1,268 / 1,982
サカダイ編
1251.覚悟を決めた目
しおりを挟む
「はぁっ、はぁっ……! の、残っているのはお前達だけか?」
ヒサトは肩に背負っていた隊士を駆け寄って来た男に預けながらそう告げた。
「は、はい……! ヒサト様がその化け物に呑み込まれた後、隊列を崩してしまい奴らの『捉術』の餌食に……!」
ヒサトと話す隊士は痙攣を起こして倒れている『野槌』を見ながらそう告げる。どうやらヒサトに体内から腹を掻っ捌かれた『野槌』はまだ生きているようで『式札』に戻る事も無くぷるぷると震えながら横たわっている状態であった。
ヒサトも足元に転がっている『野槌』に視線を向けているが、考えている事は野槌の事では無かった。
(まさか『妖魔召士』がここまで面倒な連中だとは思わなかった。これは禁術がどうとかという話ではないな。我々だけが身一つで妖魔と戦えると思っていたが、妖魔召士に関しても『式』で妖魔同士で戦わせるだけではなく、彼らの魔力も油断ならないという事が今回の戦いでよく分かった……)
部下達が犠牲になっている以上、妖魔召士という存在の事を詳しく理解出来たことに喜ぶような真似はしないが、それでもヒサトは『妖魔召士』に対しての警戒心を一段階上げて物事を考えられるようになったようだ。
野槌から視線を部下に戻すとヒサトは口を開いた。
「もうここは俺に任せてお前達は直ぐに南の森へと向かえ。この事を直ぐにキョウカ組長に伝えてくるんだ!」
「「えっ!?」」
ヒサトの近くに駆け寄って来た残された『三組』の隊士達は一様に驚いた顔を並べる。
「ひ、ヒサト様は……?」
「俺の事は気にしなくていい。コイツを助けに向かっただけで俺自身はまだ体力もそこまで使っていない。何とかお前達がキョウカ組長の元へ行くまでの間の時間を稼いでやれるだろう……。今大事な事は直接ヒュウガ一派と戦った俺達が『ヒュウガ一派』は『妖魔退魔師』の幹部達といえども、一組分隊程度でどうにかなる相手では無く、妖魔召士組織全体を相手にするのと同様の覚悟が要るのだと、キョウカ組長や妖魔退魔師本部に伝えてヒュウガ一派の危険性とその狙いを伝える事にある。分かるな?」
「は、はい……!」
ヒサトの言葉に『三組』の組員達はやられた仲間を思い出して悔しそうに表情を変えながらも、理解しているとばかりに副組長ヒサトに頷いて見せるのだった。
「しかし副組長だけを残して行くわけにもいかないでしょう。俺も残りますよ」
戦闘が始まる前に『ヒサト』と会話を行っていた最後尾に居た『三組』幹部の組員の一人『チジク』がそう言った。
「そ、それなら俺も……」
「お、俺も……!」
チジクが残ると言った後に他の者達も残ると言い始めるのだった。
「馬鹿か。伝えに行く人数が減れば減る程、伝えられる可能性が減るんだぞ? この場で残る者は仲間が組長達に報告を伝えてもらう事を希望に残るんだ。伝えに行く方も重要な役割なんだ、頼むからお前達が行ってくれ!」
『三組』でキョウカとヒサトを除けば古参の組員に入る『チジク』にそう言われてしまえば、他の組員達も返す言葉が無かった。
報告に向かえと告げられた数人の組員達は互いの顔を見ていたが、腹が決まったようで首を縦に振って頷き合った。
「分かりました。直ぐにキョウカ組長を連れて戻ってきますから、ヒサト副組長もチジクさんも無事でいて下さいね!」
「ああ、当たり前だ! お前達も気を付けろよ? 道中で待機している他の妖魔召士達も居るかもしれないからな」
「はい! 数人程度の妖魔召士なら俺達が負ける筈がありません!」
その言葉は決して敵を侮って告げた言葉では無く、行動力を高める為に用いられた景気付けの為の言葉であった。
ヒサトはチジク達のやり取りを見て微笑んでいたが、直ぐに口を挟んだ。
「いいかチジク、こいつらの退路を切り開く事を優先するんだ。俺が妖魔召士達を引き付けるから、お前は『幽鬼』や他の妖魔の『式』連中を相手にしろ」
「分かりました、ヒサト副組長!」
短いやり取りで今後の行動指針を整えた妖魔退魔師の隊士達は、全員が覚悟を決めた目で頷き合うのであった――。
……
……
……
ヒサトは肩に背負っていた隊士を駆け寄って来た男に預けながらそう告げた。
「は、はい……! ヒサト様がその化け物に呑み込まれた後、隊列を崩してしまい奴らの『捉術』の餌食に……!」
ヒサトと話す隊士は痙攣を起こして倒れている『野槌』を見ながらそう告げる。どうやらヒサトに体内から腹を掻っ捌かれた『野槌』はまだ生きているようで『式札』に戻る事も無くぷるぷると震えながら横たわっている状態であった。
ヒサトも足元に転がっている『野槌』に視線を向けているが、考えている事は野槌の事では無かった。
(まさか『妖魔召士』がここまで面倒な連中だとは思わなかった。これは禁術がどうとかという話ではないな。我々だけが身一つで妖魔と戦えると思っていたが、妖魔召士に関しても『式』で妖魔同士で戦わせるだけではなく、彼らの魔力も油断ならないという事が今回の戦いでよく分かった……)
部下達が犠牲になっている以上、妖魔召士という存在の事を詳しく理解出来たことに喜ぶような真似はしないが、それでもヒサトは『妖魔召士』に対しての警戒心を一段階上げて物事を考えられるようになったようだ。
野槌から視線を部下に戻すとヒサトは口を開いた。
「もうここは俺に任せてお前達は直ぐに南の森へと向かえ。この事を直ぐにキョウカ組長に伝えてくるんだ!」
「「えっ!?」」
ヒサトの近くに駆け寄って来た残された『三組』の隊士達は一様に驚いた顔を並べる。
「ひ、ヒサト様は……?」
「俺の事は気にしなくていい。コイツを助けに向かっただけで俺自身はまだ体力もそこまで使っていない。何とかお前達がキョウカ組長の元へ行くまでの間の時間を稼いでやれるだろう……。今大事な事は直接ヒュウガ一派と戦った俺達が『ヒュウガ一派』は『妖魔退魔師』の幹部達といえども、一組分隊程度でどうにかなる相手では無く、妖魔召士組織全体を相手にするのと同様の覚悟が要るのだと、キョウカ組長や妖魔退魔師本部に伝えてヒュウガ一派の危険性とその狙いを伝える事にある。分かるな?」
「は、はい……!」
ヒサトの言葉に『三組』の組員達はやられた仲間を思い出して悔しそうに表情を変えながらも、理解しているとばかりに副組長ヒサトに頷いて見せるのだった。
「しかし副組長だけを残して行くわけにもいかないでしょう。俺も残りますよ」
戦闘が始まる前に『ヒサト』と会話を行っていた最後尾に居た『三組』幹部の組員の一人『チジク』がそう言った。
「そ、それなら俺も……」
「お、俺も……!」
チジクが残ると言った後に他の者達も残ると言い始めるのだった。
「馬鹿か。伝えに行く人数が減れば減る程、伝えられる可能性が減るんだぞ? この場で残る者は仲間が組長達に報告を伝えてもらう事を希望に残るんだ。伝えに行く方も重要な役割なんだ、頼むからお前達が行ってくれ!」
『三組』でキョウカとヒサトを除けば古参の組員に入る『チジク』にそう言われてしまえば、他の組員達も返す言葉が無かった。
報告に向かえと告げられた数人の組員達は互いの顔を見ていたが、腹が決まったようで首を縦に振って頷き合った。
「分かりました。直ぐにキョウカ組長を連れて戻ってきますから、ヒサト副組長もチジクさんも無事でいて下さいね!」
「ああ、当たり前だ! お前達も気を付けろよ? 道中で待機している他の妖魔召士達も居るかもしれないからな」
「はい! 数人程度の妖魔召士なら俺達が負ける筈がありません!」
その言葉は決して敵を侮って告げた言葉では無く、行動力を高める為に用いられた景気付けの為の言葉であった。
ヒサトはチジク達のやり取りを見て微笑んでいたが、直ぐに口を挟んだ。
「いいかチジク、こいつらの退路を切り開く事を優先するんだ。俺が妖魔召士達を引き付けるから、お前は『幽鬼』や他の妖魔の『式』連中を相手にしろ」
「分かりました、ヒサト副組長!」
短いやり取りで今後の行動指針を整えた妖魔退魔師の隊士達は、全員が覚悟を決めた目で頷き合うのであった――。
……
……
……
0
お気に入りに追加
439
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

眠り姫な私は王女の地位を剥奪されました。実は眠りながらこの国を護っていたのですけれどね
たつき
ファンタジー
「おまえは王族に相応しくない!今日限りで追放する!」
「お父様!何故ですの!」
「分かり切ってるだろ!おまえがいつも寝ているからだ!」
「お兄様!それは!」
「もういい!今すぐ出て行け!王族の権威を傷つけるな!」
こうして私は王女の身分を剥奪されました。
眠りの世界でこの国を魔物とかから護っていただけですのに。

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる