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サカダイ編
1038.地獄の一丁目
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「それでは、直ぐに戻って参りますので」
そう言って踵を返したシグレが再び戸に手を掛けるが、その背を向けたシグレのうなじに目を吸い寄せられたセルバスは慌ててその後ろ姿に声を掛けた。
「あ、い、いや、ま、待て! お、お前もあれだけの怪我をしていたんだから無理はするな。俺達が自分で呑む酒くらい自分で運ぶ。だから……、一緒に行くから場所を教えてくれ!」
シグレは再びきょとんとした表情を浮かべたが、食い下がるセルバスに根負けをしてその優しい言葉に、お願いしますとばかりに頭を下げるのだった。
…………
その頃一足先に屯所の執務室に戻ってきていたコウゾウだが、机に突っ伏したかと思えば、そのまま溜息を吐いていた。
彼はソフィやヌー達の酒のペースについていけず、休憩だと告げて数人の『予備群』の部下達を連れて屯所の執務室へと戻ってきていたのである。
「ふぅっ、やはり俺は酒が弱いな。ソフィ達殿と同じペースで酒を呑んでいたら潰されちまうよ」
他の部下達も同じ気持ちだったのだろう。コウゾウの言葉を聞いて、同意をするように笑みを浮かべるのだった。
「それで例の彼らは大人しくしているのか?」
声のトーンが変わったのを確認した部下達は、コウゾウの言葉にこくりと頷く。
「『煌鴟梟』の連中とは、別の牢室に入れている例の二人ですが、女の方が目を覚まして直ぐに我々の前で『妖魔召士』の『捉術』を使おうとしたようですが、その効力は確認出来ませんでした。どうやらソフィ殿が仰っていた通りの結果になったようです」
コウゾウが言った彼らというのは、地下に居る『妖魔召士』達の事であった。この屯所で酒宴が開かれる前に『煌鴟梟』のアジトで捕えた者達を例の地下にある牢室へ運び入れたのだが、人攫い集団の方は普段通りの拘束で十分だと判断したのだが『妖魔召士』である『チアキ』と『キネツグ』の両名だけは通常通りの捕縛だけでは安心が出来ず、コウゾウ達は扱いに悩んでいたのだった。
現在はソフィとエイジの手によって気絶させられて大人しく寝ているが、問題はソフィ達がこの屯所を去って『サカダイ』へと向かった後の事であった。
ソフィ殿に届けてもらう書簡が『妖魔退魔師』のミスズ副総長に渡るまで『旅籠町』に居る『予備群』達だけで捕えた者達の面倒をみなければならない。
サカダイから派遣されてきた『予備群』は誰であっても、全員がランク『3』から『3.5』の妖魔を相手に出来る者達であるが『妖魔召士』が相手となれば、いくら手足を縛ったところで安心など出来ない。
『妖魔召士』達の手や足を縛り『魔瞳』を使わせないよう目隠しをしたとしても魔力があれば、独自の結界を張ったり『捉術』は扱えるのである。
首を落として即座に殺すという話であれば、捕えた時点で『予備群』達でも可能だが、牢室に一定期間の身柄を拘束するという事であれば、また話は変わって来るのである。
しかしその事にコウゾウ達が悩んでいたところに『我が結界を張ろうか』とソフィが何でも無い事のようにそう提案をしてくれたのである。
そして現在は地下だけではなく、この屯所全体にソフィの『結界』が張られている状況である。
ソフィ殿が言うにはこの結界内では今後、魔法という物や魔力を使って行う全ての行為が制限されて使えばその者の魔力を吸い上げて、即座に枯渇させるという物らしい。
『予備群』は元々魔力が少なく、もし有ったとしても『妖魔退魔師』や『妖魔召士』達のような捉術を使えない為、いくら屯所内に結界を張られたところでこれまでと何ら変わりはないが、どうやら今の部下の言葉を聞いて本当に彼ら魔力を扱う者達によっては、この屯所は地獄と化したようである。
エイジ殿曰く『妖魔召士』にも同じような『捉術』が存在するが、そちらは対象者が目の前に居る状態で直接発動させなければ、相手の魔力を奪う事が出来ないようで、ソフィ殿のように、結界として常時に発動させ続ける事はエイジ殿達でも不可能であるという。
『妖魔召士』達の使う『結界』にしても、上位の『妖魔召士』であれば、相手の魔力を用いた術に対して無効化をさせる事は可能ではあるが、無効化させた相手の魔力を吸い取るような恐ろしい真似は出来ないという。
「術や魔法とやらを無効化させた挙句、更に同じ事をさせないように、相手から魔力を奪う『結界』か。ここはまるで『地獄の一丁目』だな」
「はははっ! 術を無効化させる事で一丁目。魔力を奪う事で二丁目へと続いていく。つまり隊長が言いたい事は、この屯所の地下から更に地獄へと続いて行くという事を言いたいのでしょう?」
「いや、笑い事でもないんだが『妖魔召士』の方々程の魔力を封じる程の『結界』それもどちらの組織にも属していない個人の力だぞ? ソフィ殿もヌー殿も一体何者なのであろうな」
「絶対に敵に回したくはない方々達ですよね……」
コウゾウも部下達も互いに顔を見合わせるが、それ以上の言葉が出せず、執務室は静寂に包まれるのであった。
……
……
……
そう言って踵を返したシグレが再び戸に手を掛けるが、その背を向けたシグレのうなじに目を吸い寄せられたセルバスは慌ててその後ろ姿に声を掛けた。
「あ、い、いや、ま、待て! お、お前もあれだけの怪我をしていたんだから無理はするな。俺達が自分で呑む酒くらい自分で運ぶ。だから……、一緒に行くから場所を教えてくれ!」
シグレは再びきょとんとした表情を浮かべたが、食い下がるセルバスに根負けをしてその優しい言葉に、お願いしますとばかりに頭を下げるのだった。
…………
その頃一足先に屯所の執務室に戻ってきていたコウゾウだが、机に突っ伏したかと思えば、そのまま溜息を吐いていた。
彼はソフィやヌー達の酒のペースについていけず、休憩だと告げて数人の『予備群』の部下達を連れて屯所の執務室へと戻ってきていたのである。
「ふぅっ、やはり俺は酒が弱いな。ソフィ達殿と同じペースで酒を呑んでいたら潰されちまうよ」
他の部下達も同じ気持ちだったのだろう。コウゾウの言葉を聞いて、同意をするように笑みを浮かべるのだった。
「それで例の彼らは大人しくしているのか?」
声のトーンが変わったのを確認した部下達は、コウゾウの言葉にこくりと頷く。
「『煌鴟梟』の連中とは、別の牢室に入れている例の二人ですが、女の方が目を覚まして直ぐに我々の前で『妖魔召士』の『捉術』を使おうとしたようですが、その効力は確認出来ませんでした。どうやらソフィ殿が仰っていた通りの結果になったようです」
コウゾウが言った彼らというのは、地下に居る『妖魔召士』達の事であった。この屯所で酒宴が開かれる前に『煌鴟梟』のアジトで捕えた者達を例の地下にある牢室へ運び入れたのだが、人攫い集団の方は普段通りの拘束で十分だと判断したのだが『妖魔召士』である『チアキ』と『キネツグ』の両名だけは通常通りの捕縛だけでは安心が出来ず、コウゾウ達は扱いに悩んでいたのだった。
現在はソフィとエイジの手によって気絶させられて大人しく寝ているが、問題はソフィ達がこの屯所を去って『サカダイ』へと向かった後の事であった。
ソフィ殿に届けてもらう書簡が『妖魔退魔師』のミスズ副総長に渡るまで『旅籠町』に居る『予備群』達だけで捕えた者達の面倒をみなければならない。
サカダイから派遣されてきた『予備群』は誰であっても、全員がランク『3』から『3.5』の妖魔を相手に出来る者達であるが『妖魔召士』が相手となれば、いくら手足を縛ったところで安心など出来ない。
『妖魔召士』達の手や足を縛り『魔瞳』を使わせないよう目隠しをしたとしても魔力があれば、独自の結界を張ったり『捉術』は扱えるのである。
首を落として即座に殺すという話であれば、捕えた時点で『予備群』達でも可能だが、牢室に一定期間の身柄を拘束するという事であれば、また話は変わって来るのである。
しかしその事にコウゾウ達が悩んでいたところに『我が結界を張ろうか』とソフィが何でも無い事のようにそう提案をしてくれたのである。
そして現在は地下だけではなく、この屯所全体にソフィの『結界』が張られている状況である。
ソフィ殿が言うにはこの結界内では今後、魔法という物や魔力を使って行う全ての行為が制限されて使えばその者の魔力を吸い上げて、即座に枯渇させるという物らしい。
『予備群』は元々魔力が少なく、もし有ったとしても『妖魔退魔師』や『妖魔召士』達のような捉術を使えない為、いくら屯所内に結界を張られたところでこれまでと何ら変わりはないが、どうやら今の部下の言葉を聞いて本当に彼ら魔力を扱う者達によっては、この屯所は地獄と化したようである。
エイジ殿曰く『妖魔召士』にも同じような『捉術』が存在するが、そちらは対象者が目の前に居る状態で直接発動させなければ、相手の魔力を奪う事が出来ないようで、ソフィ殿のように、結界として常時に発動させ続ける事はエイジ殿達でも不可能であるという。
『妖魔召士』達の使う『結界』にしても、上位の『妖魔召士』であれば、相手の魔力を用いた術に対して無効化をさせる事は可能ではあるが、無効化させた相手の魔力を吸い取るような恐ろしい真似は出来ないという。
「術や魔法とやらを無効化させた挙句、更に同じ事をさせないように、相手から魔力を奪う『結界』か。ここはまるで『地獄の一丁目』だな」
「はははっ! 術を無効化させる事で一丁目。魔力を奪う事で二丁目へと続いていく。つまり隊長が言いたい事は、この屯所の地下から更に地獄へと続いて行くという事を言いたいのでしょう?」
「いや、笑い事でもないんだが『妖魔召士』の方々程の魔力を封じる程の『結界』それもどちらの組織にも属していない個人の力だぞ? ソフィ殿もヌー殿も一体何者なのであろうな」
「絶対に敵に回したくはない方々達ですよね……」
コウゾウも部下達も互いに顔を見合わせるが、それ以上の言葉が出せず、執務室は静寂に包まれるのであった。
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