最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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サカダイ編

1071.唐突な視線と、少しの変化

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(数人に絞って視線で試しただけだというのに、我の魔力を咄嗟に反応してこれだけの者が一斉に我の視線に対する行動をとれるのか。魔族であれば間違いなく、大魔王領域に達する者達と同規模レベルの基本研鑽演義を修めておる証拠だ)

 戦ってもいないというのに、僅かな間にソフィはこの町に居る者達の力量をある程度把握し始めるのだった。そしてこのソフィ達を取り囲んでいる者達の一人一人が『アレルバレル』の世界にある『魔界』に居る大魔王と遜色のないひりつく感覚を肌で感じる。

「ちょっと、何してるの君たち?」

 ソフィ達の先を歩いていたスオウとサシャが背後を振り返り、ソフィ達を取り囲んでいる者達に口を開いた。

「スオウ組長、そこの者達は何者でしょうか?」

 口を開いたのは先程ソフィが目をつけた、町の右奥に居た人間であった。

「それを今から本部で詳しく聞こうと思って彼らについて来てもらっていたんだよ。俺達と一緒に歩いているんだから、そんな殺気を彼らに向けないでくれる? 誰でもそんな風に睨まれたら、反応をするに決まってるじゃん」

 小柄な少年がブツクサと彼らを窘めるように言葉を吐き出すと囲んでいた者達は、腰鞘から手を離してスオウに深々と頭を下げるのだった。

「君も挑発するような視線を返すのはやめてね。こいつらも町の護衛が仕事だから、君みたいな危ない人が居たら身体が反応しちゃうのも無理がないんだからね?」

 どうやらソフィの魔力を込めた視線をこのスオウという少年も気づいていたのだろう。気づいて尚堂々と背中を向けていたというのだから大した物である。

「クックック……! すまぬな、少しばかり興が湧いてしまったのだ」

 そう言ってソフィが笑みを浮かべると、スオウとサシャは顔を合わせ始めた。

「まぁ君たちの事もあとでじっくり本部で聞かせてもらうよ。あと、お前達もご苦労だった、例の『妖魔召士ようましょうし』の件も後はこっちで何とかするから、いつも通りの仕事に戻っていいよ」

「分かりました……」

 異彩を放っていた男がスオウと言う少年に言葉を返すと、ソフィ達を取り囲んでいた男たちからも殺気が完全に消えた。

「協力してくれて感謝するよ。でも

 舌をぺろりと出しながら片目を瞑って謝罪をするスオウに、男は苦笑いを浮かべた後、首を縦に振って頷くのであった。

 護衛の男たちから殺気を感じなくなった後、ソフィがスオウと護衛が喋っているところを見ていると横からヌーに声を掛けられるのだった。

「おいソフィ……。てめぇ少しはコイツの事も考えてやれよ」

 ヌーはそう言って横で護衛達の殺気にあてられて、胸に圧迫感を覚えた様子で苦しんでいる『セルバス』の肩に手を回した。

「てめぇが余計な視線を奴らに送った所為で警告程度だった視線が、完全に殺気に変わっちまった事でこいつもう死にかけてんじゃねえか。セルバスは『代替身体だいたいしんたい』の身なんだぞ? もう少しソフィ」

「むっ……。すまぬなセルバス。つい、あやつの力量を見極めてみたくなってしまったのだ」

 確かにヌーの言う通りだったとばかりにソフィは、セルバスに謝罪をしながら先程の事を反省するのであった。

「き、気にしないで下さい旦那!」

 ようやく一息ついた様子のセルバスは、謝罪をするソフィに慌てて返事をするのであった。そしてそんなやり取りを行っているとソフィ達に声が掛けられる。

「おーい! 君たちごめんね。とりあえず色々聞きたい事があるから本部の方へ君たちにもついて来て欲しいんだけど。構わないかい?」

 どうやら護衛達との話は済んだようでスオウはソフィ達に、本部までついて来て欲しいと告げて来るのであった。ソフィがヌーやテア。それにセルバス達に視線を向けると、皆一様に頷きを返して来た為にソフィもスオウに了承するように頷くのであった。

 …………

 ソフィはスオウ達の後をついていきながらも先程のヌーの言葉を思い返していた。

(クックック! まさかヌーの奴にと注意をされるとはな。この世界に来る前とは随分と変わったものだ)

 少しずつだがヌーが良い方向へと成長をしている事を実感し、ソフィは我が子を想うような親の気持ちになってニコニコと笑みを浮かべるのだった。
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