最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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サカダイ編

1218.鎌かけと心の機微

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 門を出る前までは他の妖魔退魔師の隊士達と門の様子を監視するように窺っていた『隻眼』だったが、いつの間にか門を出るトウジを待っていたかの如く、その眼前に『隻眼』が現れるのだった。

(な、何でだ……? 他の連中には声をかけなかった癖に何故俺だけ……)

「どうかしましたか?」

「い、いや……、何でもない。そ、それであんたらは何なんだ?」

 声は普段より上擦っているトウジだが、それでも注意深く意識して見ていなければ分からない程の差であり、彼なりには普段通りに徹する対応が出来ていたと言えた。

「これは申し遅れました。私は『妖魔退魔師』という組織に属する『キョウカ』という者です。最近この町の近辺によく妖魔が出現するとの事で、この町の治安維持を行っている『退魔組』の方々から『サカダイ』に本部がある『妖魔退魔師』組織に町の護衛をするように要請をされて我々はこちらに派遣されてきたのです」

(デタラメだな『退? 何でケイノトの治安を守っている『退魔組』が、わざわざ対立している組織に要請を頼むんだよ。一体何が目的なんだ……? もう俺がヒュウガ殿の関係者だと気づいて何かを探っていやがるのか?)

 キョウカの言葉に表面上はおくびにも出さなかったが、退という言葉を聞いた事で、内心で訝しむトウジであった。

「そ、そうなのか、それはご苦労な事だ」

「貴方の恰好を見るに商人だとお見受けしたのですが、外に出るなら気を付けて下さいね? 最近は前に比べて妖魔の数が本当に増えていて本当に危ないんですよ。何かあってからでは遅いと思って、よく町に出入りする人にこうして注意喚起のつもりでお声を掛けさせて頂いているのです」

 どうやら自分達がヒュウガの遣いで来ているという事がバレているわけではなく、護衛をつけずに町に出たり入ったりしているミヤジが気になって『隻眼』は声を掛けてきただけのようであった。

「な、成程……! 今度から気を付けるよ。最近は商売が上手く行ってなくてね。何か商売に繋がるいい話はないかと大きな町である『ケイノト』に足繁あししげく通っていたというわけなんだ。は、ははは、本当に参ったもんだよ」

 苦しい言い訳だと自分でも思ったトウジだが、ここで要らぬ事を告げてこれ以上注目を浴びたくもないと考えたトウジは、当たり障りのない事を言ってこの場を去ろうとするのであった。

「そうだったのですね。だったようにお見受けしましたが、今回は出て行かれるのですね」

「あ、ああ……、本当に良くご存じなのだな。彼とは前の仕事で一緒だったんだが、元々彼はこの町の人間で仕事を終えて別れただけですよ」

「そうでしたか。お時間を取らせてしまってすみません。ですが本当に外は妖魔が増えて危険ですので、他の町に行くときは『妖魔退魔師』の護衛隊に一声掛けて頂ければ、直ぐに安価で護衛として雇えますので、是非ご利用なさってください」

 親身になって説明をしながら自分達の組織の予備群を宣伝する姿を見て、どうやら本当に宣伝目的で声を掛けてきたのだろうかと思い始めるトウジであった。

「分かった。確かに護衛料をケチって妖魔に殺されてしまったら元も子もないからね。今後は貴方の言う通りに護衛を頼もうと思うよ」

「ええ。是非そうなさって下さい」

「ああ、ありがとう。それじゃあ失礼するよ」

「お気をつけて」

 去って行く『トウジ』の背中を見ていた『キョウカ』の元に彼の部下である『ヒサト』が近づいてくると、キョウカはトウジの背中を見ながら口を開いた。

「ヒサト、やっぱり私が思った通りにだったわよ」

 ヒサトと呼ばれたボサボサの髪の毛をした男は、キョウカの言葉に驚いた表情を浮かべるのだった。

「言い切りますか。何か根拠はあるんですか?」

「私が鎌かけで『退魔組』っていう言葉を口にした時、私だから分かる程度に動揺をしていた。彼は上手く誤魔化したと思っているのでしょうけど、視線を僅かに私から逸らした。それにそれまでとその後の声にも微妙な変化があった。あれは一番に隠しておきたい事を明るみにされそうになった時に咄嗟に出る、感情信号というべき心の機微だから訓練でどうにか出来る人は居ないでしょうね」

 流石は人間観察を趣味として生きている隊長だと、若干引きながら納得するヒサトであった。

「後はそれに付随して上手く誤魔化せていた、というのが断言出来た根拠でもあるわね。彼の心の機微に初見で気付けるのは、多分私かあの眼鏡のサイズの合っていないこわーい副総長くらいなものだと思うわよ」

「そ、そうですか……」

「ヒサト。貴方は引き続き他の隊士とここを見張っていなさい。私が彼の後を追います」

「え!?」

 その言葉は意外だったのか、ヒサトは驚きの声を上げた。どうやら彼は彼女に後を追うように言われると思っていたのだろう。

「我々がここに居る事は既にヒュウガ一派も気づいている筈。つまりは彼は囮で別の手立てを用意している可能性もある。それにもしこのまま彼の後をつけた先にヒュウガ達が居た場合の事を考えると私が追った方が間違いないでしょうからね」

「……」

 返事をしないヒサトに彼女は視線を向けると、どこかしょんぼりとしている印象のヒサトが目に入った。

「私の目論見が外れてこっちにヒュウガや上位の『妖魔召士』達が大勢来た場合は、貴方みたいに頼れる人が居ないといけないから……」

「!」

 照れているのかキョウカは視線を外しながらヒサトにそう告げると、分かりやすい程にヒサトは目をきらきらとさせながらキョウカを見るヒサトだった。

「それじゃあ、こっちは頼んだわね?」

 そう言ってその場の指揮をヒサトに任せたキョウカは、返事を待たずにトウジを追って走って行った。
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