上 下
1,224 / 1,906
サカダイ編

1207.身代わりとなった者達

しおりを挟む
 ミヤジとトウジは最初にイツキやユウゲではなく、この退魔組を預かる頭領である『サテツ』が出てきた事で面倒な事になったと思っていたが、少し遅れて奥の部屋から見知った男が出て来た事で嬉しそうな表情を浮かべるのであった。

「……

「あ? 何だイツキ、てめぇがこいつらを呼んだのか?」

 細い目のイツキにしては少し見開きながら、ミヤジ達と蕎麦を交互に見て何かを察したようで、直ぐにイツキはサテツに言葉を返すのであった。

「今日はまだお昼を食べていなかったでしょう? わざわざ仕事が立て込んでいる時に食べに行く事を考えるなら、今流行りの出前を試してみようと思って私が呼んだのですよ。驚かせてしまってすみません」

「ちっ……! それならそうと最初から伝えておけや。鹿が殴りこみに来たのかと思ったじゃねぇか!」

 そう言ってサテツはイツキの頭を決して軽くはない力で叩いた後に、再び奥の部屋へと戻って行くのであった。

「いてて……」

 とばっちりを受けたイツキだが、申し訳なさそうにしているミヤジの前に近づくと笑みを向けた。

「無理を言って運んでもらってすまなかった、これ代金ね」

 そう言って懐から金子の入った巾着を取り出すと、ミヤジの手に直接渡す為に更に一歩近づき、顔をミヤジに寄せた。

「……夕方頃、裏路地に来い。そこでお前達の話を聞こう」

 ミヤジに金子を手渡すと同時、ぼそりとそう呟くイツキであった。

「は、はい……!」

 小声でミヤジも返事をするとイツキは軽く頷き、その後一度だけトウジの方に視線を向けてニコリと笑いかけると、トウジは軽く会釈をする。が久々に顔を合わせる事となった瞬間であった。

 やがてイツキの方から視線を切ると、蕎麦を机の上に並べながらミヤジ達にお礼の言葉を継げるのであった。 

「ま、毎度あり!」

 ミヤジとトウジは互いに目を合わせた後、荷物の無くなった天秤棒を担ぎ上げながら『退魔組』を後にするのであった。

 退魔組を出た後に二人はちらりと裏路地の方を見る。やはりまだ監視を続けているようでそこには妖魔退魔師であろう男達が変わらずにその場に数人立っているのが見える。ミヤジ達は空になった天秤棒を担ぎながら見張りの方を一瞥した後、直ぐに視線を前に戻して食事処へと赴くのだった。

 …………

「よし……! 返す物も返した事だし、後はイツキ様にあの『妖魔召士』達の事を伝えるだけだ」

 食事処の店主達に商品の道具を返して再び表通りに出た二人は『退魔組』のイツキと会う約束を取り付けられた事で、ようやく肩の荷が下りたような感覚を得ているのだった。

「それなんだがミヤジ、イツキ様に伝えに行くのはお前に頼んでもいいか? 俺はこのままヒュウガ殿の所へ向かい、事が上手く運んだ事を伝えに戻ろうと思う」

「まぁそりゃあいいですけど、いいんですか? 折角久しぶりにイツキ様と話せる機会が設けられたのに……」

 イツキは『煌鴟梟こうしきょう』の二代目をトウジに譲った後に、妖魔召士組織の『退魔組』の所属となった。当然退魔組は『妖魔召士』の下部組織にあたる為に、犯罪を行う事も商売の一つとして行っている『煌鴟梟』のボスとなった以上、これまで表立ってはイツキと会う事が出来なかった。

 当然連絡は細かにとってはいたようだが、それでも直接伝えに来るのはイツキ本人というわけもなく、前回のように『ユウゲ』のような代役を通して行われる為、今回トウジがイツキに会えたのは相当に久方ぶりの事だったのである。

 今後は組織の人間としてではなく、個人としてイツキに従おうと考えているミヤジとは違い、今後はヒュウガ達と行動を共にビジネスをするという事で、再びミヤジとは違う道へと進むことを考えているトウジにとっては、今回の機会にゆっくりとこれまでの積もる話をするいい機会の筈だとミヤジは考えてそう口にしたのであった。

「……気持ちを汲んでもらってすまないな。やっぱりお前は優秀な人間だ。人の細かな機微を読める人間は商人としても成功をするだろう。だが、俺はもういいんだ……。さっき退魔組の屯所でイツキ様とは目で会話を交わしたからな。実は俺もあの時に踏ん切りがついたんだ」

 そう話すトウジの心境の全てを読み取れはしなかったが、ミヤジは彼には彼なりの思いがあるのだろうと考えて、それ以上は無理に会わせようという気は起きなかった。

「まぁ、それなら仕方ないっすね。じゃあ代わりに俺が煌鴟梟の事やら、これまでの事を伝えておきます。あんたのミスで煌鴟梟が潰れちまったって、しっかり言っておきますから、精々気に病んでください」

 にやりと笑いながら冗談交じりに告げるミヤジに、トウジは苦笑いを浮かべた。

「すまないな。いずれこの借りは返すつもりだ。俺はあのヒュウガって男達に今後の人生を賭けようと思っている。腐っても『妖魔召士』の人を導く立場に居た人間と仕事をする機会が得られたんだ。踏み出す一歩にしては悪くないだろう?」

 トウジの言葉を聞いたミヤジだが、彼はトウジ程にあのヒュウガとかいう男たちのあらたな組織とやらには希望を見出す事が出来なかった。

 ミヤジもトウジ程ではないにしろ、煌鴟梟の幹部まで上り詰めた人間である。ある程度『人生』という事については同じ年代の者達よりは経験してきている。そんな彼なりに『妖魔召士』組織を割ったあの男とビジネスをする事は、あまりいい結果を生まないのではないかと、それこそ分が悪い賭けのように感じられたのである。

 しかし多くの人間が無理だと感じる事こそが、成功への一歩という考え方もある。ミヤジにとってはヒュウガと行動を共にする事への第一歩が破滅への第一歩のように感じられたとしても、今後トウジが踏み出すその一歩目が、成功者への道に繋がっているのかもしれない。

 自分の常識で物事を考えて浅はかな発言をするのは愚の骨頂だと考えて、それ以上の言葉は出さずに呑み込み明確な言葉を告げずに、別の事に対して口を開くのであった。

「あんたが借りを返すつもりがあるなら、せめて捕まっているサノスケ達を逃す協力を頼むぜ? アンタの身代わりになって死んだんじゃ、あいつらも浮かばれねぇよ」

「ああ。それも分かってるさ」

 哀願をするようなミヤジの言葉を聞いたトウジは、その表情に悲壮感を漂わせるのだった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...