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サカダイ編
1140.不審な点
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サカダイの町を歩いて『妖魔退魔師』の本部へ戻るソフィ達だったが、もうすぐ本部の建物が見えて来るかという辺りで、先程までスオウと会話をしていたミスズがゆっくりとその足を止めた。
「ヒノエ」
「はい?」
前を歩いていたミスズが足を止めて振り返ったかと思うと、後ろを歩いていたヒノエに言葉を掛け始める。いきなり話し掛けられたヒノエだったが、少しも驚く素振りも見せずに直ぐにミスズに返事を行うのだった。
どうやらこういった風にミスズから、急に言葉を投げかけて来る事にもヒノエは慣れている様子である。
「あそこの一角に露店を出している主人ですが、逃げる素振りを見せたら躊躇せずに止めなさい」
「分かりました」
ソフィ達の背後を歩くミスズとヒノエの小声で交わされる会話は、数歩程しか離れていない距離に居るスオウ達にも聞こえてはいない。しかし人間の聴覚とは比べ物にならない魔族のソフィには、内緒話を行っていた二人の会話の声がソフィにはハッキリと聞こえていた。
(……露店?)
二人の会話を盗み聞きしていた事など表にはおくびにも出さずにソフィは、心の中でミスズ達の会話を反芻させるようにそう呟くと、顔を前に向けたままでその露店を探す。
そしてこの道を進んだ先の右角に、僅かながらに果物などが置かれている露店が見えた。更には露店の前にも客らしき人間が数人居て、どうやら露店商はその客と楽しげに会話をしているように見える。
ソフィにはその露店主も前に居る客にも何も不自然な様子が見受けられず、単に談笑を行っているだけにしか見えなかった。だが背後のミスズにはどうやら、あの店主がただの露店商では無いと考えているようであり、ソフィは怪しさを感じないその店主を注意深く観察し始めると、やがてソフィにも店主と客たちに違和感が感じられた。
店主が会話を行っていた客相手に手振り身振りで何かを伝えている時、客の二人はちらりとシゲン達に視線を送っていた。そして今度は客側が口を開き始めると、今度は店主が左側に居る客の方を見ている風に装いながら、道を歩いて行く『妖魔退魔師』の一団を観察するように横目で追っている。
だがそれも僅かな間のみであり、あいつらが何か怪しいと言われた後に注意深く彼らを凝視して何かを行おうとしているのだと、最初から分かっていなければ気づける事はなかっただろう。それも時折道端を歩いている者達が振り返る程、大きな声で互いに値段の交渉を行っていたり、堂々と談笑している振る舞いには見ていて不審な点など一切感じられない。
今もソフィが彼らに感じているのは、シゲンやミスズ達に対しての視線が、監視するようなものなのかもしれないという、僅かな違和感程度のものであった。
そして先頭を歩いていたシゲンがぴたりと、その男達の店の前で足を止めた。
「……らっしゃい! これはこれは……! あんたはもしかして『妖魔退魔師』の総長様じゃないですかい? ここに置いてある品に何か興味でもありましたかな?」
『……』
突然店の前で停まったシゲンに商売を始めようと声を掛けた店主。傍から見ればそうとしか見えない様子であったが、当の本人であるシゲンは何かを確信しているようで一切商品の方を見ずに視線だけを店主に向け続けているのであった。
「ど、どうされたんですかい? シゲン様?」
流石に一言も喋らないシゲンに露店主は、訝しそうに眉を寄せた後に悩むような素振りを見せたが、やがてその店主は目の前に居た二人の客を一瞥するのだった。
その視線を受け取った店の前に居た客二人は、同時に店主に向けて大きく頷くと――。
――魔瞳、『青い目』。
「むっ……」
直後、シゲンの右手がぴくりと一瞬動き何かをしようとしたようだが、直ぐにその手を動かさずに引っ込めた。
自分達の『魔瞳』でシゲンの動きを封じたところを見た後、今度は客の方ではなく露店主の男が、おもむろに店の商品が置かれた棚をシゲンに向けて引き倒し始めるのだった。
色々と商品が並べられていた大きな棚がグラグラと揺れた始めたかと思えば、勢いそのままにシゲンを圧し潰さんと倒れて来る。
「総長!」
後方に居たミスズとヒノエは、同時に言葉を放ちながらシゲンの元へ向かって駆け寄り始めるのであった。
「ヒノエ」
「はい?」
前を歩いていたミスズが足を止めて振り返ったかと思うと、後ろを歩いていたヒノエに言葉を掛け始める。いきなり話し掛けられたヒノエだったが、少しも驚く素振りも見せずに直ぐにミスズに返事を行うのだった。
どうやらこういった風にミスズから、急に言葉を投げかけて来る事にもヒノエは慣れている様子である。
「あそこの一角に露店を出している主人ですが、逃げる素振りを見せたら躊躇せずに止めなさい」
「分かりました」
ソフィ達の背後を歩くミスズとヒノエの小声で交わされる会話は、数歩程しか離れていない距離に居るスオウ達にも聞こえてはいない。しかし人間の聴覚とは比べ物にならない魔族のソフィには、内緒話を行っていた二人の会話の声がソフィにはハッキリと聞こえていた。
(……露店?)
二人の会話を盗み聞きしていた事など表にはおくびにも出さずにソフィは、心の中でミスズ達の会話を反芻させるようにそう呟くと、顔を前に向けたままでその露店を探す。
そしてこの道を進んだ先の右角に、僅かながらに果物などが置かれている露店が見えた。更には露店の前にも客らしき人間が数人居て、どうやら露店商はその客と楽しげに会話をしているように見える。
ソフィにはその露店主も前に居る客にも何も不自然な様子が見受けられず、単に談笑を行っているだけにしか見えなかった。だが背後のミスズにはどうやら、あの店主がただの露店商では無いと考えているようであり、ソフィは怪しさを感じないその店主を注意深く観察し始めると、やがてソフィにも店主と客たちに違和感が感じられた。
店主が会話を行っていた客相手に手振り身振りで何かを伝えている時、客の二人はちらりとシゲン達に視線を送っていた。そして今度は客側が口を開き始めると、今度は店主が左側に居る客の方を見ている風に装いながら、道を歩いて行く『妖魔退魔師』の一団を観察するように横目で追っている。
だがそれも僅かな間のみであり、あいつらが何か怪しいと言われた後に注意深く彼らを凝視して何かを行おうとしているのだと、最初から分かっていなければ気づける事はなかっただろう。それも時折道端を歩いている者達が振り返る程、大きな声で互いに値段の交渉を行っていたり、堂々と談笑している振る舞いには見ていて不審な点など一切感じられない。
今もソフィが彼らに感じているのは、シゲンやミスズ達に対しての視線が、監視するようなものなのかもしれないという、僅かな違和感程度のものであった。
そして先頭を歩いていたシゲンがぴたりと、その男達の店の前で足を止めた。
「……らっしゃい! これはこれは……! あんたはもしかして『妖魔退魔師』の総長様じゃないですかい? ここに置いてある品に何か興味でもありましたかな?」
『……』
突然店の前で停まったシゲンに商売を始めようと声を掛けた店主。傍から見ればそうとしか見えない様子であったが、当の本人であるシゲンは何かを確信しているようで一切商品の方を見ずに視線だけを店主に向け続けているのであった。
「ど、どうされたんですかい? シゲン様?」
流石に一言も喋らないシゲンに露店主は、訝しそうに眉を寄せた後に悩むような素振りを見せたが、やがてその店主は目の前に居た二人の客を一瞥するのだった。
その視線を受け取った店の前に居た客二人は、同時に店主に向けて大きく頷くと――。
――魔瞳、『青い目』。
「むっ……」
直後、シゲンの右手がぴくりと一瞬動き何かをしようとしたようだが、直ぐにその手を動かさずに引っ込めた。
自分達の『魔瞳』でシゲンの動きを封じたところを見た後、今度は客の方ではなく露店主の男が、おもむろに店の商品が置かれた棚をシゲンに向けて引き倒し始めるのだった。
色々と商品が並べられていた大きな棚がグラグラと揺れた始めたかと思えば、勢いそのままにシゲンを圧し潰さんと倒れて来る。
「総長!」
後方に居たミスズとヒノエは、同時に言葉を放ちながらシゲンの元へ向かって駆け寄り始めるのであった。
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