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サカダイ編

1326.最強の大魔王の自我

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 イツキの顔を目掛けて放った肘打ちを首を捻って躱されたソフィは、よく今のを躱せたものだとばかりに感心していたが、そんなソフィに下から手を伸ばしてきて何やら下からの態勢で攻撃を行おうとしているのが見えた。

 冷静にソフィはイツキの手に集約された『魔力』の規模から、これはやぶれかぶれの一撃ではなく、正真正銘の勝負を決められると考えた本気の一撃なのだと悟る。

 つまりこのイツキの一撃を耐え凌げば、奴は完全に余裕を失い、本気で彼の持ち得る最大限の『力』で殺しにくるのだろうとソフィは考えた。

(お主の『力』がどれ程のものなのか、試させてもらうぞ!)

 そしてソフィはイツキの首を掴んでくる手を冷静に見続けて、抵抗をせずにわざと自身の首を掴ませるのであった。

 ――、『動殺是決どうさつぜけつ』。

「ぐっ――……!!」

 最初に首を掴まれた瞬間からしてイツキの『魔力』が相当に込められていたように思うが、実際に『捉術』が放たれた瞬間からは、それまでのイツキの魔力から更にもう一段階『上』へと昇華された。

 ――『動殺是決どうさつぜけつ』は生物そのものを内側から破壊する事に特化した『捉術そくじゅつ』である。

 鬼人のように皮膚が固くて一般的な攻撃が効きづらく、ダメージを与えづらい相手に対して『妖魔召士』が長い歴史をかけて思考錯誤を積み重ねて編み出した、代々伝わる伝承的な『捉術』である。

 ――生物である相手の『脳』の働きを強制的に停止させて生命を奪うことを目的とされた、最も『凶悪』な技法である。

 この『動殺是決どうさつぜけつ』には先程も述べた通りに『歴史』がある技であるが故に、妖魔召士と名乗れる者であれば誰もが使える初歩に覚える『捉術』ではあるが、生物を行動停止にさせるのに最も適している『捉術』ともいえる。

『捉術』はある程度の効力が術者の『魔力』によって左右される技法ではあるが、この『動殺是決』も例に漏れずに術者の『魔力』によって、段階的に効力を変えられる『捉術』であった。

『脳』に直接ダメージを残す『捉術』であるが故に、身体に影響を及ぼす程度に留めることも可能として、相手を拷問にかけるのにも適する『技』でもあるが、本気で殺そうと放たれてしまえば『小脳』や『脳幹』すらも自在に操って機能を破壊してしまう。

 更には延髄といった生命維持に必要な呼吸運動を行う中枢神経の働きを阻害して障害点を作り、何れ生命を死に至らしめる殺傷性も孕んでいる。

 如何に皮膚が固かろうが、戦闘面において防御力を高めようが生命活動を司る機関そのものに、殺す事を目的とした技法の作用が発動されて効力が生じれば、待つのは『死』しかない。

 イツキはソフィという存在がその『捉術』を用いなければならないと判断した強敵と認めて、本気で殺そうと『動殺是決』を放ったというわけである。

 そしてこのイツキの放った『動殺是決どうさつぜけつ』は、単なる妖魔召士の使う捉術の規模ではなかった。

 ――『』。

 あの『サイヨウ』という『最上位妖魔召士』が、かつて用いた『捉術』をその目で見て理解を行った事で、魔力量も十分に達している天才である『イツキ』だからこそ『模倣もほう』が出来ているが、それはまさに現存する『妖魔召士』の中で『最上位』とされる妖魔召士が到達した『捉術』の最も高い位階である。

 だが、如何に『魔力』が高かろうとも、あらゆる攻撃手段であっても、これまでソフィは生命の危機を脅かされるまでには至らなかったという事もあって、イツキの放った『捉術』も『死』にまで至らないだろうと考えていたのであった。

 ――かつてヌーがソフィに苦言を呈したことがある。

 それは何処かソフィという存在は自らの『身の危険』を省みずに、相手の術中に飛び込んでいき、そして意識を失わされたり、相手の術中にかけられたりするところが多く、隙が多いと述べられたのである。

 もちろんそのソフィの隙とは、相手が行う攻撃によって如何に自らを『死』へと誘ってくれるだろうかという期待感からくるものであり、彼の『強者の手によって死闘の末に殺されたい』という願望が引き起こすモノが隙を作る根底にある部分に生み出されている所為なのだが、その彼の『隙』が生み出される要因とは、これまで彼が歩んできた長い生涯、その全てが関係していた。

 ――余りにもソフィという『生物』は強すぎたのである。

 もちろん『攻撃を行う力』と呼べる『魔力』や総称しての『攻撃力』という戦闘面において相手に有利をとるという意味でもソフィが強いのは確かであるが、それ以上に彼を『最強』へと至らしめているものは、もっと根本的な部分であった。

 それは生物としての『』の高さにある。

 相手から身を守るための手段や手立て。防御力を高めるには『青』という『力』があるのは『戦闘面』において周知の事実であるが、その『青のオーラ』という生命を守るための防御の手立てを抜いたとしても、このソフィという存在を殺しきるには相当の努力が必要となるのである。

 ソフィの『死』への願望の妨げになる要因の一つに、無意識に『死』に少しでも近づくことで内に眠る『自我』が関係しているのであった。

 彼を『アレルバレル』の世界で『最強の大魔王』に至らしめているモノは、他者から見た『最強の大魔王』と思われている『自己』の概念であるが、そんな『自己』である部分の『ソフィ』ではなく、彼の内に眠る大魔王と呼ぶべき無意識なる『自我』が原因であるといえる。

 第二形態となった時のソフィは、通常状態の彼よりも最もこの『自我』が表に出て来る部分と言えるが、彼自身に真の意味で『死』に届き得るかもしれないと思わせた時、この張り付けられた自他ともに認める一つの概念である『自己』が取り除かれて、彼が生まれた時から持っている本来の『自我』が全面的に表に出て来ることになるのである。

 ソフィが大事だと思っている『仲間』と呼べる者達を傷つけられた時、これもまた彼の『自我』が表に出てきている時に近いが、あくまでそれはまだ『自己』の部分が大部分を占めている状態でもある。

 何故ならそれは『ソフィ』自身の生命に危機が及んでいるわけではないために、彼自身の抱く意識の範疇で行われているからに他ならない。

 もちろんそれでも、明確にソフィから殺意を向けられた対象は生きた心地はしないだろうし、実際に生き延びる事は困難であるといえるだろう。彼の仲間を傷つけて生き延びられた存在は、彼ののだから。

 だが、そんなものはソフィ自身に対して『死』を届けようと行って、彼自身が『自分』を殺してくれるかもしれないと本当の意味で思いついた瞬間に現れる『自我』が、全貌を露にした時に比べればそれは比較にもならない。

 ――大魔王『』という存在の内に眠る

 つまりソフィに『死』を意識させることは、真の意味で『最強の大魔王』が現れる時であり、大魔王ソフィを殺すつもりならば、それ相応の覚悟。世界そのものを壊して消失させてでも『絶対に彼を消滅させる』という覚悟を持たなければ、決して行ってはいけない行為なのである。

 そしてどうやらイツキという男は、そのソフィに対して『死』を届けられる可能性のある存在のようであった。

 これよりが『ノックス』の世界に降臨することになる――。

 ……
 ……
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