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サカダイ編
1166.重い荷物を抱える者達
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目を覚ましたシグレはサシャと楽しそうに会話を行っている。今この場に居るシグレが意識を失う前には、あんな殺意に満ちた表情や言葉を発していたのが信じられないと思える程であった。
(彼女に何があったかは分からないけど、せめてミスズ副総長やシゲン総長から連絡が入るまでは、この場でゆっくりさせてあげよう)
スオウもヒノエ達と同様に本来のシグレを知っているというわけではない。いち『予備群』の事を『妖魔退魔師』の更に最高幹部の人間が覚えている事はほとんどない。特にスオウ組長は他人には興味を示さない人間としてこの組織では有名で、ほとんどこの『妖魔退魔師』の組織でも自分の組員達や、最低限の数の人間の事しか頭にない程である。
しかしそんなスオウではあるがこうして見るからに弱っている人間に対して、追い打ちをかけるような冷酷な人間ではない。むしろこんな風に笑顔を見せる彼女が『妖魔召士』に対してあんな顔をしたり言葉を吐き出す程の事が彼女の身に起きたのだと考えられる側の人間なのであった。
そしてスオウの部下のサシャ副組長もまた、そんなスオウの気持ちを理解している為に、今自分の出来る仕事はほとんど齢が変わらないシグレ隊士と会話を行い、彼女の気持ちを安らがせる事だと考えたようである。
「スオウ組長、サシャ副組長……。実はわたし、ミスズ様に伝えなければいけない事があってここに来たんですけど、ここにきて直ぐに『妖魔召士』に人質にされて、それで抑えられなくなってしまって……!!」
これまでサシャと楽しく談笑を行っていたシグレだったが、突然に笑顔が曇り始めたかと思うと、唐突にそんな事を言い始めるのだった。サシャは今の今まで楽しく会話を交わしていたシグレの変わり様に狼狽する。気持ちが纏まらない彼女だったが、ここは何か言わなければとサシャは口を開きかけたが、そこでスオウ組長がサシャの肩を叩いた。
「サシャ、ごめん。三人分のお茶を淹れ直してきてくれるかな?」
ニコリと笑いながらそう告げて来たスオウ組長だったが、サシャはスオウの目を見て直ぐにはっとする。『ここは自分が話を聞くから、キミは出ていてくれ』と、スオウ組長が目で訴えかけてきていたのであった。
「分かりました」
そう言ってサシャは立ち上がりシグレの方を一瞥するが、シグレは両手で頭を押さえたまま俯いていて返事をするどころではなさそうだった。そして視線をスオウ組長に戻すと、スオウは首を小さく縦に振って頷いて見せるのだった。
「直ぐ戻りますね……」
そう言い残してサシャは部屋を出て行くのだった。
…………
サシャが部屋を出ていった後、静かにスオウは口を開いた。
「さっきキミがミスズ副総長に伝える事があって来たって言っていたけど、どうやらその理由は『妖魔召士』が絡んでいるんだね? どうやらキミも忘れたい何か大きな物を抱えているのを強引に忘れようと気持ちに蓋をして、強引に前を向いているように感じる。でもふとした拍子にさっきみたいに衝動的に表に出てくるといった感じかな?」
髪の毛を掻きむしりながら泣きそうな表情を浮かべていたシグレが、スオウの言葉を聞いてぴたりとその動かしていた手を止めるのだった。どうやら正にスオウの言う通りだったようで、しっくりとその言葉が胸に届いたのだろう。シグレは顔を上げて驚いた表情をスオウに見せるのだった。
「な、何で分かるのですか? そ、そうなんです……! 切り替えなきゃと思って、思って、思って……るんですけど、いざあの時の事を連想させる何かがふと頭に過ったら、私は我慢が出来なくなる……ッ! 『妖魔召士』達を皆殺しにしなきゃって、この手であの方を帰らぬ者にしたあの憎き『妖魔召士』達を皆殺しに!」
そしてそこまで喋ったシグレはの目がまたもや、どす黒く変貌していき握っていた手に力を込めて布団をぎゅっと掴み始める。
…落ち着けシグレ隊士。キミが今いくら憎悪の感情を剥き出しにしたところで、それを解消する事は出来ないよ」
「あ、貴方に! 何が分か……っ!?」
どす黒い目をして唇を噛みながら顔をあげたシグレだったが、その先にあるスオウの目を見た瞬間に思わず、言葉を呑み込むシグレだった。
スオウの目はシグレのように憎悪に満ちたどす黒い目ではなかったが、代わりにスオウの目には、何も色のない虚無が感じられる目をしていたのだった。そこには能動的に動き出すような意志は感じられないのだが、無理に他人がそこに触れようとするとその触れてこようとするものを無理矢理壊しながら、自分も砕け散りそうな脆さを感じさせる何かがあり、シグレはそのスオウの目を見た瞬間に、強烈な感情が憎悪を上書きするように感じられて冷静さを取り戻すのだった。
「分かるよ」
「え?」
「確かにキミの抱く感情と俺の感情は別物だろうけど、決して考えたくない、考えると不安になってそれしか考えられなくなるんだろ? その不安は絶対に取り除けない、一度経験すると死ぬまで忘れられない」
空虚な目を浮かべているスオウは、シグレを見ているようでシグレを見ていない。その背後の壁を見ているように感じられるが、きっとこのスオウ組長は目に映る物を正確に見ては居らず、今告げている自身の感情に目を向けながらシグレに話し掛けているのだろう。
そしてそれに気づいた時にシグレは、自分のエゴで優しく接してくれていた彼にも持っていたのであろう何か辛い『不安の感情』を思い起こさせてしまっているのだと悟った。
「あっ……、ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
『貴方に何が分かる』とスオウに言いかけたシグレだったが、そのスオウは十二分に自分と同じ感情を抱いて生きているのだ。そして彼女は自分の所為でそのスオウの抱いている感情をこの場で思い起こさせてしまったのだと悟る。
サカダイの町で『妖魔召士』と接した事で、シグレは心の奥底に蓋をした筈のコウゾウの事を思い出してしまい、衝動のままに暴れてしまったが、今度はその他でもないシグレがそのサカダイで出会った『妖魔召士』のように自分勝手に喚いたせいで、今度はスオウが考えないようにしていた心の奥底の感情を乱暴にこじ開けてしまったのである。
その事に気づいた為に、シグレはずっと布団の中から謝罪を繰り返す。スオウが自分よりずっと長い期間抱き続けているその『不安の象徴』を思い起こさせてしまった事に対して謝罪を行っているのであった。
「ははは。何も謝る事は無いよ、こんな感情を抱く事になったのは自分の弱さの所為だからね。でもそうだね、誰にでも忘れたくても忘れられない許せないモノとか、不安とかそういった感情は抱えて生きているからね。でもキミだけが特別じゃないんだ、それに『抱く感情』には大きさは関係ないと思う。その事を理解して、衝動的に感情が襲ってきても周りを見て抑えられる……。そんな風に他人を慮れるようになれるといいね」
そう告げたスオウはもう空虚な目をしておらず、にこりとシグレに笑いかけるのだった。
「はい。申し訳ありませんでした……」
目の前に居るスオウが上辺だけでシグレに心配するような言葉や、諭す言葉を使っているのではないという事を他でもない彼女自身の目で理解が出来た為に、素直に笑いかけるスオウを信頼して再度謝罪を行うのであった。
…………
(流石ですスオウ組長、私は貴方に生涯ついて行く覚悟がありますよ!)
そしておぼんに三人分のお茶を載せながら、スオウ達の居る部屋の前の廊下で話を聞いていたサシャは、過去のスオウが、先程のシグレ以上に荒れていた時の事を思い出していたが、最後にはその感情に折り合いをつけて今を生きるスオウの言葉に感銘を受けるサシャであった。
(彼女に何があったかは分からないけど、せめてミスズ副総長やシゲン総長から連絡が入るまでは、この場でゆっくりさせてあげよう)
スオウもヒノエ達と同様に本来のシグレを知っているというわけではない。いち『予備群』の事を『妖魔退魔師』の更に最高幹部の人間が覚えている事はほとんどない。特にスオウ組長は他人には興味を示さない人間としてこの組織では有名で、ほとんどこの『妖魔退魔師』の組織でも自分の組員達や、最低限の数の人間の事しか頭にない程である。
しかしそんなスオウではあるがこうして見るからに弱っている人間に対して、追い打ちをかけるような冷酷な人間ではない。むしろこんな風に笑顔を見せる彼女が『妖魔召士』に対してあんな顔をしたり言葉を吐き出す程の事が彼女の身に起きたのだと考えられる側の人間なのであった。
そしてスオウの部下のサシャ副組長もまた、そんなスオウの気持ちを理解している為に、今自分の出来る仕事はほとんど齢が変わらないシグレ隊士と会話を行い、彼女の気持ちを安らがせる事だと考えたようである。
「スオウ組長、サシャ副組長……。実はわたし、ミスズ様に伝えなければいけない事があってここに来たんですけど、ここにきて直ぐに『妖魔召士』に人質にされて、それで抑えられなくなってしまって……!!」
これまでサシャと楽しく談笑を行っていたシグレだったが、突然に笑顔が曇り始めたかと思うと、唐突にそんな事を言い始めるのだった。サシャは今の今まで楽しく会話を交わしていたシグレの変わり様に狼狽する。気持ちが纏まらない彼女だったが、ここは何か言わなければとサシャは口を開きかけたが、そこでスオウ組長がサシャの肩を叩いた。
「サシャ、ごめん。三人分のお茶を淹れ直してきてくれるかな?」
ニコリと笑いながらそう告げて来たスオウ組長だったが、サシャはスオウの目を見て直ぐにはっとする。『ここは自分が話を聞くから、キミは出ていてくれ』と、スオウ組長が目で訴えかけてきていたのであった。
「分かりました」
そう言ってサシャは立ち上がりシグレの方を一瞥するが、シグレは両手で頭を押さえたまま俯いていて返事をするどころではなさそうだった。そして視線をスオウ組長に戻すと、スオウは首を小さく縦に振って頷いて見せるのだった。
「直ぐ戻りますね……」
そう言い残してサシャは部屋を出て行くのだった。
…………
サシャが部屋を出ていった後、静かにスオウは口を開いた。
「さっきキミがミスズ副総長に伝える事があって来たって言っていたけど、どうやらその理由は『妖魔召士』が絡んでいるんだね? どうやらキミも忘れたい何か大きな物を抱えているのを強引に忘れようと気持ちに蓋をして、強引に前を向いているように感じる。でもふとした拍子にさっきみたいに衝動的に表に出てくるといった感じかな?」
髪の毛を掻きむしりながら泣きそうな表情を浮かべていたシグレが、スオウの言葉を聞いてぴたりとその動かしていた手を止めるのだった。どうやら正にスオウの言う通りだったようで、しっくりとその言葉が胸に届いたのだろう。シグレは顔を上げて驚いた表情をスオウに見せるのだった。
「な、何で分かるのですか? そ、そうなんです……! 切り替えなきゃと思って、思って、思って……るんですけど、いざあの時の事を連想させる何かがふと頭に過ったら、私は我慢が出来なくなる……ッ! 『妖魔召士』達を皆殺しにしなきゃって、この手であの方を帰らぬ者にしたあの憎き『妖魔召士』達を皆殺しに!」
そしてそこまで喋ったシグレはの目がまたもや、どす黒く変貌していき握っていた手に力を込めて布団をぎゅっと掴み始める。
…落ち着けシグレ隊士。キミが今いくら憎悪の感情を剥き出しにしたところで、それを解消する事は出来ないよ」
「あ、貴方に! 何が分か……っ!?」
どす黒い目をして唇を噛みながら顔をあげたシグレだったが、その先にあるスオウの目を見た瞬間に思わず、言葉を呑み込むシグレだった。
スオウの目はシグレのように憎悪に満ちたどす黒い目ではなかったが、代わりにスオウの目には、何も色のない虚無が感じられる目をしていたのだった。そこには能動的に動き出すような意志は感じられないのだが、無理に他人がそこに触れようとするとその触れてこようとするものを無理矢理壊しながら、自分も砕け散りそうな脆さを感じさせる何かがあり、シグレはそのスオウの目を見た瞬間に、強烈な感情が憎悪を上書きするように感じられて冷静さを取り戻すのだった。
「分かるよ」
「え?」
「確かにキミの抱く感情と俺の感情は別物だろうけど、決して考えたくない、考えると不安になってそれしか考えられなくなるんだろ? その不安は絶対に取り除けない、一度経験すると死ぬまで忘れられない」
空虚な目を浮かべているスオウは、シグレを見ているようでシグレを見ていない。その背後の壁を見ているように感じられるが、きっとこのスオウ組長は目に映る物を正確に見ては居らず、今告げている自身の感情に目を向けながらシグレに話し掛けているのだろう。
そしてそれに気づいた時にシグレは、自分のエゴで優しく接してくれていた彼にも持っていたのであろう何か辛い『不安の感情』を思い起こさせてしまっているのだと悟った。
「あっ……、ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
『貴方に何が分かる』とスオウに言いかけたシグレだったが、そのスオウは十二分に自分と同じ感情を抱いて生きているのだ。そして彼女は自分の所為でそのスオウの抱いている感情をこの場で思い起こさせてしまったのだと悟る。
サカダイの町で『妖魔召士』と接した事で、シグレは心の奥底に蓋をした筈のコウゾウの事を思い出してしまい、衝動のままに暴れてしまったが、今度はその他でもないシグレがそのサカダイで出会った『妖魔召士』のように自分勝手に喚いたせいで、今度はスオウが考えないようにしていた心の奥底の感情を乱暴にこじ開けてしまったのである。
その事に気づいた為に、シグレはずっと布団の中から謝罪を繰り返す。スオウが自分よりずっと長い期間抱き続けているその『不安の象徴』を思い起こさせてしまった事に対して謝罪を行っているのであった。
「ははは。何も謝る事は無いよ、こんな感情を抱く事になったのは自分の弱さの所為だからね。でもそうだね、誰にでも忘れたくても忘れられない許せないモノとか、不安とかそういった感情は抱えて生きているからね。でもキミだけが特別じゃないんだ、それに『抱く感情』には大きさは関係ないと思う。その事を理解して、衝動的に感情が襲ってきても周りを見て抑えられる……。そんな風に他人を慮れるようになれるといいね」
そう告げたスオウはもう空虚な目をしておらず、にこりとシグレに笑いかけるのだった。
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目の前に居るスオウが上辺だけでシグレに心配するような言葉や、諭す言葉を使っているのではないという事を他でもない彼女自身の目で理解が出来た為に、素直に笑いかけるスオウを信頼して再度謝罪を行うのであった。
…………
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そしておぼんに三人分のお茶を載せながら、スオウ達の居る部屋の前の廊下で話を聞いていたサシャは、過去のスオウが、先程のシグレ以上に荒れていた時の事を思い出していたが、最後にはその感情に折り合いをつけて今を生きるスオウの言葉に感銘を受けるサシャであった。
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