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旅籠編
1002.新たな魔神級の誕生
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ヌーの周りに青色の湯気のような物が纏われた時、ヒロキは思いきり拳を振り切ったにも拘らずまともに受けて、数歩程その場から動いただけで平然と耐えられたのを見て、自分の拳に絶対の自信を持っている彼は自分の目が信じられなかった。
これは決して自惚れというモノではなく、彼の拳がまともに当たればランクが高い妖魔がウヨウヨと蔓延る妖魔山に近い、麓に居る妖魔であっても即座に戦闘不能。下手をすれば硬い皮膚を持つ『鬼人』が相手でも首を吹き飛ばす事さえも出来る程であった。
『予備群』に『妖魔召士』。いや『妖魔退魔師』が相手あっても、まともに当たりさえすれば、倒す事も可能だとヒロキは思っている。
それだけの自信が生まれる程にこれまでの相手に勝利を収めてきたのである。しかし今、目の前に居る背の高い男は、そんな彼が本気で打ち込んだ拳をまともに受けてピンピンとしている。
一度目は何かの間違いだと無理矢理自分に言い聞かしていたが、二度目の時は明確に通用していないと判断出来た。
そしてそれから全身に震えが走るようになり、この場から逃げ出さなければと考えるようになったのである。
そして何やら湯気のような物が出始めてからは、更にその気持ちが強くなってしまった。
(は、早くこの場から逃げ出さなければいけないのに、あ、足が動かない……。何故だ? 何故動かないんだ!)
彼は『魔瞳』を使われているワケでも『退魔士』達や『妖魔召士』達のような『捉術』を使われているワケでもなかった。
あくまでヌーという強者に睨まれた事で恐怖心に苛まされてしまい、足が竦んで全身に震えが走って、動けなくなっているのである。単純な話、唐突な恐怖に襲われて怯えているだけである。
頭では逃げなければと考えていても身体が竦んでいては動けない。頭で理解しても身体が思考についていけないのだ。
「力が漲っていやがる。なんだかよく分からねぇが、今なら何でも出来そうな気がするぜ」
「くっ……!!」
カタカタと足を震わせながらヒロキは、何とか両手で自分の膝を思いきり叩いた。ビリビリと痺れが走るが、おかげで足が動くようになると、これからあの男に何かされる前にこの場を一度離れようと駆け出そうとした。
しかしその瞬間にヒロキは何が起きたか分からないままに、自分の身体が宙を舞っているような浮遊感に包まれた。
ドゴンッという音と共に壁に激突した事でようやく痛みが身体にきて、自分が殴られて壁に激突したのだと知った。
「あ……っ、うぐっ……」
――たった一発だった。
何やらくっきりとした紅い色の湯気が、更に強くなったかと思えば、たった一発殴られただけで、どうやらヒロキは動けなくなってしまった。ヒロキは震える手を地面につけて、何とか身体を起こそうとする。
そしてそこに影が迫り、その影の主を見上げるとヌーが目の前に立っていた。
「ああ、ようやく馴染んできたぜ」
ヌーがそう言うと『青色』と『紅色』の湯気の間に、今度は眩い『金色の光』がゆっくりと体現したかと思えば、その二色に少しずつ少しずつ混ざり合っていく。
「あ……っ、ああ……!」
全身が震えるだけではなく、全身の肌が粟立つような感覚に囚われる。彼はもうヌーに視線を合わせられず先程まで倒すと息巻いていた『予備群』の男だとアタリをつけていた『コウゾウ』の方を見て震える手を伸ばした。
「た……っ、たしゅけて……!!」
一縷の望みに掛けるように、まるで一本の救いの糸を手繰り寄せるかの如く、コウゾウの顔を見ながら震える手を伸ばし続ける。
もうヒロキは戦闘が出来る状態ではない。それどころかもう今後一切、戦闘の場に立つ事は出来ないだろう。戦おうとすれば先程のヌーの表情が目に浮かび、そして全身に震えが走る程のトラウマが、見事に植え付けられている。
「何処を見ていやがる? お前の相手は……、俺だ!!」
――『三色併用』。
『紅』『青』『金』の鮮明でくっきりとした眩い三種の色の光が、更に輝きを増したかと思うと、三つの魔法陣が哀れな敗北者の周囲に浮かび上がる。
「ま、待て……!! もう勝負はついただろう! そいつは、捕縛して屯所へ……!」
ヒロキに手を伸ばされた対象。その存在であるコウゾウは一歩前に足を出して言葉を出すが、最後まで言い切る事は出来なかった――。
――神域魔法、『普遍破壊』。
――神域魔法、『天雷一閃』。
――魔神域魔法、『闇の閃日』。
――爆発、雷光、閃光が、瞬時に巻き起こり、恐ろしい爆音が『煌鴟梟』のアジト内に響き渡る。
絶大な殺傷能力が込められた殲滅魔法、極大魔法は、それら全ての範囲をヒロキの周囲一帯のみに、限定させて発動されたのであった。
次から次に恐ろしい爆音が続いたかと思うと、ヒロキが居た側の壁一帯は『ヒロキ』ごと消滅して消え去る。
「後悔しながら逝きやがれや」
テアの顔を殴りつけた男はこうして、ヌーの手によってこの世から完全に消滅するのであった。
これは決して自惚れというモノではなく、彼の拳がまともに当たればランクが高い妖魔がウヨウヨと蔓延る妖魔山に近い、麓に居る妖魔であっても即座に戦闘不能。下手をすれば硬い皮膚を持つ『鬼人』が相手でも首を吹き飛ばす事さえも出来る程であった。
『予備群』に『妖魔召士』。いや『妖魔退魔師』が相手あっても、まともに当たりさえすれば、倒す事も可能だとヒロキは思っている。
それだけの自信が生まれる程にこれまでの相手に勝利を収めてきたのである。しかし今、目の前に居る背の高い男は、そんな彼が本気で打ち込んだ拳をまともに受けてピンピンとしている。
一度目は何かの間違いだと無理矢理自分に言い聞かしていたが、二度目の時は明確に通用していないと判断出来た。
そしてそれから全身に震えが走るようになり、この場から逃げ出さなければと考えるようになったのである。
そして何やら湯気のような物が出始めてからは、更にその気持ちが強くなってしまった。
(は、早くこの場から逃げ出さなければいけないのに、あ、足が動かない……。何故だ? 何故動かないんだ!)
彼は『魔瞳』を使われているワケでも『退魔士』達や『妖魔召士』達のような『捉術』を使われているワケでもなかった。
あくまでヌーという強者に睨まれた事で恐怖心に苛まされてしまい、足が竦んで全身に震えが走って、動けなくなっているのである。単純な話、唐突な恐怖に襲われて怯えているだけである。
頭では逃げなければと考えていても身体が竦んでいては動けない。頭で理解しても身体が思考についていけないのだ。
「力が漲っていやがる。なんだかよく分からねぇが、今なら何でも出来そうな気がするぜ」
「くっ……!!」
カタカタと足を震わせながらヒロキは、何とか両手で自分の膝を思いきり叩いた。ビリビリと痺れが走るが、おかげで足が動くようになると、これからあの男に何かされる前にこの場を一度離れようと駆け出そうとした。
しかしその瞬間にヒロキは何が起きたか分からないままに、自分の身体が宙を舞っているような浮遊感に包まれた。
ドゴンッという音と共に壁に激突した事でようやく痛みが身体にきて、自分が殴られて壁に激突したのだと知った。
「あ……っ、うぐっ……」
――たった一発だった。
何やらくっきりとした紅い色の湯気が、更に強くなったかと思えば、たった一発殴られただけで、どうやらヒロキは動けなくなってしまった。ヒロキは震える手を地面につけて、何とか身体を起こそうとする。
そしてそこに影が迫り、その影の主を見上げるとヌーが目の前に立っていた。
「ああ、ようやく馴染んできたぜ」
ヌーがそう言うと『青色』と『紅色』の湯気の間に、今度は眩い『金色の光』がゆっくりと体現したかと思えば、その二色に少しずつ少しずつ混ざり合っていく。
「あ……っ、ああ……!」
全身が震えるだけではなく、全身の肌が粟立つような感覚に囚われる。彼はもうヌーに視線を合わせられず先程まで倒すと息巻いていた『予備群』の男だとアタリをつけていた『コウゾウ』の方を見て震える手を伸ばした。
「た……っ、たしゅけて……!!」
一縷の望みに掛けるように、まるで一本の救いの糸を手繰り寄せるかの如く、コウゾウの顔を見ながら震える手を伸ばし続ける。
もうヒロキは戦闘が出来る状態ではない。それどころかもう今後一切、戦闘の場に立つ事は出来ないだろう。戦おうとすれば先程のヌーの表情が目に浮かび、そして全身に震えが走る程のトラウマが、見事に植え付けられている。
「何処を見ていやがる? お前の相手は……、俺だ!!」
――『三色併用』。
『紅』『青』『金』の鮮明でくっきりとした眩い三種の色の光が、更に輝きを増したかと思うと、三つの魔法陣が哀れな敗北者の周囲に浮かび上がる。
「ま、待て……!! もう勝負はついただろう! そいつは、捕縛して屯所へ……!」
ヒロキに手を伸ばされた対象。その存在であるコウゾウは一歩前に足を出して言葉を出すが、最後まで言い切る事は出来なかった――。
――神域魔法、『普遍破壊』。
――神域魔法、『天雷一閃』。
――魔神域魔法、『闇の閃日』。
――爆発、雷光、閃光が、瞬時に巻き起こり、恐ろしい爆音が『煌鴟梟』のアジト内に響き渡る。
絶大な殺傷能力が込められた殲滅魔法、極大魔法は、それら全ての範囲をヒロキの周囲一帯のみに、限定させて発動されたのであった。
次から次に恐ろしい爆音が続いたかと思うと、ヒロキが居た側の壁一帯は『ヒロキ』ごと消滅して消え去る。
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