上 下
1,279 / 1,915
サカダイ編

1262.仲間の為に

しおりを挟む
「ヒノエ組長」

 思い詰めた表情を浮かべるヒノエ組長を見た『一組』の部下達は、自分の組長のあまりの様子に声を掛けずにはいられなかったようである。

「……」

 ヒノエは左手で自分の顔を覆ったままで、心配するなとばかりに空いているもう片方の手を軽く部下達の前に出した。

 旅籠町の予備群の男は、妖魔退魔師の組長とその組員達のやり取りを見て、意を決したかのように口を開いた。

「コウゾウ隊長は長年、この旅籠町や周辺地域を悩ませていた人攫いや犯罪を行う集団の存在と居場所を突き止められて、そして見事に全員捕縛する事が出来た後、我々にこう言っていたんです……」

 突然に続きを話し始めた予備群の男の声にヒノエは、自身の顔を覆う手の隙間から男の顔を窺うように見る。

「こ、これでやっと自分の我儘を聞いてくれていたミスズ副総長に恩を返せるって……。これからは待っていてくれていた分、一生懸命にミスズ様の元で恩を返したいって……。隊長はそう言った後に、この旅籠町はシグレ様や俺達に任せるって笑って言っていました。そんな矢先だったんです! あの妖魔召士達が現れたのは……!」

 色々と思い出してこみ上げてきたのだろう。予備群の男は説明の後半から涙声になりながら、そう『ヒノエ』達に言って聞かせるのだった。 

 その言葉を聞いたヒノエは再び顔を隠すように手で覆うと、数秒程その手を震わせていたが、その後に唐突に口を開いた。

「そうかよ。コウゾウはミスズ副総長の元で恩返しをするって言ってやがったか!」

 ヒノエはそう言った後に両手で自分の目を拭うと、こっそりと涙を流していた痕跡を消し始めた。

「だったらよ? アイツは『特務』所属の退だって事だよな? その仲間が副総長に恩返しをしたいんだったら、それを手助けするのが仲間ってモノだ!」

 そう言ってヒノエは鞘に入れたままの刀を支えにして、勢いよくその場から立ち上がった。

「く、組長?」

「この屯所の地下にはまだ、コウゾウ達が捕縛したっていう『煌鴟梟こうしきょう』とかいう犯罪集団の連中を閉じ込めているんだろう? 悪いんだけどよ、そいつらのところに私を案内してくれないか?」

「わ、分かりました。も、もちろん構いませんよ……」

 ヒノエは少し涙声が残っていて、慌てて手で鼻をすするのだった。

 先程まで話をしていた広間から出て直ぐの場所に、その地下へと続く隠し床があった。最近は頻繁に使う事も多くなったと思いながらも予備群の護衛隊達は、その隠し床を開いて備え付けの収納梯子を下ろすとヒノエ達を地下の座敷牢の元へ案内するのだった。

 …………

 壊滅した煌鴟梟の残党を捕縛している座敷牢は、この地下の奥の方だと教えられたヒノエだが、その部屋に向かう道中で気になる場所を見つけて立ち止まった。

「……ん? この場所で火災でもあったのか?」

 その場所とは『ヒュウガ一派』も気にかけて足を止めた場所であり、ヌーがテアに手を掛けようとした連中を魔法で処刑を行った場所であった。

「ま、まぁそんなところです」

(火災というか、人災というべきか……)

「お前らの屯所の事だからアレコレいうつもりは無いが、火の元は十分に気をつけろよ?」

「は、はい……、すみません」

 護衛隊の男がどこか顔を引きつらせているのを見てヒノエは首を傾げたが、男からはそれ以上は特に何も無い様子だったので彼女はそれ以上は口にせず、放っておく事にするのだった。

 そしてその部屋だった残骸の前を通り過ぎて更に奥へと進んでいくと、目当ての場所はそこにあった。

「ここに煌鴟梟の連中を閉じ込めています」

 地下の座敷牢の中でも一際大きな部屋の前を案内されると、ヒノエはその場所の通りの奥側を見る。

「……あそこは?」

「向こうは……、その……。妖魔召士達を捕縛して入れていた場所でしたが、今は使われておりません」

 少し言い淀んだ様子で説明をする男の態度から、妖魔召士達が居た場所と言われた事でヒノエは直ぐに事情を察した。

「先に少しこちらを見ても構わないか?」

「えっ? は、はい……」

 男は少したじろぐ様子を見せたが、直ぐにヒノエに言われた通りにその部屋の扉を開けるのだった。

 その部屋の規模は『煌鴟梟』達の居る部屋よりも狭く、ここに来るまでにあった通りの部屋と変わらない広さだった。ヒノエはその部屋の中へ足を踏み入れると同時に周囲を見渡したが、やがて奥の方へと歩いて行ったかと思うと、とある場所で足を止めた。

 ――そこはかつてコウゾウが首を刎ねられて、体だけが残されていた場所であった。

 その場所は血痕なども拭き取られており、一見何も分からないように思える場所だったが、何故かヒノエにはここでコウゾウが殺められた場所なのだろうと思えたのだった。何故ここに立ち寄ろうと思ったのか、そして何故この場所で立ち止まったのか、それは彼女自身よく分からなかったが、ここに来なければ行けなかったように感じて、気が付けばこの場所に居たのであった。

「安心しろよ、コウゾウ。私達が……、お前の事を仲間だと思っていた者達が、絶対にお前の仇をとってやるからよ。だから後の事は心配するな。安心して逝けよコウゾウ」

 彼女は霊の存在などは一切信じていなかったが、地下に降りて来た時から急にココへ来なければ行けないと考えた。何故そう思ったのか本当に分からないヒノエではあったが、もしコウゾウが彼女をここに呼び寄せたのだとしたら、それに応えてやるのが仲間ってものだろうとヒノエは考えた。

 そして気が付けば彼女が真に思っている事を包み隠さず口に出して、目の前にもしコウゾウが居たら同じことを言っていただろう言葉を投げかけたのであった。

 じっとコウゾウの最後の場所を見ていたヒノエだったが、やがて踵を返して予備群の護衛隊や、自分の組の隊士達の待つ入り口へと歩いて行った。

「すまない、待たせたな。煌鴟梟の元へ案内してくれ」

「はい……。その、ありがとうございます!」

 突然、予備群の男はそう言ってヒノエに向かって頭を下げてくるのだった。

「……ああ」

 礼を告げた男や他の隊士達が部屋から出て行った後、最後に残ったヒノエはもう一度だけ部屋の中を見渡して、そしてその部屋を出ようとした。

 その瞬間、彼女が腰に差している刀がいつもより少しだけ重く感じられた。気のせいだろうと彼女は思ったが、それでもその場所から二歩程歩いた先、唐突に彼女は足を止めた――。

「ふっ、人に任せるのは性に合わないってか? 仕方ねぇな……、連れて行ってやるよ」

 ヒノエは得の刀を擦る様に手を充てた後、笑みを浮かべてそう独り言ちるのだった――。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...