最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
1,018 / 1,985
旅籠編

1003.存在の大きさ

しおりを挟む
「大丈夫か?」

 ヌーはヒロキをこの世から消滅させた後、ヒロキに顔を思いきり殴られた事で脳を揺らされて、脳震盪のうしんとうを起こしているであろうテアの元へ向かい気遣う。

「――」(歩くのは大丈夫。でも戦闘は少し無理かも)

「そうか。野郎の拳を無防備に受けてやがったからな。ひとまずは休んでいる方が良いな、一度町へ戻るか」

「――」(私の事は気にしなくていいよ、少し休めば大丈夫だから)

「そうか……」

煌鴟梟こうしきょう』の組員達は、ヒロキが負ける筈がないと考えていたのだろう。目の前で消滅させられて姿がなくなった事で茫然と立ち尽くしていた。

 ヌーがテアと会話をしていると、背後からコウゾウの大きな声が聞こえてきた。

「シグレ! 全員取り押さえるぞ、急げ!」

「了解です、隊長!」

 ヌーとヒロキの戦闘を見守っていたコウゾウだったが、今が好機だと考えたのだろう。決着がついたところを見計らい、コウゾウはシグレと共に中庭に居る組員達の捕縛に動き始める。

 『予備群よびぐん』の二人は刀を抜くと一瞬で組員達に肉薄していき、刀の柄の部分を使って、次々と気絶させていく。

 どうやらこの場に居た連中は、ヒロキ以外は一般の人間だったようで、コウゾウとシグレは、敵と斬り合いをする事も無く、大勢居た『煌鴟梟こうしきょう』の組員達を組み伏せ、気絶させて制圧を果たしていく。

 ソフィとエイジはその様子を少しの間見ていたが、やがてヌーとテアの元に向けて歩いて行く。

「いやはや、お主はまだそのような力を隠しておったか」

 テアと会話をしていたヌーだったが、ゆっくりとエイジの方見た。

「別に隠していたわけじゃない。いつものように気に入らねぇ野郎を潰そうと、動いただけだったんだがな」

 自分でも出そうと思って使った力ではないだけに、きっかけが何で先程のようなオーラが出せたのか、ヌー自身が理解していないと言った様子で、エイジにそう答えるのだった。

「元々お主は『金色のオーラ』の体現を果たしておった。そしてどうやら我の想像を越える程の研鑽を、お主は積んでおったのだろう。そして『』を体現出来るという領域まで来ていたお主は、後はキッカケ次第だったという事だな」

 ソフィの言葉を頭で反芻させながら、ヌーは自分の両手を見る。

「あれは『』というのか。確かにこれまでとは違い、あの感覚の状態は何でも出来る気がした。一つの『ことわり』のスタックで、これまでは極大魔法と閃光系の魔法の同時無詠唱は出来なかったが、あの感覚の中であれば問題なく使えたな」

 ヌーは先程の状態を思い起こしながらであるソフィの前で、自分の感覚の感想を説明していく。

 どうやら同じ『』を纏う事が出来るであろうソフィから、未知の情報を仕入れようと無意識にしているのだろう。

 ヌーは強くなったからといってそこで満足はしない。こういう純粋に強くなろうと考えるところは『魔』の探求者であるユファや、強くなろうと必死であったレアと同じなのだろう。

 そういう存在を好ましく思うソフィは惜しみなく『』についてヌーに情報を提供していくのであった。

「それは魔力の基となる魔力回路に余裕が出来たからだな。例えばお主の『魔力回路』のMAXが10だとしよう。そして『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』や『万物の爆発ビッグバン』といった極大魔法系であれば、必要数値『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』が6『万物の爆発ビッグバン』が4といったところだ。そこに全く違う別種の『天候系』や『閃光系』魔法が加われば、必要数値は『天雷一閃ルフト・ブリッツ』が同じく6。そして『天空の雷フードル・シエル』が3くらいだ。つまりお主がこれまで自分自身の魔力を魔法発動の為に、魔力回路に詰め込んだ時、魔力回路の最大値が10であった為に『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』と『天雷一閃ルフト・ブリッツ』が使えなかったのだろうな」

「ああ成程……。ってことはお前の今言った理論だと、さっきのオーラを纏った時の俺の魔力や戦力値とはまた別で、が広くなった事で極大魔法と閃光魔法が同時に扱えたという事か?」

「そう言う事だ『』を扱えるようになった事で、色々とお主がこれまで出来なかった事が出来るようになったという事だ。他にもいろいろと出来るようになってはいるだろうが、それは後はお主自身が自分で調べるがよいぞ」

 全ての知りたい答えを一気に教えないところがコイツらしいとヌーは考えて、歪んだ笑みを見せるのであった。

「しかしお主。この後コウゾウ殿にまた捕らえられるかもしれんぞ。あれだけ苦労して交換条件を提示してやったというのに、またもと木阿弥もくあみだな」

 旅籠町の屯所の地下でコウゾウ達が捕らえた『煌鴟梟こうしきょう』の連中数人に対して、ヌーが処刑を行った事で彼はまた、捕らえられる事になるところを捜査に協力する事で、帳消しにしてもらおうとソフィは条件を出した。

 しかしこの場でまた彼はコウゾウの言葉を無視してヒロキを消滅させた。その事でコウゾウは、またヌーに対して何か言ってくるかもしれない。

「その時はまたその時に考えればいいだろう。そもそも捜査の協力は、人攫いの連中達のアジトを突き止める事だろう? 人攫いを今後止められるようになれば奴らも護衛として問題は無い筈だ。俺達はここに奴を連れてきた時点でもう協力関係自体は終わっている」

 確かにその通りだったが、ヌーはまだ納得はしてはいない様子で、ヒロキを消滅させるだけではなく『煌鴟梟こうしきょう』の他の連中にも手を出したそうな顔をしていた。

 どうやらヌーはまだ『テア』を狙わせたであろう『ミヤジ』という男や、あの宿屋に居た男。そしてこの『煌鴟梟こうしきょう』のボスとやらを葬るつもりらしい。

 余程、このヌーという男はテアを狙った事を許せない様子である。ここまで他者の為に動くヌーは、これまで見たことがない。どうやら本当にテアを家族のように思っているのだろうとソフィは、首を縦に振りながらそう考えるのであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。 元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。 登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。 追記 小説家になろう  ツギクル  でも投稿しております。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...