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サカダイ編
1037.さりげない色気
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「おっとソフィさん! アンタもう酒がないじゃないか」
「む?」
『煌聖の教団』の総帥であったミラの事を考えていたソフィは、セルバスの言葉で意識を戻された。
「俺も残り少ないし、ちょっとコウゾウ殿に追加で貰ってきますよ」
そう言って立ち上がろうとしたセルバスに、別の場所から声があがった。
「セルバス、こっちも追加もってこいや」
セルバスに声を掛けてきた人物は『死神』の女に世話を焼いて、魚の身をほぐしてやっていたヌーであった。
「ちっ! 仕方ねぇな。分かった分かった」
今度こそセルバスは立ち上がると、コウゾウの居る場所へ酒の追加を頼みに向かった。酒宴が開かれた後、少しの間は一緒に呑んでいたコウゾウだったが『予備群』の部下達に呼び出された後、そのまま戻って来なかったのである。
「何かあれば呼んでくれと言っていた『コウゾウ』殿が居る部屋はどの部屋だったかな……?」
相当に酔いが回っているセルバスは、独り言を言いながら屯所の一階の廊下をウロウロ歩き始める。そしてセルバスの視界の先から、一人の見慣れた女性が歩いてくるのが見えた。
「げっ」
セルバスは廊下の先、目の前から歩いてくる女性を見て反射的に嫌そうな声をあげた。
「あら、こんな所におひとりで。厠をお探しですか?」
にこにこと笑みを浮かべながらセルバスに話掛けて来た女性は、この旅籠の護衛隊の副隊長を務めているシグレであった。
この護衛隊の女性には『煌鴟梟』のアジトでのトラウマがあり、セルバスは苦手意識を持っている様子であった。
「あ、いや……! ヌー達の呑むペースが早くてな。酒が切れそうだから追加を頼もうと思って……」
「そうでしたか。皆さんお酒がお強いですねぇ。ではお部屋でお待ちください、直ぐに追加をご用意しますので」
「ああ。頼むよ」
「はーい」
返事をしたシグレはそのまま来た道を戻っていくが、そのまま屯所の玄関先まで行くと外履きに履き替え始める。
「え?」
突然の行動に様子を見守っていたセルバスは、慌てて追いかけていき声を掛けた。
「あ、アンタ。何で外に出て行くんだ?」
靴を履き替えていたシグレは後を追って声を掛けて来たセルバスの方を見ると、先程と変わらぬ笑みを浮かべて口を開いた。
「あらぁ? お酒の追加が必要との事でしたので、酒場から追加分を貰ってこようとおもいまして」
「あ、そりゃそうか……」
シグレにそう言われてようやく、ここが何処であったかを思い出すセルバスであった。
屯所内の建物が旅館そのものであった為に失念していたセルバスだが、ここはあくまで犯罪者を取り締まる護衛隊の屯所の中であり、本来は酒盛りをする会場でも酒場でも無い。
あれだけの量の酒を一気に呑み干してしまえば、この場での在庫がなくなり、取りに行かなくてはならなくなるのは当然の事だろう。
「お待たせしてすみませんが、直ぐにとってまいりますので」
ニコニコと変わらぬ笑みを浮かべながらセルバスに説明をすると、玄関口の戸に手を掛けるシグレだった。
「あ、いやすまねぇな……。旅籠の酒場は裏通りにあるんだったな?」
セルバスの言葉にきょとんとしていたシグレだったが、先程とはまた違う種類の笑みを浮かべた。どうやらセルバスは、外に追加を取りに行こうとするシグレに申し訳ない気持ちを抱いて、自分も付き合おうとしてくれているのだと聡い彼女は直ぐに気づいたようである。
「うふふ、セルバスさん、お気遣いなく。人攫い集団の一件を片付けて頂いた功労者を働かせるわけにはいきませんからね」
シグレは髪の毛を耳にかけながら、にこりとセルバスに微笑みかける。その笑顔を見たセルバスは、どきりとした。
『煌鴟梟』のアジトでは逃げようとしていたセルバスに対して、逃させまいと釘を刺すように口出ししてきていたシグレに、苦手意識をもっていたセルバスだったが、今のおっとりとしたシグレのほんわかした姿から垣間見える色気とのギャップに、強く意識をさせられたセルバスであった。
「む?」
『煌聖の教団』の総帥であったミラの事を考えていたソフィは、セルバスの言葉で意識を戻された。
「俺も残り少ないし、ちょっとコウゾウ殿に追加で貰ってきますよ」
そう言って立ち上がろうとしたセルバスに、別の場所から声があがった。
「セルバス、こっちも追加もってこいや」
セルバスに声を掛けてきた人物は『死神』の女に世話を焼いて、魚の身をほぐしてやっていたヌーであった。
「ちっ! 仕方ねぇな。分かった分かった」
今度こそセルバスは立ち上がると、コウゾウの居る場所へ酒の追加を頼みに向かった。酒宴が開かれた後、少しの間は一緒に呑んでいたコウゾウだったが『予備群』の部下達に呼び出された後、そのまま戻って来なかったのである。
「何かあれば呼んでくれと言っていた『コウゾウ』殿が居る部屋はどの部屋だったかな……?」
相当に酔いが回っているセルバスは、独り言を言いながら屯所の一階の廊下をウロウロ歩き始める。そしてセルバスの視界の先から、一人の見慣れた女性が歩いてくるのが見えた。
「げっ」
セルバスは廊下の先、目の前から歩いてくる女性を見て反射的に嫌そうな声をあげた。
「あら、こんな所におひとりで。厠をお探しですか?」
にこにこと笑みを浮かべながらセルバスに話掛けて来た女性は、この旅籠の護衛隊の副隊長を務めているシグレであった。
この護衛隊の女性には『煌鴟梟』のアジトでのトラウマがあり、セルバスは苦手意識を持っている様子であった。
「あ、いや……! ヌー達の呑むペースが早くてな。酒が切れそうだから追加を頼もうと思って……」
「そうでしたか。皆さんお酒がお強いですねぇ。ではお部屋でお待ちください、直ぐに追加をご用意しますので」
「ああ。頼むよ」
「はーい」
返事をしたシグレはそのまま来た道を戻っていくが、そのまま屯所の玄関先まで行くと外履きに履き替え始める。
「え?」
突然の行動に様子を見守っていたセルバスは、慌てて追いかけていき声を掛けた。
「あ、アンタ。何で外に出て行くんだ?」
靴を履き替えていたシグレは後を追って声を掛けて来たセルバスの方を見ると、先程と変わらぬ笑みを浮かべて口を開いた。
「あらぁ? お酒の追加が必要との事でしたので、酒場から追加分を貰ってこようとおもいまして」
「あ、そりゃそうか……」
シグレにそう言われてようやく、ここが何処であったかを思い出すセルバスであった。
屯所内の建物が旅館そのものであった為に失念していたセルバスだが、ここはあくまで犯罪者を取り締まる護衛隊の屯所の中であり、本来は酒盛りをする会場でも酒場でも無い。
あれだけの量の酒を一気に呑み干してしまえば、この場での在庫がなくなり、取りに行かなくてはならなくなるのは当然の事だろう。
「お待たせしてすみませんが、直ぐにとってまいりますので」
ニコニコと変わらぬ笑みを浮かべながらセルバスに説明をすると、玄関口の戸に手を掛けるシグレだった。
「あ、いやすまねぇな……。旅籠の酒場は裏通りにあるんだったな?」
セルバスの言葉にきょとんとしていたシグレだったが、先程とはまた違う種類の笑みを浮かべた。どうやらセルバスは、外に追加を取りに行こうとするシグレに申し訳ない気持ちを抱いて、自分も付き合おうとしてくれているのだと聡い彼女は直ぐに気づいたようである。
「うふふ、セルバスさん、お気遣いなく。人攫い集団の一件を片付けて頂いた功労者を働かせるわけにはいきませんからね」
シグレは髪の毛を耳にかけながら、にこりとセルバスに微笑みかける。その笑顔を見たセルバスは、どきりとした。
『煌鴟梟』のアジトでは逃げようとしていたセルバスに対して、逃させまいと釘を刺すように口出ししてきていたシグレに、苦手意識をもっていたセルバスだったが、今のおっとりとしたシグレのほんわかした姿から垣間見える色気とのギャップに、強く意識をさせられたセルバスであった。
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