最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
1,272 / 1,985
サカダイ編

1255.命がけの挑発

しおりを挟む
 妖魔退魔師の連中が一箇所に集まって、何やら談笑を始めていたのを見ていた天狗の妖魔『王連おうれん』は、少し気を遣うように傍からその様子を眺めていたが、ついぞ彼はヒサト達の元へと歩き始めていく――。

 王連が近づいて来たのを見たヒサト達は、会話を強引に止めて各々が自身の得の刀を強く握り始める。

「カッカッカ、楽しそうに談笑しているところを止めてしまってすまぬが、儂とて契約している人間に呼び出されてこの場に居るのでな? 役目を果たさねばならぬ以上は残念な事だがお主らには死んでもらわねばならぬのだ」

 少しも残念そうに見えない笑顔を顔に張り付けながら、天狗の『王連』はヒサト達に告げる。

「語るに落ちるぞ天狗。本当は人間を殺したくてウズウズして山を下りてきたのだろう? それにしても妖魔召士と契約をしているという事は、人間を殺めたいとは思っていても、自分だけでは我々妖魔退魔師に討伐されるかもしれないと怯えて手が出せず、それで仕方なく妖魔召士に縋って共に行動をしているといったところか? ランクが高い癖にだな」

「……」

 ヒサトは自分に『王連』を引き付ける為にワザと挑発を行い始める。

 どうやらその効果は覿面だったようで、先程まで笑顔だった『王連』から笑みは完全に消えていた。

「これでいいな、見てみろ。先程まであの天狗は俯瞰するようにこの場に居る全員を視線に入れていたが、今は確実に俺だけを見ていやがるぞ、相当に頭にきたんだろうな。どうやら俺が思っているよりもずっと自尊心が高い妖魔だったようだ」

 そう口にしながらもヒサトは額に汗を浮かべている。

 ――しかしそれは当然の事だろう。

 狙い通りに挑発が成功したという事は、あの素の状態でランク『7』とされている高ランクの妖魔、大天狗の『王連』の殺気を一身に浴びているという事に他ならないのだ。

 術式を施していない状態の素の妖魔ランクであっても、ランク『6』までならば少なくとも『妖魔山』以外でも年に数回は『ノックス』の世界の至る場所で確認が取れる事もあるが、これがランク『7』となれば『妖魔山』以外に現れるという偶然は有り得ない――。

 この世界の妖魔ランク表記『3』の妖魔でさえ、アレルバレルの世界の人間界に『皇帝』が現れた時期の時代であれば、ソフィ達の居る『魔界』で十分に大陸の支配者となれる程の戦力値に値する事になり、ランク『3.5』で群雄割拠の時代で十分に顔役を張れる程であり、ランク『4』ともなれば『九大魔王』と真っ向からぶつかっても苦戦を強いられるだろうが最後は勝ち残れるだろうというレベルとなる。

 ランク『6』で『大賢者』エルシスが生前で自身が過去最高となる戦力値を手にした時の状態と肩を並べる事と同列程の強さであり、ランク『6.5』からは『アレルバレル』の世界では『大魔王ソフィ』を除けば、シスの中に眠る大魔王が目覚めて動き出した時か、この世界に来てめきめきと成長を遂げている大魔王『ヌー』くらいでしか、肩を並べられる存在は居なくなってしまう程である。

 そんな妖魔ランク表記であるが、今この場で妖魔退魔師、副組長『ヒサト』に殺意を向けている『王連』の妖魔ランクはアレルバレルの世界で言えば未曾有の領域となるランク『7』である。

 高ランク帯の妖魔ランク表記でたった『1』の数字が変わるだけで、戦力値換算で言えば大きく変貌を遂げてしまう。

 術式を施された妖魔『英鬼えいき』がソフィと『煌鴟梟』のアジトで戦った時に下限ではあるが、一応のランク『6』相当と呼べる強さを手にしていたが、その時の『英鬼』で戦力値は5600億程である。

 ――そしてこのランク『7』の『王連』の持つ戦力値は、少なくとも7000億を上回るだろう。

 妖魔召士が『王連』に対して何か術式を施さなくとも、ただの純粋な『大天狗』の『王連』の本来の力のみで戦力値が7000億を越える事になるのだ。

 この『王連』と妖魔退魔師組織に居る者で真っ向からぶつかれるとしたら、総長や副総長。それに最高幹部の面々である組長階級の者達だけだろう。

 ヒサト達副組長階級では残念ながら、ランク『7』以上の存在と対等に渡り合う事は不可能である。

 問題はこの王連を相手に如何に時間を稼げるかにかかっている。既にヒサトは自分が生き残る事はもう考えてはいない。考えたところで万が一にも『王連』に勝てる筈が無いからである。

 そんな『王連おうれん』が明確な殺意を抱きながら、挑発を行った『ヒサト』に視線を送っている。

 ヒサトは部下の手前、強気な発言を繰り返してはいるが、隠している裾の下では刀を持つ手が震えているのだった――。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。 元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。 登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。 追記 小説家になろう  ツギクル  でも投稿しております。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...