上 下
1,063 / 1,915
サカダイ編

1047.説教と感謝

しおりを挟む
 セルバスが追加の酒を持って屯所へ戻ってきたが、直ぐにシグレに捕まり説教をされていた。
 セルバスが『魔瞳まどう』で男に出した命令は、旅籠に居る大勢の者達に迷惑をかけたのだと告げられたセルバスは、苦笑いを浮かべて謝罪していた。そして決して少なくはない時間のシグレの説教からようやく解放されたセルバスは、ソフィ達の居る部屋へと戻って来るのだった。

「クックック! お主も災難だったようだな」

「は、はい……。あ、これ、遅れてすいませんね」

 そう言ってソフィ達に追加の酒を差し出したセルバスだった。

「さっき外で叫んでた野郎は何だったんだ?」

 テアと楽しく食事をしていたヌーがセルバスに疑問をぶつけると、セルバスは少しだけ憂いだ表情を見せた。

 どうやら酒を取りに行く途中に考えていた事が再び頭を過ったのだろう。やがてセルバスは、その思いを吹っ切るように口を開き始めた。

「あいつは俺と同じ『煌鴟梟こうしきょう』の残党だったんだが、どうやら俺に対して恨みを持っていたようでな……。そんな俺だけが捕まらずに『予備群よびぐん』の彼女と歩いているのを見て、裏切者といって襲ってきやがったんだ」

「あー。そういう事かよ」

 組織に属している以上はある程度の同調行動の共有を求められる。セルバスを襲ってきた男のように直接行動を起こす者も居れば、皆と足並み揃えない者に対して表立っては何も言わないが、裏で陰口を叩いたり、組織内で仲間外れを促進させて組織に居づらくさせる者も居る。

 これは色々な思惑が交差する『組織』に属している以上、ある程度は仕方が無い事ではある。
 だが、襲ってきた男もこれまで、捕らえられていなかったのだから、少しばかりヌーが思っている事以外でセルバスに対して恨みがあったのかもしれない。

 しかしそうだとしても『煌鴟梟こうしきょう』の組員の多くはただの人間である為、セルバス程の魔族であれば何も問題はなかったはずである。つまり屯所へ向かわせるだけでよかったところを『セルバス』はやりすぎてしまったという結果にやはり行き着くのだった。

「セルバスよ。今我達はコウゾウ殿の屯所で世話になっている身だ。こんな夜分遅くに大声で騒いでいる者を捕らえるのはここの護衛達だという事。も大事だとは思わぬか?」

 旅籠に泊まっている者達は夜にいきなり起こされて不満を持っただろう。そしてその不満は少なからず捕らえる側の護衛隊たちに向く。叫んだ張本人が一番悪いのだが、捕らえられてしまった後は、苦情を告げた者達には、その男の顔も見る事は出来ないのである。

 もっと早く捕らえろとか、普段から治安が悪いからこうなるとか。そう言った苦情の向く矛先は『予備群よびぐん』の屯所になってしまうのである。

 ソフィはセルバスに世話になっている者達には迷惑を掛けるなと、少し考えて行動するようにとやんわりと説明したのであった。

「はぁ……。よく分かんねぇけど旦那が言うなら……。すんません」

 しかしヌーと同じようにこれ程まで好き勝手に生きて来たセルバスには、ソフィのが、であった。

 ソフィはセルバスの返事に溜息を吐いたが、分かってくれればいいと頷くのだった。

「ふふっ」

 ソフィがセルバスに説教をしていると、隣に居たエイジが笑みを浮かべた。

「むっ?」

「いや、ソフィ殿達のやり取りを見ていて少しな。かつて小生も似たような過去があった事を思い出したモノでな。何処にも同じような事はあるものだ」

 どうやらエイジも過去の『妖魔召士ようましょうし』の組織内で言う事を聞かないモノに対して、今のセルバスと同じような説教を行った過去があるのだろう。

「クックック。そうか」

「まぁ、いいじゃねぇか。こうしてコイツは酒を持ってきてくれたんだしよ」

 ヌーはそう言ってセルバスの肩をバンバンと叩きながら彼の運んできた酒を岡持ちから取り出して、自分の酒の入った容器に注いでいく。

「うむ、そうだな。セルバスよ、気を利かして追加の酒を取ってきてくれて感謝するぞ?」

 酒の入ったコップを軽くあげながら、セルバスに笑みを向けて褒めてくれたソフィを見て、セルバスは落ち込んでいた表情から徐々に笑顔に向かっていき、最後にはニコニコと笑いながら自分も酒を注いでいた。

(ソフィ殿は、不思議な方だな。あれだけの力を持っているというのに、一切偉ぶらずにまるで自分は仲間内の中でも、どこか一歩退いて物事を考えている節がある。そうだと言うのに、いつの間にかその場に居る者達はそんなソフィ殿に引き寄せられていく)

 まるで自分の師であったサイヨウ様のようだと、心の中で呟くエイジであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...