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サカダイ編
1291.声なき言葉と伝わる気持ち
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(なっ! ど、どうしてチジクが……!?)
迫って来る王連の魔力によって『槍』と化している木々を前にして、先程ようやく覚悟と決意を抱き『死』を受け止めたキョウカだったが、そんな彼女の元に接近してくる存在が正面から視界へ入って来るのを認知したキョウカは、自分の意識が戻るのを自覚するのだった。
どうやらチジクはキョウカを迫りくる木々から救い出そうとして向かってきているのだろうが、あの木は単なる木ではなく『王連』という大天狗が持っていた羽団扇に自身の『魔力』で起こさせた面妖な『力』が宿っているのである。
実際に『紫色』の可視化されている『魔力』が伴っているのが『チジク』にも見えている筈であるが、それをお構いなしにチジクは一心不乱にキョウカの元に向かってきていた。
あの木々に侮れない魔力が伴っていることを理解せずに、組長である彼女を助けたい一心で向かってきているのか、それとも何とか出来るという自信があって向かってきているのか、どちらなのかキョウカには分からない。
だが、どちらにせよチジクに自分の元へ来て欲しくはないとキョウカは考えている――。
あの『魔力』が込められている木を直接斬ったわけではないために、キョウカにもあの木の強度が普通の木々とどれだけ違うのかなど、そういった事に関しては何も分からない彼女ではあったが、それでもあの『王連』という妖魔の大天狗の『魔力』によって、今も彼女が動く事が出来ていないことから省みても生半可な代物ではないことは想像に難くない。
(私のことはいいから、直ぐに引き返しなさい! 迫ってくるあれは、単なる木ではないのよ!)
――キョウカの必死の願いの言葉も声が乗らず、その口から発声されることはない。
どうやら声だけではなく、表情や仕草を使って伝えることも出来ない。だがそれは身体が動かせないのだから、当然と言えば当然といえた。
この状況ではどうやっても知らせる伝達方法が思いつかないキョウカは、死を受けいれる肚が定まっていた時とは違い、動揺と焦りに支配されながら目を逸らす事の出来ない『チジク』の姿を捉え続ける。
そして結局……。彼女の願いはチジクに伝わることはなく、彼はキョウカの元に……。
――その『魔力』が伴った木々の射程圏内に自ら入ってきてしまうのであった。
チジクは普段の戦闘状態に用いていた『瑠璃』どころか『天色』さえ纏っていなかった。どうやら『青』を纏うための『魔力』が残っていない状態なのだろう。
キョウカは焦る気持ちとは裏腹にチジクの今の様子を見極める。
――どうやら妖魔退魔師としての彼女は、冷静にチジクを分析してしまったようである。
「キョウカ組長!」
そして遂に言葉を交わせる距離にチジクが辿り着いて、言葉を出せないキョウカにそう声を掛けてくるのであった。
「!」
必死に叫びたい気持ちを抱えながらキョウカはチジクを見ているが、当然声は口から出てはくれない。しかしその様子を僅かな時の中で見ただけでチジクは理解する。
「声が出せないんですね? どうやら本当に今の貴方は動けないようだ……」
どうやらチジクは目の前のキョウカの状態を明確に理解したようであったが、そんな言葉をチジクが告げている間にも背後から木が迫って来ていた。
「こんな時に言うのもあれですが、ようやく俺は貴方に借りを返せる機会を得られたようだ」
何を言っているのかピンときていないキョウカは、悠長に喋っているチジクに背後から迫って来ている木のことを伝えようとするが、その伝達手段がないために、チジクの言葉に耳を傾けながら視線を向ける事しか出来なかった。
「あなたが十年前に片目を犠牲にしながら俺の命を救ってくれた日から、一日たりとも俺は貴方に感謝の気持ちを忘れた事はなかった。あの日に妖魔と戦う俺を切り捨てていたならば、今頃あなたは片目を失うこともなく、妖魔退魔師組織の副総長にさえなっていたかもしれない。そうだというのに貴方は俺に恨み事を一言も告げる事もなく、むしろ命を救えたとさえ言ってくれて喜んでくれた」
向かって来る木々の方を向いて、チジクはキョウカを守り立つように背を向けている。一体どんな表情をしているのかキョウカは窺い知ることは出来なかったが、どうやら彼が今告げている言葉をきいたことでキョウカは、この十年間もの間、彼がどういう気持ちでいたのかをキョウカは明確に知る事が出来た。
(仲間を救うことは当たり前のことよ。それに副総長の座をかけてミスズに負けたのは単純に私の実力不足のせいだし、貴方が負い目や引け目を感じる必要はない! だ、だから……早くそこから離れなさい! 私だけじゃなく貴方まで死ぬ必要はない……!)
「キョウカ組長。あなたに救ってもらったこの命を使って、今度は俺があなたの命を救ってみせます!」
――『この命は貴方にもらったものだから』
そう告げた直後、キョウカの前に居たチジクは再び『瑠璃』のオーラを得の刀に纏い始めたかと思うと、迫りくる多くの木々を斬り落とす為に再び枯渇しかかっている『魔力』の代わりに『生命力』を用いて行動を開始するのだった。
……
……
……
迫って来る王連の魔力によって『槍』と化している木々を前にして、先程ようやく覚悟と決意を抱き『死』を受け止めたキョウカだったが、そんな彼女の元に接近してくる存在が正面から視界へ入って来るのを認知したキョウカは、自分の意識が戻るのを自覚するのだった。
どうやらチジクはキョウカを迫りくる木々から救い出そうとして向かってきているのだろうが、あの木は単なる木ではなく『王連』という大天狗が持っていた羽団扇に自身の『魔力』で起こさせた面妖な『力』が宿っているのである。
実際に『紫色』の可視化されている『魔力』が伴っているのが『チジク』にも見えている筈であるが、それをお構いなしにチジクは一心不乱にキョウカの元に向かってきていた。
あの木々に侮れない魔力が伴っていることを理解せずに、組長である彼女を助けたい一心で向かってきているのか、それとも何とか出来るという自信があって向かってきているのか、どちらなのかキョウカには分からない。
だが、どちらにせよチジクに自分の元へ来て欲しくはないとキョウカは考えている――。
あの『魔力』が込められている木を直接斬ったわけではないために、キョウカにもあの木の強度が普通の木々とどれだけ違うのかなど、そういった事に関しては何も分からない彼女ではあったが、それでもあの『王連』という妖魔の大天狗の『魔力』によって、今も彼女が動く事が出来ていないことから省みても生半可な代物ではないことは想像に難くない。
(私のことはいいから、直ぐに引き返しなさい! 迫ってくるあれは、単なる木ではないのよ!)
――キョウカの必死の願いの言葉も声が乗らず、その口から発声されることはない。
どうやら声だけではなく、表情や仕草を使って伝えることも出来ない。だがそれは身体が動かせないのだから、当然と言えば当然といえた。
この状況ではどうやっても知らせる伝達方法が思いつかないキョウカは、死を受けいれる肚が定まっていた時とは違い、動揺と焦りに支配されながら目を逸らす事の出来ない『チジク』の姿を捉え続ける。
そして結局……。彼女の願いはチジクに伝わることはなく、彼はキョウカの元に……。
――その『魔力』が伴った木々の射程圏内に自ら入ってきてしまうのであった。
チジクは普段の戦闘状態に用いていた『瑠璃』どころか『天色』さえ纏っていなかった。どうやら『青』を纏うための『魔力』が残っていない状態なのだろう。
キョウカは焦る気持ちとは裏腹にチジクの今の様子を見極める。
――どうやら妖魔退魔師としての彼女は、冷静にチジクを分析してしまったようである。
「キョウカ組長!」
そして遂に言葉を交わせる距離にチジクが辿り着いて、言葉を出せないキョウカにそう声を掛けてくるのであった。
「!」
必死に叫びたい気持ちを抱えながらキョウカはチジクを見ているが、当然声は口から出てはくれない。しかしその様子を僅かな時の中で見ただけでチジクは理解する。
「声が出せないんですね? どうやら本当に今の貴方は動けないようだ……」
どうやらチジクは目の前のキョウカの状態を明確に理解したようであったが、そんな言葉をチジクが告げている間にも背後から木が迫って来ていた。
「こんな時に言うのもあれですが、ようやく俺は貴方に借りを返せる機会を得られたようだ」
何を言っているのかピンときていないキョウカは、悠長に喋っているチジクに背後から迫って来ている木のことを伝えようとするが、その伝達手段がないために、チジクの言葉に耳を傾けながら視線を向ける事しか出来なかった。
「あなたが十年前に片目を犠牲にしながら俺の命を救ってくれた日から、一日たりとも俺は貴方に感謝の気持ちを忘れた事はなかった。あの日に妖魔と戦う俺を切り捨てていたならば、今頃あなたは片目を失うこともなく、妖魔退魔師組織の副総長にさえなっていたかもしれない。そうだというのに貴方は俺に恨み事を一言も告げる事もなく、むしろ命を救えたとさえ言ってくれて喜んでくれた」
向かって来る木々の方を向いて、チジクはキョウカを守り立つように背を向けている。一体どんな表情をしているのかキョウカは窺い知ることは出来なかったが、どうやら彼が今告げている言葉をきいたことでキョウカは、この十年間もの間、彼がどういう気持ちでいたのかをキョウカは明確に知る事が出来た。
(仲間を救うことは当たり前のことよ。それに副総長の座をかけてミスズに負けたのは単純に私の実力不足のせいだし、貴方が負い目や引け目を感じる必要はない! だ、だから……早くそこから離れなさい! 私だけじゃなく貴方まで死ぬ必要はない……!)
「キョウカ組長。あなたに救ってもらったこの命を使って、今度は俺があなたの命を救ってみせます!」
――『この命は貴方にもらったものだから』
そう告げた直後、キョウカの前に居たチジクは再び『瑠璃』のオーラを得の刀に纏い始めたかと思うと、迫りくる多くの木々を斬り落とす為に再び枯渇しかかっている『魔力』の代わりに『生命力』を用いて行動を開始するのだった。
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