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サカダイ編

1096.堪えるコウゾウ

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「私は確かに抵抗をするならばお主達に手を出していいとは言ったが、この中に居るのは『予備群よびぐん』達だけなのだろう? 『妖魔召士ようましょうし』のお主であれば『予備群よびぐん達などどうでもなるだろうに『王連おうれん』まで呼び出すとは些かやりすぎではないのか『ジンゼン』」

 天狗の妖魔と憎まれ口を叩き合っていた『妖魔召士ようましょうし』は、どうやら名を『』というらしい。

 ヒュウガはそのジンゼンという男に対して『式』を使役するのは、少々過剰すぎるのでは無いかと告げるのだった。

「そ、それがヒュウガ様、聞いて下さい! この屯所には少々が施されておるようでして、私らが捉術に魔力を施そうとするとその魔力が消えてしまうようで、それで仕方なく『式』を使ってようやくこの者達の鎮圧が出来たのですよ」

「何ですって? 魔力が消えるとは一体どういう事か分からないのですが……。里に展開しているような私達の扱う結界とは違うモノなのですか?』

「それが……。全く違いますね。我ら『妖魔召士ようましょうし』の結界では、相手の『捉術そくじゅつ』をはじく効果ですが、この建物内に施されてあった結界はその『捉術そくじゅつ』を使う前の段階で生み出した魔力そのものが消失するような、経験のない感覚を覚えました」

 ジンゼンの話を聞いていたヒュウガだが、そんな結界の存在は長く『妖魔召士ようましょうし』として生きてきた彼であっても、見たことも聞いたこともない話であった。

「そうですか……。まぁそれは後々調べるとしてそんな事よりキネツグ達はどうしたのですか? 『予備群よびぐん』達は倒したのでしたら、そのままここに連れて来ればいいではないですか』

「それが恥ずかしながら建物内の一階も二階の方も全員で調べたのですが、彼奴きゃつらを見つけるどころか、その捕らえられている場所すら見つけられなかったもので、こいつに場所を吐かせようと痛めつけたのですが、一切口を割らなかったものでして……。一度ヒュウガ様の元へ、こやつを連れてきたわけです」

 そう言ってジンゼンは、倒れ伏せた事でうつ伏せになっていたシグレを足で仰向けにさせながら、ヒュウガに説明を行った。

(シグレ!!)

 どうやら相当に痛めつけられたのだろう。シグレの顔はぱんぱんに腫れあがり、更には至るところにアザや傷が目立っていた。

「これはこれは……。まだ子供なのに可哀想な事をするではありませんか」

 意識を失っているシグレの頬を撫でると、ヒュウガは溜息を吐いて『王連おうれん』の顔を見る。

「言っておくが儂はこの人間の命令で手を出したに過ぎぬ。そんな目で儂を非難するように見られても困るぞ」

 『王連おうれん』と呼ばれていた妖魔はヒュウガに睨まれると、責任はジンゼンという男にあるとばかりに告げるのだった。

「まぁいいでしょう。キネツグ達の居場所は直接彼から聞く事にしましょうか」

 そう言ってヒュウガは、はらわたが煮えくり返る程の怒りを露にしている『コウゾウ』に視線を向けてそう告げるのであった。

「そろそろ口を開いたらどうですか? どうやら部下達がやられて相当に苛立っているようですが、我々とて手荒な真似が目的でここに来たわけではありません。何度も言っていますが、貴方達が捕らえたキネツグ達……『妖魔召士ようましょうし』の二人を返してもらいたいだけなのですよ」

 右手の親指と薬指で眼鏡を上げながら、沈黙を貫いているコウゾウに向けて話し掛ける。

「……」

 コウゾウはそう告げられても睨むような視線を彼らに向けるだけで一切会話をしなかった『妖魔退魔師ようまたいまし』に属する『予備群よびぐん』として、今『妖魔召士ようましょうし』と揉めているであろう状態で、その原因を作った『妖魔召士ようましょうし』を逃すわけにもいかないという意味もあるが、コウゾウはそれ以上にシグレや他の者達が、ここまで痛い目にあわされながらもその場所を言わなかったという事に誇りを持ち、彼女たち部下の気持ちを蔑ろにしない為にもこの場でたとえ殺されたとしても地下の事は口にするつもりはない様子であった。

「やれやれ『予備群よびぐん』とやらも非常に頑固な連中ですねぇ」

 ヒュウガはちらりと後ろに立っていた『妖魔召士ようましょうし』の者達の方を見た後、倒れ伏しているシグレの体を起こすようにと視線で合図を送る。

 慌てて他の『妖魔召士ようましょうし』達は、ヒュウガの元まで走って来ると、ヒュウガの思惑通りに、気を失っているシグレの両脇を持って立たせた。

「待てっ……! 何をするつもりだ貴様!」

 今まで何を言っても返事すら碌にしなかったコウゾウが『予備群よびぐん』の女性を立たせただけで、目の色を変えて反応を示す。それを見たヒュウガは、自分の思惑通りだとばかりにニヤリと笑うと再びコウゾウに交渉を持ちかける為に、その口を開くのであった。

 ……
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