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旅籠編
1001.鮮明な色のオーラと、抱いた恐怖心
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『魔瞳』を使われたワケでも無いというのに、結局テアが上空からヌーに抱き留められるまでの数秒程、ヒロキは立って見ている事だけしか出来なかった。
「――!」(うっ……ヌー? す、すまねぇ!!)
どうやらヒロキの拳が顔に直撃した事で縦に脳を揺らされた事が原因か、数秒程意識が朦朧としていたテアは、ようやく目を覚まして自分がヌーの腕の中だという事に気づき、はっとしてそのまま自分の足で立とうとする。
「――!」(あっ……!)
しかし抱き留められていたヌーから自立しようと地面に足をつけたところで、フラフラとよろめき倒れそうになる。
「大丈夫か? 後の事は任せて少し座ってろよ」
ヌーは倒れそうになったテアを支えながら優しく微笑みかける。テアは本当に余裕が無いようで、そのままヌーに頷くとその場に座り込んだ。
……
……
……
(まぁ、まぁまぁまぁ! あの二人は互いに互いを支え合っている。なんて何て尊いお二人かしらぁ! 素敵よ、素敵すぎるわ!)
『予備群』の隊員『シグレ』は、ヌーを庇って代わりに殴られたテアと、そのテアを両手でしっかりと抱き留めて微笑みかけたヌーを見て『何てお似合いの二人なのかしら』と一人感動している様子であった。
セルバスは横に居るシグレを見て今なら逃げ出せるんじゃねぇのか? とばかりに、一瞬頭を過ったがその瞬間に胸の前で手を組んで感動していたシグレの手が、唐突にセルバスに伸びてきて掴んだ。
「うふふ、駄目ですよぉ?」
「な、何の事だ……!?」
「うふふふ」
苦笑いを浮かべるセルバスに、シグレは不気味に微笑みかけるのだった。
……
……
……
「さて、覚悟は出来てんだろうなぁ?」
鮮明な『青のオーラ』を身に纏っているヌーは、直ぐ近くで金縛りにあったように動けなくなっていたヒロキに視線を送り、首を鳴らしながらそう告げる。
「くっ……!」
ようやく足が動くようになってきたと思ったヒロキは、再びヌーに視線を向けられると全身が震えあがる。
テアという女が空から落ちてくる前に何度この場から離れなければと無意識に考えただろうか。そのたびにヒロキは本能に逆らって逃げるのを拒否した。逃げたいという気持ちを押し殺し、必死にこの場で耐えたのである。
これまで自分は幾度と無く強者と戦ってきた経験もあり、あの妖魔山付近に生息している妖魔達共と戦っても苦戦はしても勝利はしてきた。
たとえ相手が『妖魔退魔師』の組織に属する『予備群』であっても互角に渡り合えると自負しているヒロキは、どうしてここまで目の前の男に怯えさせられているのかが全く理解が出来なかった。
それもさっきまで勝てる相手だと思った相手が、まるで別人のように感じられているのである。こんな僅かな時間で人が変わる事などあり得ようか?
(くそ、何故こんなにも足が動かぬ? この男を殴ろうとすると足が前に出ない……! 何故だ!)
何が何だか分からないヒロキの前で、纏っているオーラの色が再び変貌していく。
――それは淡く紅い色が、鮮やかなくっきりとした『紅色』に変わる。
その瞬間ヒロキの足は本人だけではなく、その場に居る誰もが分かるほどに震えが大きくなっていた。更には全身から汗が噴出して、歯はさっきからカチカチとなり始めている。
(何なのだコイツは……!? さ、さっきともまた様子が変わりやがった。だ、駄目だ……! やられるっ! は、はやくこの場から逃げなければ!!)
ヌーの紅色が変貌を遂げた瞬間に先程よりも恐怖心が強くなり、もう目に入れたくない、この場から逃げなければとヒロキはそれしか考えられなくなった。
今のヌーは『二色の併用』のオーラしか纏ってはいない。いつもの併用オーラと違うところは見た目だけでいうならば、色も全く変わっておらず『淡いオーラ』と『鮮明なオーラ』の違いでしかない。
しかしそれでも『金色』単体で纏っていた時と、今のヌーでは明らかに別人だとヒロキには感じられている。
そしてこの状況を見ながらソフィは、冷静にヌーが『例のあれ』が準備が出来ている事を理解していた。
(そうか……! お主自身はもう理解しているのだな。だからこそ確かめるように『紅』から変化させたのだろう?)
いつものように『金色』を纏わなかったヌーにソフィは、笑みを零しながら心の中で断言してみせる。
――そしてもうソフィは自分が手を出す必要が完全になくなった事を悟る。
(クックック! さぁ存分に自分の力を試すがよいぞ。そして我にもその力を見せてみるがいい)
第二形態になったわけでもないソフィだったが、リラリオの世界でレキと戦った時のような。いやそれ以上の興奮に身を包まれながら、この後のヌーの一撃をその目に焼き付けようとするのであった。
……
……
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「――!」(うっ……ヌー? す、すまねぇ!!)
どうやらヒロキの拳が顔に直撃した事で縦に脳を揺らされた事が原因か、数秒程意識が朦朧としていたテアは、ようやく目を覚まして自分がヌーの腕の中だという事に気づき、はっとしてそのまま自分の足で立とうとする。
「――!」(あっ……!)
しかし抱き留められていたヌーから自立しようと地面に足をつけたところで、フラフラとよろめき倒れそうになる。
「大丈夫か? 後の事は任せて少し座ってろよ」
ヌーは倒れそうになったテアを支えながら優しく微笑みかける。テアは本当に余裕が無いようで、そのままヌーに頷くとその場に座り込んだ。
……
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(まぁ、まぁまぁまぁ! あの二人は互いに互いを支え合っている。なんて何て尊いお二人かしらぁ! 素敵よ、素敵すぎるわ!)
『予備群』の隊員『シグレ』は、ヌーを庇って代わりに殴られたテアと、そのテアを両手でしっかりと抱き留めて微笑みかけたヌーを見て『何てお似合いの二人なのかしら』と一人感動している様子であった。
セルバスは横に居るシグレを見て今なら逃げ出せるんじゃねぇのか? とばかりに、一瞬頭を過ったがその瞬間に胸の前で手を組んで感動していたシグレの手が、唐突にセルバスに伸びてきて掴んだ。
「うふふ、駄目ですよぉ?」
「な、何の事だ……!?」
「うふふふ」
苦笑いを浮かべるセルバスに、シグレは不気味に微笑みかけるのだった。
……
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「さて、覚悟は出来てんだろうなぁ?」
鮮明な『青のオーラ』を身に纏っているヌーは、直ぐ近くで金縛りにあったように動けなくなっていたヒロキに視線を送り、首を鳴らしながらそう告げる。
「くっ……!」
ようやく足が動くようになってきたと思ったヒロキは、再びヌーに視線を向けられると全身が震えあがる。
テアという女が空から落ちてくる前に何度この場から離れなければと無意識に考えただろうか。そのたびにヒロキは本能に逆らって逃げるのを拒否した。逃げたいという気持ちを押し殺し、必死にこの場で耐えたのである。
これまで自分は幾度と無く強者と戦ってきた経験もあり、あの妖魔山付近に生息している妖魔達共と戦っても苦戦はしても勝利はしてきた。
たとえ相手が『妖魔退魔師』の組織に属する『予備群』であっても互角に渡り合えると自負しているヒロキは、どうしてここまで目の前の男に怯えさせられているのかが全く理解が出来なかった。
それもさっきまで勝てる相手だと思った相手が、まるで別人のように感じられているのである。こんな僅かな時間で人が変わる事などあり得ようか?
(くそ、何故こんなにも足が動かぬ? この男を殴ろうとすると足が前に出ない……! 何故だ!)
何が何だか分からないヒロキの前で、纏っているオーラの色が再び変貌していく。
――それは淡く紅い色が、鮮やかなくっきりとした『紅色』に変わる。
その瞬間ヒロキの足は本人だけではなく、その場に居る誰もが分かるほどに震えが大きくなっていた。更には全身から汗が噴出して、歯はさっきからカチカチとなり始めている。
(何なのだコイツは……!? さ、さっきともまた様子が変わりやがった。だ、駄目だ……! やられるっ! は、はやくこの場から逃げなければ!!)
ヌーの紅色が変貌を遂げた瞬間に先程よりも恐怖心が強くなり、もう目に入れたくない、この場から逃げなければとヒロキはそれしか考えられなくなった。
今のヌーは『二色の併用』のオーラしか纏ってはいない。いつもの併用オーラと違うところは見た目だけでいうならば、色も全く変わっておらず『淡いオーラ』と『鮮明なオーラ』の違いでしかない。
しかしそれでも『金色』単体で纏っていた時と、今のヌーでは明らかに別人だとヒロキには感じられている。
そしてこの状況を見ながらソフィは、冷静にヌーが『例のあれ』が準備が出来ている事を理解していた。
(そうか……! お主自身はもう理解しているのだな。だからこそ確かめるように『紅』から変化させたのだろう?)
いつものように『金色』を纏わなかったヌーにソフィは、笑みを零しながら心の中で断言してみせる。
――そしてもうソフィは自分が手を出す必要が完全になくなった事を悟る。
(クックック! さぁ存分に自分の力を試すがよいぞ。そして我にもその力を見せてみるがいい)
第二形態になったわけでもないソフィだったが、リラリオの世界でレキと戦った時のような。いやそれ以上の興奮に身を包まれながら、この後のヌーの一撃をその目に焼き付けようとするのであった。
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