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サカダイ編
1222.本能と恐怖
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「ば、馬鹿な……! あ、アチシラ殿……!」
高位の妖魔である『妖狐』と『鬼人』に自身の大半の『魔力』を費やして禁術まで施したというのに、あっさりとやられるところを見せつけられて、更には自分と同じ上位の妖魔召士である『アチシラ』をまるで相手にせずに首を刎ねた、たった一人の娘に『ミョウイ』は空いた口が塞がらなかった。
(こ、こんな……! 自我を失っているとはいっても『妖狐』も『鬼人』も禁術を施した今の状態のランク的には、あ、あの『妖魔団』の妖狐『朱火』や、鬼人女王『紅羽』に匹敵する程の戦力値を誇っていたのだぞ!? そ、それを……、こ、こんな……! アチシラ殿までもが……!!)
既にこの場に残されているのは『魔力』が全く残されていない自分と、既に戦意を失って痛みに悶えている『鬼人』しか残されていない。
前時代の妖魔召士達から妖魔退魔師は恐ろしい存在だと聞かされてはいたが、それでも自分達程の上位妖魔召士であれば難なく倒せる相手だと甘く見ていた。それも元から高位の『妖魔』に禁術まで施していたのである。それをたった一人の若い娘にやられるなどと誰が予想など出来ようか。
先程彼らは『妖魔山』に生息する真に強い妖魔を相手にやり合ってきたと豪語したが、それは単に『妖魔召士』組織が『妖魔山』を管理していたからに過ぎない。もし『妖魔退魔師』が『妖魔山』を管理する事になれば、彼らが入れる場所より更に奥の区域にまで進む可能性すらあるのだ。
――『妖魔召士』組織に所属する人間と『妖魔退魔師』の組織に所属する人間。互いにこれまでは直接戦う事は避けるように明言されてきたが、ここにきてミョウイという『上位妖魔召士』は、何故これまで武力衝突を避けるように前時代の『妖魔召士』達が告げていたのかを身を以て理解したのであった。
そしてアチシラや高ランクの妖魔を倒した『隻眼』が、ゆっくりとこちらに歩いてくるのを見た『ミョウイ』は目に見えて焦り始める。
(ど、どうする!? まだ『式』を出す余裕はあるが、あの『隻眼』を倒す事は不可能だ……! ワシの残された魔力ではもう禁術を施す事も出来ない。そ、そうだ……! まだ『鬼人』は体現しているままの筈だ)
まだ術でランク『6.5』相当にまで引き上げた『鬼人』は戦う余力があると、そう考えたミョウイは慌てて倒れている『鬼人』を見るが、その鬼人はまだ蹲ってその場から動かずに苦しむ素振りを見せていた。
『鬼人』はミョウイの術によって本来の自我を失わされている為に、打算的に働こうとする知性などは残っていない筈だというのに、標的である『隻眼』が近くを歩いているというのにそちらを一切気にせずに蹲り続けていた。
(さっさと起き上がって襲い掛かれ! 何をしているのだ……!!)
術で操っている『鬼人』に再度命令を下すミョウイだが、知性が残されていない筈の『鬼人』は一切ミョウイの命令に従わずにその場を動こうとしなかった。
その間もキョウカはミョウイの元へと少しずつ近づいてくる。その足音が耳に届くにつれて、ミョウイの不安は最高潮に達して、苛立ちと恐怖心がせり上がってきて更に焦らされるのだった。
「な、何をしているのだ! は、はやく小娘を殺せ、ちっとは役に立てよこのグズが!!」
術によって強制的に動かされそうになっている『鬼人』だが、近くで足を止めたキョウカの顔を見上げると同時にその『鬼人』は再びその視線を逸らして震え始める。
「な……っ! わ、ワシの術が効いておらぬのか!?」
契約状態にある妖魔に命令を行使しているにも拘わらず、更には別の術で知性を奪われて自由に操れる筈の『鬼人』が全く自分の言う通りに動かない事に、一体何が起きているのだとばかりに驚くミョウイであった。
ミョウイ自身が編み出した術式でもなく、剰えミョウイはこの術の利点や好都合なところばかりを見て、好きに妖魔達を自分の思い通りに操れるモノだと考えていた事で、実際にこの術が起こす副作用の影響は本能を剥き出しにする事だと気付いていなかった。
つまりミョウイの術はしっかりと『鬼人』に効果を及ぼしているのであった。この『鬼人』が妖魔の本能として深層意識で考えられている事は『戦っても勝てない、敵にしてはいけない』。
――ただこれだけの事である。
まさにこの術を編み出した『ゲンロク』が、今このミョウイのとっている行動を見ればその滑稽さに苦笑いを浮かべていた事だろう。
妖魔退魔師『キョウカ』という絶対的な強者を相手にしてはいけないという妖魔の本能が働いていて『鬼人』はその本能に従った行動をとっているのである。そして術が効いていないと勘違いをしているミョウイは、ひたすらに本能に従えとばかりに術を施しながら命令を下しているのであった。
「『式』の貴方は契約の所為で自分の意思を貫けないのね?」
キョウカは目の前で脅えている『鬼人』に静かに声を掛けると、震えながらも『鬼人』は何か自分に話しかけている人間に耳を傾けながら顔をあげてキョウカの顔を見るのだった。
高位の妖魔である『妖狐』と『鬼人』に自身の大半の『魔力』を費やして禁術まで施したというのに、あっさりとやられるところを見せつけられて、更には自分と同じ上位の妖魔召士である『アチシラ』をまるで相手にせずに首を刎ねた、たった一人の娘に『ミョウイ』は空いた口が塞がらなかった。
(こ、こんな……! 自我を失っているとはいっても『妖狐』も『鬼人』も禁術を施した今の状態のランク的には、あ、あの『妖魔団』の妖狐『朱火』や、鬼人女王『紅羽』に匹敵する程の戦力値を誇っていたのだぞ!? そ、それを……、こ、こんな……! アチシラ殿までもが……!!)
既にこの場に残されているのは『魔力』が全く残されていない自分と、既に戦意を失って痛みに悶えている『鬼人』しか残されていない。
前時代の妖魔召士達から妖魔退魔師は恐ろしい存在だと聞かされてはいたが、それでも自分達程の上位妖魔召士であれば難なく倒せる相手だと甘く見ていた。それも元から高位の『妖魔』に禁術まで施していたのである。それをたった一人の若い娘にやられるなどと誰が予想など出来ようか。
先程彼らは『妖魔山』に生息する真に強い妖魔を相手にやり合ってきたと豪語したが、それは単に『妖魔召士』組織が『妖魔山』を管理していたからに過ぎない。もし『妖魔退魔師』が『妖魔山』を管理する事になれば、彼らが入れる場所より更に奥の区域にまで進む可能性すらあるのだ。
――『妖魔召士』組織に所属する人間と『妖魔退魔師』の組織に所属する人間。互いにこれまでは直接戦う事は避けるように明言されてきたが、ここにきてミョウイという『上位妖魔召士』は、何故これまで武力衝突を避けるように前時代の『妖魔召士』達が告げていたのかを身を以て理解したのであった。
そしてアチシラや高ランクの妖魔を倒した『隻眼』が、ゆっくりとこちらに歩いてくるのを見た『ミョウイ』は目に見えて焦り始める。
(ど、どうする!? まだ『式』を出す余裕はあるが、あの『隻眼』を倒す事は不可能だ……! ワシの残された魔力ではもう禁術を施す事も出来ない。そ、そうだ……! まだ『鬼人』は体現しているままの筈だ)
まだ術でランク『6.5』相当にまで引き上げた『鬼人』は戦う余力があると、そう考えたミョウイは慌てて倒れている『鬼人』を見るが、その鬼人はまだ蹲ってその場から動かずに苦しむ素振りを見せていた。
『鬼人』はミョウイの術によって本来の自我を失わされている為に、打算的に働こうとする知性などは残っていない筈だというのに、標的である『隻眼』が近くを歩いているというのにそちらを一切気にせずに蹲り続けていた。
(さっさと起き上がって襲い掛かれ! 何をしているのだ……!!)
術で操っている『鬼人』に再度命令を下すミョウイだが、知性が残されていない筈の『鬼人』は一切ミョウイの命令に従わずにその場を動こうとしなかった。
その間もキョウカはミョウイの元へと少しずつ近づいてくる。その足音が耳に届くにつれて、ミョウイの不安は最高潮に達して、苛立ちと恐怖心がせり上がってきて更に焦らされるのだった。
「な、何をしているのだ! は、はやく小娘を殺せ、ちっとは役に立てよこのグズが!!」
術によって強制的に動かされそうになっている『鬼人』だが、近くで足を止めたキョウカの顔を見上げると同時にその『鬼人』は再びその視線を逸らして震え始める。
「な……っ! わ、ワシの術が効いておらぬのか!?」
契約状態にある妖魔に命令を行使しているにも拘わらず、更には別の術で知性を奪われて自由に操れる筈の『鬼人』が全く自分の言う通りに動かない事に、一体何が起きているのだとばかりに驚くミョウイであった。
ミョウイ自身が編み出した術式でもなく、剰えミョウイはこの術の利点や好都合なところばかりを見て、好きに妖魔達を自分の思い通りに操れるモノだと考えていた事で、実際にこの術が起こす副作用の影響は本能を剥き出しにする事だと気付いていなかった。
つまりミョウイの術はしっかりと『鬼人』に効果を及ぼしているのであった。この『鬼人』が妖魔の本能として深層意識で考えられている事は『戦っても勝てない、敵にしてはいけない』。
――ただこれだけの事である。
まさにこの術を編み出した『ゲンロク』が、今このミョウイのとっている行動を見ればその滑稽さに苦笑いを浮かべていた事だろう。
妖魔退魔師『キョウカ』という絶対的な強者を相手にしてはいけないという妖魔の本能が働いていて『鬼人』はその本能に従った行動をとっているのである。そして術が効いていないと勘違いをしているミョウイは、ひたすらに本能に従えとばかりに術を施しながら命令を下しているのであった。
「『式』の貴方は契約の所為で自分の意思を貫けないのね?」
キョウカは目の前で脅えている『鬼人』に静かに声を掛けると、震えながらも『鬼人』は何か自分に話しかけている人間に耳を傾けながら顔をあげてキョウカの顔を見るのだった。
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