1,122 / 1,906
サカダイ編
1105.決意をする妖魔召士の長
しおりを挟む
「待たせてすまなかったな……」
先日と同じ言葉を席に着いたシゲン達に向けて『妖魔召士』の長であるゲンロクが告げた。
しかし明確に前回と違って数年は年老いたように疲弊しきった表情だった。どうやら彼は与えられた時間を必死に考える事に使ったようである。
「ではゲンロク殿、答えを聞かせてもらおうか?」
もう今回は長々と話をするつもりがないのか総長のシゲンは席に着くなり、ゲンロクに結論を聞かせてくれと口にする。
「その事だがシゲン殿『妖魔山』の管理はそちらに任せる代わりに、二つ程条件をつけさせて欲しい」
どうやら一睡もしていなかったのか、ゲンロクは血走った目を真っすぐに『妖魔退魔師』総長シゲンに合わせながら告げるのだった。
「……」
シゲンは腕を組んだまま何も言葉を発する事なく、必死の形相のゲンロクに目を合わせる。前回とは違って今のゲンロクの目からは決死の覚悟を感じられる。どうやら平和ボケで錆付いていた矜持などが取り払われて前時代の『妖魔召士』達と同じ威圧感を放っていた。
その目を見たシゲンはようやく本気になったかと内心で満足そうにするのだった。
「条件? そんな物に応じる必要はこちらには……」
「いいだろう。ゲンロク殿、ではその条件とやらを聞かせてもらおうか?」
条件をつけようとするゲンロクに副総長のミスズが却下しようとするが、シゲンがミスズに手で制するとミスズはそのまま言葉を呑み込み押し黙る。
「まず、妖魔山の管理を渡すにあたって禁止区域へ入る時はこのワシも同行させて欲しい。最奥の禁止区域をシゲン殿達が入る時、その様子をワシに見せて欲しいのだ」
どうやらこれは『禁止区域』の妖魔に対してシゲンがどの程度の対抗が出来るか、その一回目の時に判断を下そうとゲンロクは考えたようである。
「……」
シゲンはゲンロクの言葉の真意を確かめようとするが、裏などは何も無く本当にこの世界の事を考えての言動の様子であった。組織間の駆け引きなどではなく、真剣に町に生きる者達の事を考えて、シゲン達と共に山の禁止区域へと入ろうというのだろう。
「分かった、ゲンロク殿。我々が禁止区域に入る時は、真っ先に貴方に話をすると約束しよう」
ゲンロクはその言葉を聞いて、神妙に頷くのだった。
「それでは、二つ目の条件とは?」
「うむ、もう一つの条件は山や禁止区域とは関係がなく、我々の『妖魔召士』の問題なのだが、後継を立てる間はワシを『妖魔召士』の長のままで居させて欲しいのだ」
どうやら前回の会合の終わりにシゲンが、弱腰で何も言葉を出せない様子のゲンロクに対して発破をかける為に告げた条件の事のようであった。
「本当に情けない事だが今ワシが『妖魔召士』の座を降りれば『妖魔召士』を束ねる者が居なくなってしまい組織が空中分解してしまう。頼むシゲン殿! 本当に後継を立てるまでの間だけでいいのだ。決まれば直ぐにワシは引退でも隠居でもする。嘘や偽りがないと約束する……。この通りだ、頼むシゲン殿!」
――『妖魔召士』の長であるゲンロクは、畳の上に頭をつけて対立する組織の長に対して土下座をするのだった。
「「げ、ゲンロク様……!!」」
その場に居る『妖魔召士』達は、ゲンロクの土下座に驚きの声をあげる。シゲンもまた眉を寄せて険しい表情になった。彼がまだ『妖魔退魔師』の長となる前、既に第一線で活躍を見せていた、あのゲンロクという『妖魔召士』が、自分にこうして土下座をしている。
ミスズはその様子を冷静に見ながら何かを考えている。そしてヒノエは片膝をついてどこか悔しそうな表情を浮かべてそっぽを向いた。
ちらりとシゲンはミスズの方を見ると、ミスズはシゲンが視線を向ける前からもうシゲンが自分を見て来るだろうと予測していたようでシゲンとぴったりと視線が合うのだった。
だが、二人は互いに視線を交わし合うだけで会話を行う事はしない。やがてシゲンは自分から視線を切ると、再び下げ続けているゲンロクの方を見た。
「頭をあげてくれ、ゲンロク殿。次の『妖魔召士』の長が決まるまでは、そのまま暫定の長を続けるがいい」
「ほ、本当か! 恩に着るぞ、シゲン殿!」
頭を下げたまま両手を地に手を付けた状態で感謝を告げるゲンロクだった。
「だがこれだけは、肝に銘じておいてくれ。今後の貴方は今日までのような『暫定の長』という立場ですらない。あくまで次の代の長が決まるまでの『妖魔召士』の長の補佐役だ。そして長の役回りを伸ばすような。つまり次の代の長を決める事に必要以上に時間を掛けるような真似をすれば、いつでも我々は行動に出させてもらう」
「分かっている。直ぐに次の長を見極めて代替わりを約束する」
「では、今回の一件はこれで終わりだ。今後『妖魔山』は我々『妖魔退魔師』側が管理を受け持つ。それでいいな?」
「ああ、この会合が始まるまで長であったワシが認め……」
――それは少しそれは待ってもらおうか!!
ゲンロクがシゲンの言葉に同意しようとしたが、その言葉を言い切る前にゲンロク達の居る部屋の扉が開かれて、待ったをかける声が聞こえてくるのだった。
先日と同じ言葉を席に着いたシゲン達に向けて『妖魔召士』の長であるゲンロクが告げた。
しかし明確に前回と違って数年は年老いたように疲弊しきった表情だった。どうやら彼は与えられた時間を必死に考える事に使ったようである。
「ではゲンロク殿、答えを聞かせてもらおうか?」
もう今回は長々と話をするつもりがないのか総長のシゲンは席に着くなり、ゲンロクに結論を聞かせてくれと口にする。
「その事だがシゲン殿『妖魔山』の管理はそちらに任せる代わりに、二つ程条件をつけさせて欲しい」
どうやら一睡もしていなかったのか、ゲンロクは血走った目を真っすぐに『妖魔退魔師』総長シゲンに合わせながら告げるのだった。
「……」
シゲンは腕を組んだまま何も言葉を発する事なく、必死の形相のゲンロクに目を合わせる。前回とは違って今のゲンロクの目からは決死の覚悟を感じられる。どうやら平和ボケで錆付いていた矜持などが取り払われて前時代の『妖魔召士』達と同じ威圧感を放っていた。
その目を見たシゲンはようやく本気になったかと内心で満足そうにするのだった。
「条件? そんな物に応じる必要はこちらには……」
「いいだろう。ゲンロク殿、ではその条件とやらを聞かせてもらおうか?」
条件をつけようとするゲンロクに副総長のミスズが却下しようとするが、シゲンがミスズに手で制するとミスズはそのまま言葉を呑み込み押し黙る。
「まず、妖魔山の管理を渡すにあたって禁止区域へ入る時はこのワシも同行させて欲しい。最奥の禁止区域をシゲン殿達が入る時、その様子をワシに見せて欲しいのだ」
どうやらこれは『禁止区域』の妖魔に対してシゲンがどの程度の対抗が出来るか、その一回目の時に判断を下そうとゲンロクは考えたようである。
「……」
シゲンはゲンロクの言葉の真意を確かめようとするが、裏などは何も無く本当にこの世界の事を考えての言動の様子であった。組織間の駆け引きなどではなく、真剣に町に生きる者達の事を考えて、シゲン達と共に山の禁止区域へと入ろうというのだろう。
「分かった、ゲンロク殿。我々が禁止区域に入る時は、真っ先に貴方に話をすると約束しよう」
ゲンロクはその言葉を聞いて、神妙に頷くのだった。
「それでは、二つ目の条件とは?」
「うむ、もう一つの条件は山や禁止区域とは関係がなく、我々の『妖魔召士』の問題なのだが、後継を立てる間はワシを『妖魔召士』の長のままで居させて欲しいのだ」
どうやら前回の会合の終わりにシゲンが、弱腰で何も言葉を出せない様子のゲンロクに対して発破をかける為に告げた条件の事のようであった。
「本当に情けない事だが今ワシが『妖魔召士』の座を降りれば『妖魔召士』を束ねる者が居なくなってしまい組織が空中分解してしまう。頼むシゲン殿! 本当に後継を立てるまでの間だけでいいのだ。決まれば直ぐにワシは引退でも隠居でもする。嘘や偽りがないと約束する……。この通りだ、頼むシゲン殿!」
――『妖魔召士』の長であるゲンロクは、畳の上に頭をつけて対立する組織の長に対して土下座をするのだった。
「「げ、ゲンロク様……!!」」
その場に居る『妖魔召士』達は、ゲンロクの土下座に驚きの声をあげる。シゲンもまた眉を寄せて険しい表情になった。彼がまだ『妖魔退魔師』の長となる前、既に第一線で活躍を見せていた、あのゲンロクという『妖魔召士』が、自分にこうして土下座をしている。
ミスズはその様子を冷静に見ながら何かを考えている。そしてヒノエは片膝をついてどこか悔しそうな表情を浮かべてそっぽを向いた。
ちらりとシゲンはミスズの方を見ると、ミスズはシゲンが視線を向ける前からもうシゲンが自分を見て来るだろうと予測していたようでシゲンとぴったりと視線が合うのだった。
だが、二人は互いに視線を交わし合うだけで会話を行う事はしない。やがてシゲンは自分から視線を切ると、再び下げ続けているゲンロクの方を見た。
「頭をあげてくれ、ゲンロク殿。次の『妖魔召士』の長が決まるまでは、そのまま暫定の長を続けるがいい」
「ほ、本当か! 恩に着るぞ、シゲン殿!」
頭を下げたまま両手を地に手を付けた状態で感謝を告げるゲンロクだった。
「だがこれだけは、肝に銘じておいてくれ。今後の貴方は今日までのような『暫定の長』という立場ですらない。あくまで次の代の長が決まるまでの『妖魔召士』の長の補佐役だ。そして長の役回りを伸ばすような。つまり次の代の長を決める事に必要以上に時間を掛けるような真似をすれば、いつでも我々は行動に出させてもらう」
「分かっている。直ぐに次の長を見極めて代替わりを約束する」
「では、今回の一件はこれで終わりだ。今後『妖魔山』は我々『妖魔退魔師』側が管理を受け持つ。それでいいな?」
「ああ、この会合が始まるまで長であったワシが認め……」
――それは少しそれは待ってもらおうか!!
ゲンロクがシゲンの言葉に同意しようとしたが、その言葉を言い切る前にゲンロク達の居る部屋の扉が開かれて、待ったをかける声が聞こえてくるのだった。
0
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる