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サカダイ編
1230.利用された男の末路
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キョウカは森の中にある洞穴の前で一度立ち止まると、大太刀を構えてその洞穴を注視をする。
(『結界』が張られている筈だとあの『鬼人』が言っていたけれど、そんな風には見えないわね。それどころか誰かが居るような気配も感じられないわ)
溜息を吐いたキョウカは大太刀を手で持ったまま、ゆっくりとその洞穴の中へと足を踏み入れて行く。
そして暗がりの狭い道を進んだ先に数人分が動けるだけの広さの部屋に辿り着いたが、そこで目にした光景に片目が塞がっているキョウカは、僅かにそのもう片方の目を閉じながら顔を顰めて頭上を仰ぎ見た。
「はぁっ……」
大きく溜息を吐いたキョウカは、視線を背けた理由の存在に再び視界に落とし込む。
――そこには人間の死体が、血だまりの中でうつ伏せに倒れていた。
キョウカは顔を確かめないわけにもいかず、仕方なく死体に近づいて肩辺りを触って仰向けにしようとするが血だまりの中に倒れているその死体は、どうやら胴体から手と足に首が離れていたようでキョウカが肩口を持って動かそうとした事で、首がごろりとキョウカの足元に転がってきて死体の顔がキョウカの『隻眼』の視界に入って来るのだった。
「もうっ、最悪……」
そう呟いた後に慌ててキョウカは一歩後退ると、そのまま男の顔を確かめる。
――キョウカと視線が合っているように見えるその生首の正体は、元『煌鴟梟』のボスの『トウジ』であった。
「ケイノトの門のところで私が話し掛けた男で間違いないわね。やっぱり『ヒュウガ』一派と繋がっていたようだけど、どうやら私を誘い出すためだけに利用されたってところかしら……」
察しのいいキョウカの言葉通りであった。
この目の前で骸となっている『トウジ』と、今は別行動をしている『ミヤジ』が退魔組のイツキと繋がりがある事を知っていた『ヒュウガ』の手によって旅籠町の屯所から強引に連れ出されてきたが、その目的はイツキやサテツ達に伝言をさせるわけではなく、退魔組を見張っている妖魔退魔師の隊長格である『キョウカ』を『ケイノト』から遠ざけて、こちらにおびき寄せる為の囮という名の『餌』であったのだ。
「やられたわね」
キョウカはそう呟いて直ぐに洞穴を出ようとしたが、そこで男の方に視線を向け直すと口を開いた。
「全てが終わったら必ず戻って来て供養してあげるから、少しだけ辛抱しなさい」
そう言ってキョウカは供養代わりに男の死体の前で、手を合わせて祈りを捧げるのだった。
やがてキョウカは後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも踵を返すと、急いで入って来た道を引き戻して走る。ここにキョウカを誘い出す理由があるとしたら、その狙いは『ケイノト』に居る『退魔組』であろう。
そしてここに来た時に居た二人組の妖魔召士の会話の中で足止めはもういいという言葉があった事をキョウカは思い出す。つまり彼女が仕留め損なった方の妖魔召士は先に『ケイノト』に向かったであろうヒュウガ達に合流する為に空を飛んで戻って行ったという事だろう。
「くそっ、全てが裏目じゃない! ヒサト、皆、無事でいて!」
洞穴の中の一本道を恐るべき速度で駆け抜けたキョウカは、一瞬で洞穴の外に出るのだった。
そして外に出たキョウカを先程の『鬼人』は待っていたようで、キョウカが再び姿を見せると手を挙げて声を掛けてきた。
「その様子だとやっぱりヒュウガ達はいなかったようだな」
「ええ。洞穴の中に居たのは、私が追ってきたあの男の死体だけだったわ」
「これだから人間ってのは信用ならねぇんだ。全く気分の悪い……」
キョウカの言葉を聞いた『鬼人』は舌打ちをしながらそう告げるのだった。
「外で待ってくれていた貴方には悪いのだけど、私はもう行くわね? ヒュウガ一派達は『退魔組』に居る者達の元へと向かっている筈だから」
そう『鬼人』の妖魔に告げたキョウカは、返事を待たずに再び駆け出そうとする。しかしその背中に向けて『鬼人』がキョウカに慌てて言葉を投げかけた。
「ま、待て! お前が走って行くより俺が空を飛んでお前を運んだ方が速いだろ!」
「どうしてそこまでしてくれるの? 私は妖魔退魔師よ?」
「知っている。でもお前は二度も俺の命を救ってくれた恩人だ。妖魔退魔師の前に恩人であるお主に借りを返さずに居るのは気持ちが悪いんだ。俺の気を晴らす為に精々利用されてくれないか?」
「感謝するわ」
僅か数秒程考える素振りを見せたキョウカだが、確かに走って行くより空を飛んだ方が時間の短縮になると考えたようで、協力してくれると申し出てくれた『鬼人』の妖魔の言葉に感謝の言葉を返すのだった。
妖魔は妖魔退魔師の人間の言葉に笑みを浮かべた。
「よし、俺の肩に摑まれ」
「ええ」
「悪いが俺の空を飛ぶ速度は『天狗』並だ! 振り落としちまったら目覚めが悪いからしっかりと掴んでいてくれよ?」
「分かった、ヨロシク」
ぎゅっと両手で鬼人の肩に摑まると『鬼人』は前を向いた後に空を飛翔し始めるのだった。
「何処まで行けばいい? ケイノトの町の前か、それとも中か?」
「町の前の門に居る筈の私の部下のところまで運んでちょうだい!」
「承知した! しっかり掴まっていろよ!」
キョウカの言葉を聞いた『鬼人』の妖魔は、一旦空高く浮かび上がったかと思うと、その後は一直線で『ケイノト』方面へと恐ろしい速度で空を移動し始めるのだった。
……
……
……
(『結界』が張られている筈だとあの『鬼人』が言っていたけれど、そんな風には見えないわね。それどころか誰かが居るような気配も感じられないわ)
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そして暗がりの狭い道を進んだ先に数人分が動けるだけの広さの部屋に辿り着いたが、そこで目にした光景に片目が塞がっているキョウカは、僅かにそのもう片方の目を閉じながら顔を顰めて頭上を仰ぎ見た。
「はぁっ……」
大きく溜息を吐いたキョウカは、視線を背けた理由の存在に再び視界に落とし込む。
――そこには人間の死体が、血だまりの中でうつ伏せに倒れていた。
キョウカは顔を確かめないわけにもいかず、仕方なく死体に近づいて肩辺りを触って仰向けにしようとするが血だまりの中に倒れているその死体は、どうやら胴体から手と足に首が離れていたようでキョウカが肩口を持って動かそうとした事で、首がごろりとキョウカの足元に転がってきて死体の顔がキョウカの『隻眼』の視界に入って来るのだった。
「もうっ、最悪……」
そう呟いた後に慌ててキョウカは一歩後退ると、そのまま男の顔を確かめる。
――キョウカと視線が合っているように見えるその生首の正体は、元『煌鴟梟』のボスの『トウジ』であった。
「ケイノトの門のところで私が話し掛けた男で間違いないわね。やっぱり『ヒュウガ』一派と繋がっていたようだけど、どうやら私を誘い出すためだけに利用されたってところかしら……」
察しのいいキョウカの言葉通りであった。
この目の前で骸となっている『トウジ』と、今は別行動をしている『ミヤジ』が退魔組のイツキと繋がりがある事を知っていた『ヒュウガ』の手によって旅籠町の屯所から強引に連れ出されてきたが、その目的はイツキやサテツ達に伝言をさせるわけではなく、退魔組を見張っている妖魔退魔師の隊長格である『キョウカ』を『ケイノト』から遠ざけて、こちらにおびき寄せる為の囮という名の『餌』であったのだ。
「やられたわね」
キョウカはそう呟いて直ぐに洞穴を出ようとしたが、そこで男の方に視線を向け直すと口を開いた。
「全てが終わったら必ず戻って来て供養してあげるから、少しだけ辛抱しなさい」
そう言ってキョウカは供養代わりに男の死体の前で、手を合わせて祈りを捧げるのだった。
やがてキョウカは後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも踵を返すと、急いで入って来た道を引き戻して走る。ここにキョウカを誘い出す理由があるとしたら、その狙いは『ケイノト』に居る『退魔組』であろう。
そしてここに来た時に居た二人組の妖魔召士の会話の中で足止めはもういいという言葉があった事をキョウカは思い出す。つまり彼女が仕留め損なった方の妖魔召士は先に『ケイノト』に向かったであろうヒュウガ達に合流する為に空を飛んで戻って行ったという事だろう。
「くそっ、全てが裏目じゃない! ヒサト、皆、無事でいて!」
洞穴の中の一本道を恐るべき速度で駆け抜けたキョウカは、一瞬で洞穴の外に出るのだった。
そして外に出たキョウカを先程の『鬼人』は待っていたようで、キョウカが再び姿を見せると手を挙げて声を掛けてきた。
「その様子だとやっぱりヒュウガ達はいなかったようだな」
「ええ。洞穴の中に居たのは、私が追ってきたあの男の死体だけだったわ」
「これだから人間ってのは信用ならねぇんだ。全く気分の悪い……」
キョウカの言葉を聞いた『鬼人』は舌打ちをしながらそう告げるのだった。
「外で待ってくれていた貴方には悪いのだけど、私はもう行くわね? ヒュウガ一派達は『退魔組』に居る者達の元へと向かっている筈だから」
そう『鬼人』の妖魔に告げたキョウカは、返事を待たずに再び駆け出そうとする。しかしその背中に向けて『鬼人』がキョウカに慌てて言葉を投げかけた。
「ま、待て! お前が走って行くより俺が空を飛んでお前を運んだ方が速いだろ!」
「どうしてそこまでしてくれるの? 私は妖魔退魔師よ?」
「知っている。でもお前は二度も俺の命を救ってくれた恩人だ。妖魔退魔師の前に恩人であるお主に借りを返さずに居るのは気持ちが悪いんだ。俺の気を晴らす為に精々利用されてくれないか?」
「感謝するわ」
僅か数秒程考える素振りを見せたキョウカだが、確かに走って行くより空を飛んだ方が時間の短縮になると考えたようで、協力してくれると申し出てくれた『鬼人』の妖魔の言葉に感謝の言葉を返すのだった。
妖魔は妖魔退魔師の人間の言葉に笑みを浮かべた。
「よし、俺の肩に摑まれ」
「ええ」
「悪いが俺の空を飛ぶ速度は『天狗』並だ! 振り落としちまったら目覚めが悪いからしっかりと掴んでいてくれよ?」
「分かった、ヨロシク」
ぎゅっと両手で鬼人の肩に摑まると『鬼人』は前を向いた後に空を飛翔し始めるのだった。
「何処まで行けばいい? ケイノトの町の前か、それとも中か?」
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「承知した! しっかり掴まっていろよ!」
キョウカの言葉を聞いた『鬼人』の妖魔は、一旦空高く浮かび上がったかと思うと、その後は一直線で『ケイノト』方面へと恐ろしい速度で空を移動し始めるのだった。
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