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サカダイ編
1176.副総長ミスズの本音
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「わ、分かりました……。ありがとうございます、ミスズ様」
『自分を責めるのは間違っている、何故ならあなたが弱いから』と告げられた意味をよくは理解が出来なかったシグレだが、こうして自分の気持ちを吐露した上で道を示してくれたミスズに感謝の言葉を告げるのだった。
シグレが頭を下げながら礼を口にすると、ミスズはにこりと笑って抱き寄せていた手を離すのだった。
「サシャ、もう入ってきても構いませんよ?」
シグレに笑顔を向けていたミスズだったが、突然に入り口の扉の方を見たかと思えば、そちらに声を掛ける。
「流石副総長。ばれていましたか」
部屋の扉が開いたかと思うと、お茶を人数分おぼんに持ちながら『サシャ』が姿を見せる。どうやら既にお茶を淹れ終えて部屋の前に来ていたのだろう。どうやら彼女は部屋にミスズが来ている事に気づいて、傷心中のシグレに何を言うのかと気になって見ているようであった。
彼女もスオウにこの場を任された以上、何かミスズに責められていたならば、助けに入るつもりだったようでミスズに抱き寄せられていたシグレを見てサシャもほっとした笑みを浮かべていた。
「ちょっと冷めてしまいましたね。すみません、淹れ直してきます」
どうやらもうミスズにシグレが責められる心配はなさそうだと判断したのだろう。そう告げて再び部屋を出て行こうとするが、そこでサシャの背に向けてミスズから声が掛かる。
「サシャ、お茶はもういいです。貴方にも聞いて欲しい事がありますからそこに座りなさい」
「は、はい!」
お茶を淹れ直しに行こうと部屋の扉に手を掛けていたサシャだったが、先程までとは違いミスズが任務中の声色に変わった事に気づき、慌てて扉を締め直すと同時、持っていたおぼんを机の上に置いて直立不動で指示を待つのだった。
「いや、座りなさいよ。貴方」
「は……、はい! 失礼致します!」
(何をそんなに畏まっているのかしら)
普段は接しやすく姉御肌で頼りになると部下達からも親しまれているミスズ副総長だが『任務遂行中』の彼女は自分にも他人にも厳しくなる。そして今のミスズの真剣な声色が『任務中』の時の命令と重なり、長年その副総長と共に任務を行ってきた二組の副組長『サシャ』隊士は思わず『仕事』時の態度になってしまった様子であった。
「今後シグレ隊士は私の定めた期間、貴方の居る二組に預ける事にしますので『妖魔退魔師』の幹部として面倒を見てあげなさい。くれぐれも彼女の扱いには気を付けて、しっかりとスオウ組長とも相談するように!」
「は! 分かりました副総長!」
「え……?」
ミスズの命令に対して一切の疑問を抱かずに了解を示すサシャとは違い、突然のミスズの言葉に困惑を隠し切れないシグレは呆然とした言葉を出すのであった。
「シグレ隊士。貴方は今の『旅籠町』の隊長の任からは降りて頂きます。私が許可するまでの間は、貴方は『予備群』としては扱えない。理由は分かりますね?」
そこまで聞いたシグレは目の前が真っ白になっていく。
(ああ、そうか。理由はどうあれ私は『妖魔召士』の人間を殺めた。罪人である私は組織から不必要だと判断されたという事なんだ。ミスズ副総長に温情を掛けて貰えてこのまま捨てられるという事はないみたいだけど、それでも私はもう予備群では居られないんだ……)
シグレを人質にとるような下劣な妖魔召士達であっても、殺してしまえばそれは罪人。それもシグレは町の治安を守る為に派遣されている護衛隊の隊長を務めている予備群である。いくら隊長の事があったにしても、自分の気持ちを優先してしまった彼女が、治安維持を行う護衛隊の隊長の任務を続ける事は出来ない。彼女は自分を客観的に捉えて悟るのであった。
「今後はスオウ組長とサシャ副組長の居る元で実戦経験を積みなさい。折を見て貴方を『特務』に、私の『直属の部下』になってもらいますから、そのつもりで励みなさい」
「えっ……!?」
組織から居場所がなくなったんだと、消失感に包まれていたシグレの驚きの声は先程出した声より遥かに大きく、そして上官の命令は絶対という風に命令に従っていたサシャでさえ、驚愕に目を丸くするのだった。
「ど、どうして……。私は捨てられるんじゃないんですか? 人を……、妖魔召士を殺めてしまったのに……!」
不安そうにそう告げるシグレがミスズの顔を見ると、ミスズは真面目な表情を浮かべながら答えた。
「捨てる? 何故私が貴方のような有能な人材を捨てなければならないのですか? 確かに『妖魔召士』を殺めた事は褒められた事ではありませんが、貴方は考え無しに『妖魔召士』を襲ったわけではない。そもそもそんな事を言い始めたら、妖魔召士側は何度うちを襲っているのですか? それも私の大事なコウゾウを殺めておいて、妖魔召士側から何か文句を言ってくるのであれば、今度こそ目にものをみせて差し上げます」
この『サカダイ』の町の領主と『妖魔退魔師』組織は、切っても切れない関係を結んでいる。その上で相手の妖魔召士は、彼女を人質にとって危険を周囲に振りまいていた人物であり、その人質対象となったシグレが正当防衛を行ったに過ぎない。これだけの条件が揃っている以上はこの町で殺人が起きていたとしても両組織間で起きた出来事は、再び両組織間で当事者達の取り決めや裁量で決めてもらう他なく、妖魔退魔師副総長ミスズが問題ないと口にした以上は、今後の『妖魔退魔師との関係性』を冷静に考えた場合、領主は見て見ぬ振りをするしかないだろう。
妖魔退魔師としてではなく、ミスズ個人に対してであっても、これまで彼女がこの町の為に貢献を行ってきた数々の実績には、この町の領主を黙らせるだけの返しきれない『恩』や、『益』もあるのだった。
「原因がヒュウガ殿か、イダラマ殿達のモノなのかはまだ分からないが、事の詳細が分かった後は、徒では済ませませんよ」
コウゾウが殺められた時の感情が再び蘇って来たのか、ミスズの目がギラついていく。今の彼女に反論でもしようものなら完膚無きまでに言い負かされて、心が折れて立ち直れなくなるだろう。サシャは表情を必死に崩さないようにしていたが、こっそりとミスズから離れるように一歩下がる。どうやら余程に今のミスズが怖かったようである。
「話を戻しますが、そんな事で貴方を旅籠町の護衛隊の隊長を解任させたわけではありません。先程も言いましたが、私は貴方に組織の最前線で経験を積んでもらい、実績を残して頂きたいと考えています。その為に旅籠町の護衛隊では無く、今後は本部付けの予備群として貴方には組織に尽力して頂きたいと考えた上での処遇です。理解して頂けましたか?」
「はい……」
目に涙を溜めながらミスズの言葉に頷くシグレを見て、ミスズは再び彼女を抱き寄せて頭を撫でながら想いを口にする。
「強くなりなさい。シグレ」
優しく頭を撫でながら、慈しむようにミスズはシグレに笑みを向けるのだった。
……
……
……
『自分を責めるのは間違っている、何故ならあなたが弱いから』と告げられた意味をよくは理解が出来なかったシグレだが、こうして自分の気持ちを吐露した上で道を示してくれたミスズに感謝の言葉を告げるのだった。
シグレが頭を下げながら礼を口にすると、ミスズはにこりと笑って抱き寄せていた手を離すのだった。
「サシャ、もう入ってきても構いませんよ?」
シグレに笑顔を向けていたミスズだったが、突然に入り口の扉の方を見たかと思えば、そちらに声を掛ける。
「流石副総長。ばれていましたか」
部屋の扉が開いたかと思うと、お茶を人数分おぼんに持ちながら『サシャ』が姿を見せる。どうやら既にお茶を淹れ終えて部屋の前に来ていたのだろう。どうやら彼女は部屋にミスズが来ている事に気づいて、傷心中のシグレに何を言うのかと気になって見ているようであった。
彼女もスオウにこの場を任された以上、何かミスズに責められていたならば、助けに入るつもりだったようでミスズに抱き寄せられていたシグレを見てサシャもほっとした笑みを浮かべていた。
「ちょっと冷めてしまいましたね。すみません、淹れ直してきます」
どうやらもうミスズにシグレが責められる心配はなさそうだと判断したのだろう。そう告げて再び部屋を出て行こうとするが、そこでサシャの背に向けてミスズから声が掛かる。
「サシャ、お茶はもういいです。貴方にも聞いて欲しい事がありますからそこに座りなさい」
「は、はい!」
お茶を淹れ直しに行こうと部屋の扉に手を掛けていたサシャだったが、先程までとは違いミスズが任務中の声色に変わった事に気づき、慌てて扉を締め直すと同時、持っていたおぼんを机の上に置いて直立不動で指示を待つのだった。
「いや、座りなさいよ。貴方」
「は……、はい! 失礼致します!」
(何をそんなに畏まっているのかしら)
普段は接しやすく姉御肌で頼りになると部下達からも親しまれているミスズ副総長だが『任務遂行中』の彼女は自分にも他人にも厳しくなる。そして今のミスズの真剣な声色が『任務中』の時の命令と重なり、長年その副総長と共に任務を行ってきた二組の副組長『サシャ』隊士は思わず『仕事』時の態度になってしまった様子であった。
「今後シグレ隊士は私の定めた期間、貴方の居る二組に預ける事にしますので『妖魔退魔師』の幹部として面倒を見てあげなさい。くれぐれも彼女の扱いには気を付けて、しっかりとスオウ組長とも相談するように!」
「は! 分かりました副総長!」
「え……?」
ミスズの命令に対して一切の疑問を抱かずに了解を示すサシャとは違い、突然のミスズの言葉に困惑を隠し切れないシグレは呆然とした言葉を出すのであった。
「シグレ隊士。貴方は今の『旅籠町』の隊長の任からは降りて頂きます。私が許可するまでの間は、貴方は『予備群』としては扱えない。理由は分かりますね?」
そこまで聞いたシグレは目の前が真っ白になっていく。
(ああ、そうか。理由はどうあれ私は『妖魔召士』の人間を殺めた。罪人である私は組織から不必要だと判断されたという事なんだ。ミスズ副総長に温情を掛けて貰えてこのまま捨てられるという事はないみたいだけど、それでも私はもう予備群では居られないんだ……)
シグレを人質にとるような下劣な妖魔召士達であっても、殺してしまえばそれは罪人。それもシグレは町の治安を守る為に派遣されている護衛隊の隊長を務めている予備群である。いくら隊長の事があったにしても、自分の気持ちを優先してしまった彼女が、治安維持を行う護衛隊の隊長の任務を続ける事は出来ない。彼女は自分を客観的に捉えて悟るのであった。
「今後はスオウ組長とサシャ副組長の居る元で実戦経験を積みなさい。折を見て貴方を『特務』に、私の『直属の部下』になってもらいますから、そのつもりで励みなさい」
「えっ……!?」
組織から居場所がなくなったんだと、消失感に包まれていたシグレの驚きの声は先程出した声より遥かに大きく、そして上官の命令は絶対という風に命令に従っていたサシャでさえ、驚愕に目を丸くするのだった。
「ど、どうして……。私は捨てられるんじゃないんですか? 人を……、妖魔召士を殺めてしまったのに……!」
不安そうにそう告げるシグレがミスズの顔を見ると、ミスズは真面目な表情を浮かべながら答えた。
「捨てる? 何故私が貴方のような有能な人材を捨てなければならないのですか? 確かに『妖魔召士』を殺めた事は褒められた事ではありませんが、貴方は考え無しに『妖魔召士』を襲ったわけではない。そもそもそんな事を言い始めたら、妖魔召士側は何度うちを襲っているのですか? それも私の大事なコウゾウを殺めておいて、妖魔召士側から何か文句を言ってくるのであれば、今度こそ目にものをみせて差し上げます」
この『サカダイ』の町の領主と『妖魔退魔師』組織は、切っても切れない関係を結んでいる。その上で相手の妖魔召士は、彼女を人質にとって危険を周囲に振りまいていた人物であり、その人質対象となったシグレが正当防衛を行ったに過ぎない。これだけの条件が揃っている以上はこの町で殺人が起きていたとしても両組織間で起きた出来事は、再び両組織間で当事者達の取り決めや裁量で決めてもらう他なく、妖魔退魔師副総長ミスズが問題ないと口にした以上は、今後の『妖魔退魔師との関係性』を冷静に考えた場合、領主は見て見ぬ振りをするしかないだろう。
妖魔退魔師としてではなく、ミスズ個人に対してであっても、これまで彼女がこの町の為に貢献を行ってきた数々の実績には、この町の領主を黙らせるだけの返しきれない『恩』や、『益』もあるのだった。
「原因がヒュウガ殿か、イダラマ殿達のモノなのかはまだ分からないが、事の詳細が分かった後は、徒では済ませませんよ」
コウゾウが殺められた時の感情が再び蘇って来たのか、ミスズの目がギラついていく。今の彼女に反論でもしようものなら完膚無きまでに言い負かされて、心が折れて立ち直れなくなるだろう。サシャは表情を必死に崩さないようにしていたが、こっそりとミスズから離れるように一歩下がる。どうやら余程に今のミスズが怖かったようである。
「話を戻しますが、そんな事で貴方を旅籠町の護衛隊の隊長を解任させたわけではありません。先程も言いましたが、私は貴方に組織の最前線で経験を積んでもらい、実績を残して頂きたいと考えています。その為に旅籠町の護衛隊では無く、今後は本部付けの予備群として貴方には組織に尽力して頂きたいと考えた上での処遇です。理解して頂けましたか?」
「はい……」
目に涙を溜めながらミスズの言葉に頷くシグレを見て、ミスズは再び彼女を抱き寄せて頭を撫でながら想いを口にする。
「強くなりなさい。シグレ」
優しく頭を撫でながら、慈しむようにミスズはシグレに笑みを向けるのだった。
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