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サカダイ編

1142.追う者と、追われる者

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「はぁっ……、はぁっ……! クソッ……! 流石に『妖魔退魔師ようまたいまし』の幹部達を振り切れないか」

 一般の人間達とは魔力も体力も異なる彼らだったが、それでも後を追って来ている『妖魔退魔師ようまたいまし』はそんな彼らよりも更に体力が上なようであり、このままでは追いつかれると理解する。

 シゲンやミスズ達が話をしていた通り、彼はゲンロクを長とする『妖魔召士ようましょうし』組織に、少し前まで所属していた『妖魔召士ようましょうし』達であった。

 それも彼らはチアキやキネツグ達とは比較にもならぬ魔力を持った者達で、ゲンロクやエイジ達とまではいかないが、それでも立派に『上位』に位置づけられる『妖魔召士ようましょうし』達である。

 だが、そんな彼らであっても後ろから追いかけて来るヒノエ達と真っ向から戦うという選択肢は選ぶ事は出来ない。たとえ彼らが『妖魔退魔師ようまたいまし』から上位と呼ばれる『妖魔召士ようましょうし』であっても、追いかけてきているヒノエ達と戦闘という事になれば、彼らがいくら『魔瞳まどう』や『捉術そくじゅつ』を使ったとしても一切の勝ち目がないからである。

 このままではいずれ追いつかれるだろうが、それでも立ち止まって戦う事を選ぶよりもこのままで走り続けた方が、僅かでも逃げ切れる確率は高いという事を彼ら『妖魔召士ようましょうし』は、理解しているのだった。

 そんな上位『妖魔召士ようましょうし』の彼の名前は『リュウジ』。現在シゲンやソフィ達と一緒に居るミスズがふと頭の中で思い過らせた人物『ヒュウガ・アキサメ』の側近の一人『キクゾウ』の忠実な配下で、ヒュウガ派と呼ばれる『妖魔召士ようましょうし』達の幹部であった者である。

 リュウジはヒュウガがゲンロクを裏切り、新たな組織を確立させる前より早くこのサカダイの町に潜り込んで間諜としての役割を担っていたのである。

 そんな彼はこれまでサカダイで集めた情報を持って、キクゾウの元へ向かおうとしていた所であった。しかしあと数日でヒュウガの元へ戻ろうとしたタイミングで『妖魔召士ようましょうし』の会合に出ていた筈のシゲン達が、この町に戻って来たかと思えば、何か特務の施設の方で無視が出来ない魔力の奔流をリュウジは、いち早く感じ取りその原因を詳しく調べようと表に出てきて露店商に扮したところであった。

 これまでは今回のように目立つような真似はせずに裏から裏へ、人から人へと情報を隠れ潜みながら、仕入れて来たリュウジだったが、突然の事であった事に加えて、総長、副総長が揃い踏みという事もあり、この場を離れる前にもう一つ何か土産となるような話を持って帰ろうと近くで何があったかを探ろうと姿を現してしまったのであった。

 これまでの活動が上手く行っていたという事もあったのかもしれないが、気のゆるみが許されない『妖魔退魔師ようまたいまし』組織の総本山であるという事を失念し、ここが『旅籠町』や他の町で行う間諜活動のように甘く見てしまった事が今の状況を招いてしまったのであった。

 万事上手く行っている時こそ、徹底して任務を遂行する事を優先しなければならない。9割9分の作戦成功に喜んで、1つの取り返しがつかないミスで全てが水の泡になってしまっては、一体何の為に間諜をやっているのか分からない。ヒュウガ派の中でも出来る者として上位『妖魔召士ようましょうし』として自負しているからこそ、気が大きくなって気が緩んでしまったのだろうか。

 ――リュウジは頭の中で後悔をしながら、町を駆けまわり続ける。

(他の連中と合流をしたかったが、もうそんな余裕はない。俺をまだ追って来ているのは……、クソッ! ヒノエ組長がいやがるのか)

 どうやら他の連中は若い『妖魔退魔師衆ようまたいまししゅう』のようだが、最高幹部が追って来ている事で、自分が一番の外れくじを引いてしまったのだと更に彼の心に後悔が生まれるのだった。

 『妖魔退魔師衆ようまたいまししゅう』だけであったならば、逃げながらも契約している『式』を使い、それを囮にサカダイから脱出して逃げようと考えが過ったのだが『妖魔退魔師ようまたいまし』組織『』が居る以上は彼の契約している一番強い妖魔の『式』を出したとしても時間稼ぎにもなりはしないだろう。 

(な……、何かないか! 奴らが一時的にでも足を止めるような、何か!)

「ククッ……! 悪いが副総長に命令された以上は、私がお前を逃す真似はしねぇよ! さっさと諦めて神妙に縄につけ」

「くそっ! ん……?」

 顔を歪めながら声を漏らしたリュウジだったが、サカダイの町を守る二の門が見えてきた辺りで、逃げるリュウジの目にがこちらに向かって歩いてくるのが見えたのだった。

 ……
 ……
 ……
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