上 下
1,046 / 1,915
サカダイ編

1030.憤懣

しおりを挟む
 イダラマ達は町の護衛らしき者達の視線に晒されながらも特に何かをされる事も無く、無事に『妖魔退魔師ようまたいまし』の本拠地に辿り着いた。

 旅籠町にあるような『予備群』の屯所や、ケイノトにある『妖魔召士ようましょうし』の下部組織『退魔組たいまぐみ』の屯所とは比べ物にならない程の規模の大きさであり『妖魔退魔師ようまたいまし』の総本山と呼ぶに相応しい建物であった。

「それじゃあイダラマ様、少しここで待っていてもらえますかい」

「まずはワシらが顔見知りの『予備群よびぐん』の連中に事情を話して、イダラマ様が中に入れるように手筈を整えてきますんで」

 イダラマの護衛を務めているアコウとウガマはそう言い残すと、建物の前に立っている『妖魔退魔師ようまたいまし』衆達に話掛けに行った。

「イダラマ、気づいているかい?」

「ああ、もちろんだよ『麒麟児きりんじ』よ。我らが町に入った頃より、視線の数が増えているな。それも奇異きいや珍しさといった様子ではなくて明確な殺気が感じ取れる」

 エヴィとイダラマは、アコウ達が居なくなった後に小声で話し合う。

「ねぇイダラマぁ? 君がどういう話をここの連中にするつもりか僕はそれを知らないし、興味も無かったんだけどさ。もし失敗してがあれば僕は、君を絶対に許さないからね?」

「ふっ、そんな心配はいらぬよ。殿

 睨みあっているとまでは言わないが『大魔王』である『エヴィ』と『妖魔召士ようましょうし』の『イダラマ』は互いに真顔で話し合う。

 どうやらエヴィがこの事を口に出した理由は『ゲンロク』の里を襲撃した時よりも、この視線だけでと判断したからであろう。

 すでにエヴィはこの世界が大魔王領域の魔族が多く居る『アレルバレル』の世界よりも、強き者が多く居る事を理解し始めていた。

 ――『天衣無縫』の異名を持つ九大魔王『エヴィ』。

 『魔』に突出している者や『武』に長けている魔族が多い大魔王ソフィが選んだ『アレルバレル』の世界の『九大魔王』達。

 ソフィが九大魔王に選んだ理由は持っている強さだけではなく、自分の持つ強味に溺れる事なく、常に前を向いて今後も研鑽を続けていける者達である。

 そしてこの『エヴィ』もまたソフィに『の一体であり、大魔王『ブラスト』と同じように大魔王ソフィという魔族にを捧げている大魔王である。

 彼がイダラマという一癖も二癖もある人間と行動を共にする理由は『転置宝玉てんちほうぎょく』というマジックアイテムを手に入れる為であるが、そのアイテムを手に入れたい理由はである。

 彼は別世界から『アレルバレル』の世界に跳んできたユファのように『概念跳躍アルム・ノーティア』という魔法は使えない。

 しかしその九大魔王の大先輩である『ユファ』先輩のおかげで、元の世界に戻る方法は必ずある筈だと『エヴィ』は考える事が出来たのである。

 エヴィは必ずこの世界から『転置宝玉てんちほうぎょく』でアレルバレルの世界へと戻り、崇拝するソフィを別世界へと追いやった大賢者ミラと『煌聖の教団こうせいきょうだん』に所属する『』を消し去る事をとしている。

(この世界に跳ばされたのが僕で良かった。待っていてくださいね、ソフィ様! 貴方が『アレルバレル』の世界に戻られる前に、僕がこの世界の使える人材を配下にして、先にアレルバレルの世界に戻り『煌聖の教団こうせいきょうだん』の連中を全て血祭りにあげて、

 エヴィが心の中でそう考えていると、アコウとウガマの二人が建物から出てきた。そのアコウとウガマの二人は、ほっとしたような表情を浮かべていた。

 どうやら中で話がついたようで『妖魔退魔師ようまたいまし』とやらの居るこの建物の中に『妖魔召士ようましょうし』であるイダラマを迎え入れられるようになったのだろう。

 エヴィがイダラマと交わした契約はまた一つ上手く進んだという事だろう。そう考えたエヴィがあらゆる感情が入り混じった笑みを浮かべていると、イダラマに報告を続けていたアコウとウガマは喋っている途中であったが、邪悪な笑みを浮かべているエヴィを同時に見る。

 『煌聖の教団こうせいきょうだん』に対する殺意とこの場に向けられた数々の視線に対して、エヴィの色々な感情が入り混じったその笑みは、二人に敵意を放ったわけでもないのに『予備群よびぐん』の猛者二人を大魔王『エヴィ』に注目させるに至らせたようであった。 

「イダラマ。もう中に入っていいんだったらさ、早く入ろうよ。僕も色々とこの鬱陶しい視線に我慢が出来なくなってきちゃったよ……」

 イダラマに向けられていた数々の視線が、先程からエヴィへと向けられていたのであった。

「ふっ、そうだな『麒麟児きりんじ』よ。では案内を頼む『アコウ』に『ウガマ』」

「「は、はいっ! い、行きましょう!」」

 アコウとウガマを先頭にイダラマとエヴィ達も『妖魔退魔師ようまたいまし』の長の居る建物の中へと、入って行くのであった。

 …………

「中から指示が出るまで入り口を固めておきなさい」

「既に『一の門』と『二の門』。そのどちらにも『予備群よびぐん』を集めております」

「そう、ご苦労様。じゃあ私も中に入るから、指示をすぐに受け取れるようにしておきなさいね」

「分かりました、お任せください『ヒナギク』様」

 配下の『妖魔退魔師ようまたいまし』衆にヒナギクと呼ばれた女性は、イダラマ達に遅れて建物の中へと入って行くのであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...