』や『2』の妖魔を『式』にしているとは到底思えないですからね」
「「御意!」」
「それと『特務』に所属している貴方」
「は、はい! 何でしょうか。サシャ様!」
「貴方達『特務』に居る者達は全員が、あのミスズ様からその才能を見込まれて集められたと聞いています。ですので私は元『予備群』であった貴方達であっても私の組の隊士と同じように扱います」
サシャは凛とした声を周囲に響かせながら真剣な表情で告げる。
「もちろん分かっているとは思いますが、他の隊士に守ってもらえるとは考えずに、貴方自身の目で戦局を見据えて、貴方自身の考えで動きなさい。掛けようと思ってかけられた迷惑にはそれなりに叱りますが、仕方ないミスで我々の足を引っ張ったとしても私達は絶対に貴方を責めません。私はそんな貴方の行動を尊重しますので遠慮は要りませんからね」
『二組』副組長の『サシャ』隊士は、厳しくもこの若い隊士の緊張をほぐそうとそう口にして、小さくまとまるなと発破をかけるつもりでわざと声を掛けた。
戦場では統率力がモノを言う。本来であれば『特務』よりも『二組』の方が組織の中では上の立場であり、その『特務』に所属する隊士は『二組』の隊士の命令や指示には絶対に従わなければならないというのが、ガチガチの縦社会である『妖魔退魔師』組織だった。
しかしこの『サシャ』は『特務』の若い隊士に周りの隊士達が目上の者達だからといって、自分取るべきと考えた信じられる行動を制限せずに『特務』に所属する者として、ミスズに鍛えられた普段通りの貴方のままで『思うように動きなさい』という意味を込めて伝えたのであった。
「は、はは! 分かりました。ご指導ありがとうございます!」
そしてその若い隊士がサシャに礼を告げたと同時に、この場に『妖魔召士』達と契約をしている『式』の妖魔達が彼女たちの前に姿を表せ始めるのだった。
この場に現れた妖魔達は、やはり全員が『人型』であった――。
「行くわよ!」
サシャがそう口にすると一斉に、妖魔退魔師達は行動を開始する。
現れた多くの妖魔達は全てが人型であるために、最低でもランクは『3』以上なのは間違いないが、その上でもまず『3』はあり得ない。
この場に居る妖魔退魔師達は全員がそう考えて、相手の妖魔を侮るような真似をせずに、最初から『魔力』消費を気にせずに『瑠璃』を纏いながら全力で斬り伏せて行くのであった。
当然のようにサシャは高ランクであろう妖魔の攻撃をあっさりと躱して、返しの一撃で斬り伏せてみせる。
他の『二組』の隊士達も流石は幹部だけあって動きが洗練されていて無駄がない。
『特務』の若い隊士もサシャに発破をかけられた事で、やる気満々で迎え撃とうとししていたが、どうやらその若い女性の隊士は手を出すまでもなく終わりそうであった。
(す、凄い! さ、流石はあの『スオウ』組長と共に、長きに渡って実力で『一組』の座を守り続けてきた幹部の皆様方だ!)
『特務』に所属している彼女も『本部付け』の妖魔退魔師衆より遥かに強い戦力値を有してはいるが、それでもそんな彼女から見てもこの場に居る隊士達の動きはその『全員』が惚れ惚れとする程であった。
「ん……?」
そんな驚嘆の声をあげていた『特務』所属の彼女だったが、皆が妖魔を斬り伏せて行く中、空の上からどうやら『鳥』の妖魔に跨って何やら『手印』を結んでいる輩を発見するのだった。
「あれは……! 妖魔召士!!」
戦っている他の隊士達に伝えようと口を開きかけたその『特務』の若い隊士だったが、そこで先程の『サシャ』副組長の言葉を思い出す。
――『貴方自身の目で戦局を見据えて、貴方自身の考えで動きなさい』。
若い隊士の頭に先程の『サシャ』の言葉が浮かんだかと思うと、伝令しようとしていた口を閉ざして、代わりに得の刀に『天色』のオーラを纏わせ始める。
「うわあああ!!」
若い隊士は自分を鼓舞するように腹の底から大声を出して前へと駆け出す――。
そして駆けながらクルリと刀を逆手に持つと、思いきり近くの木を蹴り上げながら、反動をつけて駆けあがっていき、そして木の枝から勢いをつけて飛び上がる。
――刀技、『疾風』。
それこそは『特務』を束ねる者にして『妖魔退魔師』副総長ミスズの編み出した刀技。
『特務』に所属する者達全員が、直々にミスズに教わり身を守る為に覚えさせられた剣技の一つであった。
「ぬぐっ……!?」
空の上から『式』と戦っていた『妖魔退魔師』達を『捉術』を用いて一網打尽にしようとしていた『妖魔召士』は、いつの間に『鳥』の妖魔に乗って空に居る自分より高い空に現れたのだと頭で考える間もなく、若い『特務』の隊士の恐るべき刀速の攻撃によって、斬られてしまうのであった。
「ちっ……!」
しかし上手く虚を突いた一撃ではあったのだが、流石に空の上だったという事もあって、若い隊士の狙いは僅かにずれたようで、即座に絶命させるには至らなかったようである。
剣技を放った隊士は仕留めきれなかった事を悔やみ、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべながら、自分だけが引力に逆らえずに地面へと向かっていくのだった。
空の上に居る『妖魔召士』は決して浅くはない傷を与えられながらも、決してこの隙を逃すまいと『特務』の若い隊士に向けて『捉術』を放とうと手印を結び始める。
「残念だったな……! 空の上に居る私に気づけた洞察力は大したものだったが、空を飛べぬお前らでは、結局はその程度しか出来ぬのだ! 死ねぇ!」
どうすることも出来ずに若い隊士は空を見上げながら唇を噛んだが、そこで何かを見て目を丸くするのだった。
「ふふっ! よくやってくれたわよ?」
妖魔召士の男はその声を聴いて後ろを振り返った。
いつの間に彼の使役した『鳥』の妖魔の背に飛び乗っていたのか、そこには『サシャ』が姿を見せていた。
「くっ、くそっ!!」
「遅い!」
サシャは『妖魔召士』の男が、至近距離から『動殺是決』の『捉術』を使おうと伸ばして来た手を足で蹴り上げると、そのまま一刀のもとに斬り捨てた。
そしてそのまま返しの一撃で『鳥』の妖魔の胴体に刀を突きさすと死んだかすら確認をする間も無く、そこから何の迷いも無く、高い空の上から近くの木に向けて飛び降りるのだった。
恐ろしい程の身のこなしで木に飛び移ると、いつかの『サカダイ』の櫓門の石垣を利用して登っていった時のように、今度は木を上手く使って無事に地面に着地するのだった。
そしてその彼女の居る場所とは少し遠い場所に、ドサリという音と共に『妖魔召士』の亡骸が落ちてくる。
サシャはそれを一瞥した後に、今度は先程の『鳥類』の妖魔が居た場所に視線を送ると、その空の上では、ぼんっ!という音と共にヒラリ、ヒラリと式札に戻った式札が舞っているのが見えた――。
……
……
……
その背後でヒュウガの捜索を行っていた『サシャ』達の部隊は、森の中にあった『洞穴』から出て来た。
「また外れのようね」
サシャが溜息を吐いてそう告げると、彼女の組の隊士達も一様に肩を落としていた。
そしてそんな隊士達を見て一言励ましの言葉をかけようとしたサシャだったが、洞穴の方へ徐々に近寄ってきていた妖魔達の気配を感じて『サシャ』は刀を構え始める。
「お前達……」
「はい……。この洞穴の周囲一帯は既に囲まれているようです。どうやら罠だったようです」
ヒュウガ一派についている『妖魔召士』の数が如何ほどかまでは分からないサシャ達は、こんなところにいないだろうと思う場所であっても、人数を分散させて隠れている可能性も考慮しなければならない。
一つ一つこのような人が数人程でも入れる洞穴があれば、見て回らなければならないと考えていたが、こんな風に都度出て来たところを囲まれて罠に嵌められるのであれば、これからは何か別の対策をとらなければならないだろうなと考えるのであった。
まだ妖魔達は妖魔退魔師の前にまで姿を見せてはいないが、既にこれほどの近くの距離まで迫って来ていたならば、妖魔退魔師達では十分に気配を探れる。
「当然ここに集まっているであろう妖魔達はその全てが『人型』を取れるだろうが、もし獣系のままや本来の姿のままで姿を現したとしても、その見た目に惑わされないようにしなさい。この森に居るのは最高幹部であった『ヒュウガ』の一派達に付き従って動いている幹部連中です。ランク『1』や『2』の妖魔を『式』にしているとは到底思えないですからね」
「「御意!」」
「それと『特務』に所属している貴方」
「は、はい! 何でしょうか。サシャ様!」
「貴方達『特務』に居る者達は全員が、あのミスズ様からその才能を見込まれて集められたと聞いています。ですので私は元『予備群』であった貴方達であっても私の組の隊士と同じように扱います」
サシャは凛とした声を周囲に響かせながら真剣な表情で告げる。
「もちろん分かっているとは思いますが、他の隊士に守ってもらえるとは考えずに、貴方自身の目で戦局を見据えて、貴方自身の考えで動きなさい。掛けようと思ってかけられた迷惑にはそれなりに叱りますが、仕方ないミスで我々の足を引っ張ったとしても私達は絶対に貴方を責めません。私はそんな貴方の行動を尊重しますので遠慮は要りませんからね」
『二組』副組長の『サシャ』隊士は、厳しくもこの若い隊士の緊張をほぐそうとそう口にして、小さくまとまるなと発破をかけるつもりでわざと声を掛けた。
戦場では統率力がモノを言う。本来であれば『特務』よりも『二組』の方が組織の中では上の立場であり、その『特務』に所属する隊士は『二組』の隊士の命令や指示には絶対に従わなければならないというのが、ガチガチの縦社会である『妖魔退魔師』組織だった。
しかしこの『サシャ』は『特務』の若い隊士に周りの隊士達が目上の者達だからといって、自分取るべきと考えた信じられる行動を制限せずに『特務』に所属する者として、ミスズに鍛えられた普段通りの貴方のままで『思うように動きなさい』という意味を込めて伝えたのであった。
「は、はは! 分かりました。ご指導ありがとうございます!」
そしてその若い隊士がサシャに礼を告げたと同時に、この場に『妖魔召士』達と契約をしている『式』の妖魔達が彼女たちの前に姿を表せ始めるのだった。
この場に現れた妖魔達は、やはり全員が『人型』であった――。
「行くわよ!」
サシャがそう口にすると一斉に、妖魔退魔師達は行動を開始する。
現れた多くの妖魔達は全てが人型であるために、最低でもランクは『3』以上なのは間違いないが、その上でもまず『3』はあり得ない。
この場に居る妖魔退魔師達は全員がそう考えて、相手の妖魔を侮るような真似をせずに、最初から『魔力』消費を気にせずに『瑠璃』を纏いながら全力で斬り伏せて行くのであった。
当然のようにサシャは高ランクであろう妖魔の攻撃をあっさりと躱して、返しの一撃で斬り伏せてみせる。
他の『二組』の隊士達も流石は幹部だけあって動きが洗練されていて無駄がない。
『特務』の若い隊士もサシャに発破をかけられた事で、やる気満々で迎え撃とうとししていたが、どうやらその若い女性の隊士は手を出すまでもなく終わりそうであった。
(す、凄い! さ、流石はあの『スオウ』組長と共に、長きに渡って実力で『一組』の座を守り続けてきた幹部の皆様方だ!)
『特務』に所属している彼女も『本部付け』の妖魔退魔師衆より遥かに強い戦力値を有してはいるが、それでもそんな彼女から見てもこの場に居る隊士達の動きはその『全員』が惚れ惚れとする程であった。
「ん……?」
そんな驚嘆の声をあげていた『特務』所属の彼女だったが、皆が妖魔を斬り伏せて行く中、空の上からどうやら『鳥』の妖魔に跨って何やら『手印』を結んでいる輩を発見するのだった。
「あれは……! 妖魔召士!!」
戦っている他の隊士達に伝えようと口を開きかけたその『特務』の若い隊士だったが、そこで先程の『サシャ』副組長の言葉を思い出す。
――『貴方自身の目で戦局を見据えて、貴方自身の考えで動きなさい』。
若い隊士の頭に先程の『サシャ』の言葉が浮かんだかと思うと、伝令しようとしていた口を閉ざして、代わりに得の刀に『天色』のオーラを纏わせ始める。
「うわあああ!!」
若い隊士は自分を鼓舞するように腹の底から大声を出して前へと駆け出す――。
そして駆けながらクルリと刀を逆手に持つと、思いきり近くの木を蹴り上げながら、反動をつけて駆けあがっていき、そして木の枝から勢いをつけて飛び上がる。
――刀技、『疾風』。
それこそは『特務』を束ねる者にして『妖魔退魔師』副総長ミスズの編み出した刀技。
『特務』に所属する者達全員が、直々にミスズに教わり身を守る為に覚えさせられた剣技の一つであった。
「ぬぐっ……!?」
空の上から『式』と戦っていた『妖魔退魔師』達を『捉術』を用いて一網打尽にしようとしていた『妖魔召士』は、いつの間に『鳥』の妖魔に乗って空に居る自分より高い空に現れたのだと頭で考える間もなく、若い『特務』の隊士の恐るべき刀速の攻撃によって、斬られてしまうのであった。
「ちっ……!」
しかし上手く虚を突いた一撃ではあったのだが、流石に空の上だったという事もあって、若い隊士の狙いは僅かにずれたようで、即座に絶命させるには至らなかったようである。
剣技を放った隊士は仕留めきれなかった事を悔やみ、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべながら、自分だけが引力に逆らえずに地面へと向かっていくのだった。
空の上に居る『妖魔召士』は決して浅くはない傷を与えられながらも、決してこの隙を逃すまいと『特務』の若い隊士に向けて『捉術』を放とうと手印を結び始める。
「残念だったな……! 空の上に居る私に気づけた洞察力は大したものだったが、空を飛べぬお前らでは、結局はその程度しか出来ぬのだ! 死ねぇ!」
どうすることも出来ずに若い隊士は空を見上げながら唇を噛んだが、そこで何かを見て目を丸くするのだった。
「ふふっ! よくやってくれたわよ?」
妖魔召士の男はその声を聴いて後ろを振り返った。
いつの間に彼の使役した『鳥』の妖魔の背に飛び乗っていたのか、そこには『サシャ』が姿を見せていた。
「くっ、くそっ!!」
「遅い!」
サシャは『妖魔召士』の男が、至近距離から『動殺是決』の『捉術』を使おうと伸ばして来た手を足で蹴り上げると、そのまま一刀のもとに斬り捨てた。
そしてそのまま返しの一撃で『鳥』の妖魔の胴体に刀を突きさすと死んだかすら確認をする間も無く、そこから何の迷いも無く、高い空の上から近くの木に向けて飛び降りるのだった。
恐ろしい程の身のこなしで木に飛び移ると、いつかの『サカダイ』の櫓門の石垣を利用して登っていった時のように、今度は木を上手く使って無事に地面に着地するのだった。
そしてその彼女の居る場所とは少し遠い場所に、ドサリという音と共に『妖魔召士』の亡骸が落ちてくる。
サシャはそれを一瞥した後に、今度は先程の『鳥類』の妖魔が居た場所に視線を送ると、その空の上では、ぼんっ!という音と共にヒラリ、ヒラリと式札に戻った式札が舞っているのが見えた――。
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