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サカダイ編

1285.王連の謎の技法

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「そこをどいて! 邪魔よ!」

 ヒサトに駆け寄ろうとするキョウカの前に王連が立ち塞がり、その真っすぐに向かって来ていたキョウカに羽団扇で『風』を放つ王連だったが、唐突に発生させられた突風を見事にキョウカは跳躍して躱す。

「――」

 しかしこの展開は先程の時と酷似しており、王連はキョウカが自身のは放った『風』を回避したとみるや、またもや何か言葉を呟き始めると、空中で再びキョウカは動きを止められるのだった。

 ――しかし先程と違う点が一つあった。

「ぬっ!」

 何とキョウカは唐突に向けられた『風』に対してまだ二度目だというのに、すでに一度目の教訓を活かして王連に向けて先に差していた腰刀を投擲していたのである。

 単なる刀であれば弾いてそれで終わりといえるものだが、王連に向けて投げられていたそのキョウカの腰刀は『青』を纏っている状態のキョウカの刃であった。 

 しかしその『青』を纏った状態の刀であるが、殺傷能力が急激に高まるという代物ではなく、王連がもしこのオーラの技法の仕組みを理解していたならば、このキョウカの一撃と呼べる投擲はさほど脅威性があるわけでない事に気づけただろう。

 あくまで『青』は破壊を目的とされた外的要因から守るための耐久力上昇であり、別のオーラである『紅』のように攻撃力が大幅に増すわけではなく、あくまで『青』の練度に応じた攻撃力の上昇程度しかないのである。

 当然そんな僅かな攻撃力の上昇程度で妖魔ランクが『7』以上に到達している『王連』であれば、難なく払いのけて終わりであっただろうが、王連もまた現代の妖魔退魔師達が発展させている『青』の種類と、効力を認識していないことに加えて『キョウカ』という妖魔退魔師を一介の剣士としてではなく、一筋縄ではいかない相手として捉えていたが故に、過剰すぎる対抗策を取ってしまうのだった。

「――」

 ――それは先程キョウカに向けて放った『神通力』と同一のものであった。

 キョウカが『風』を躱すための跳躍を行う前に投擲されたその腰刀は、真っすぐに王連に向けられて飛んでいたが、王連が不思議な言葉を呟いた瞬間に、即座に腰刀を纏う『青』のオーラが消えて勢いを完全になくしたそのキョウカの刀はそのまま力なく地面に落ちた。

 『青』の効力が消えるだけならば、王連のその『何らかの力』が働いて、キョウカの『青』で覆われた大元の『魔力』を奪ったのだと判断が出来るが、それだけでに留まらず王連の呟きによって勢いよく向かってきていた刀が勢いを失くした為に、キョウカはどうやら天狗の『不思議な力』の正体は、妖魔召士達の『目』と同じようなものが王連の『言葉』が『キー』となって発せられているのだとアタリをつけるのだった。

 そしてキョウカは再び自分の身体が『自由』になったことに即座に気付いた後、すでに通り過ぎていく突風を尻目に、王連の方を無視してそのままヒサトの方へと全速力で向かっていくのであった。

(あの天狗が私の投げた刀に言霊のようなモノを呟いた瞬間、私の身体が普段通りに戻った。つまり一度に複数の物体を同時に動きを止めたりすることが出来ないということ……かしら?)

 ヒサトの元へ駆けながらも頭では先程観察していた天狗の『能力』のことを考えるキョウカであった。

 そしてそんなキョウカを視線で追いかけながらも、王連はその場から動こうとしなかった。

「やれやれ。どうやら余興を楽しめるのもここまでか」

 王連はヒサトとかいう人間の容体を確かめているキョウカから、視線を空へと移しながらそう告げるのだった。

「よ、ようやく見つけたぞ王連! も、もう私の魔力が持たない。此処での戦闘はもういい、早く我らも『加護の森』へ向かうぞ!」

 王連の視線の先の大空では『鳥』の妖魔に乗って『王連』と契約を交わしている妖魔召士『ジンゼン』が、この場に姿を現したのだった。

「承知した。もう少しあの優れた妖魔退魔師と戦ってみたかったが、楽しみは後に取っておくとしようか」

 …………

 ヒサトの容態を確認していたキョウカだが、どうやら意識を失ってはいるようだが命に別状は無さそうで一安心をするのだった。そしてそのキョウカが王連の方を一瞥すると、王連が何やら空の上に居る存在と会話をしているところが目に映った。

「あれは……!」

 キョウカは胸に抱いていたヒサトを大事そうに床に寝かせて立ち上がると、ゆっくりとした所作で『瑠璃』のオーラを自身に纏いながら得の大太刀を上段に構え始めた。

 そしてそのまま空から下を見下ろしながら王連と会話を続けている『妖魔召士』の『ジンゼン』を視界に落とし込んだかと思えば、キョウカは得の刀の切先を空に向けて、円を描くように反動をつけたかと思うと同時、重心を胸元から右足にかけて一歩前に突き出しながら、袈裟斬りを行うように刀を縦に振り切るのだった。

「ふっ――!」

 百メートル程離れた場所から放たれた『キョウカ』の三日月型に具現化された衝撃波が、真っすぐに『ジンゼン』に向けて飛んで行くのだった。

「人間! そいつから飛び降りろ!」

「は……? いったい何を言って……?」

 どうやら必死に探していた目当ての王連を探すことに必死であった『ジンゼン』は、自分の『魔力』が少ないという事と自分達もヒュウガ達の居る加護の森に急いで向かうことを王連に伝える事に必死で、その場に姿が見えなかったキョウカの存在に気付いて居なかったようであった。

 そしてそんなジンゼンの命をあっさりと奪えてしまう程の殺傷力を持った衝撃波が、自分に向けて迫って来ているということにさえ気付いて居ない彼は、突然の王連の言葉を訝しみながら何を言っているのだと悠長に問いかけようとして、ようやく背後から迫ってくる『魔力』の乗った衝撃波の存在に気づくジンゼンであった。

 ……
 ……
 ……
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