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旅籠編
991.背信行為と間の悪さ
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今のイツキの真剣な表情は長い付き合いであるユウゲでさえも、滅多に見る事の無い表情であった。
退魔組で見せる表情でも無く、先程まで見せていた表情とも違う。この今見せているイツキの表情は『煌鴟梟』のボスであった頃に見せる表情であった。
ユウゲは『煌鴟梟』に属していたわけではないが『特別退魔士』になる前は彼と協力関係にあった間柄である。そんな彼だからこそこんな表情をするイツキにも見覚えがあったのである。
「今から話す事はゲンロク様すら知らぬ事だ。絶対に他の退魔組の奴らにも話すなよ?」
ユウゲはごくりと生唾を飲み込みながら首を縦に振って見せる。
「加護の森に現れた連中が『ゲンロク』の里に来て、ゲンロクと直接会話をした事はもう説明したから分かっているな?」
「え、ええ……。タクシンを返り討ちにしたという者達の事でしょう。そしてゲンロク様がその者達には手を出すなと退魔組に対して通達を行われたのですよね」
この長屋で最初に話をした通り、それによってサテツの機嫌を害して、偉い目にあったユウゲであった。
「ああ。だがそれはあくまでゲンロクの意向でな。恥をかかされたとみられるヒュウガ様は、その連中に対して陰ながら追手を差し向けたのだ」
「!?」
ユウゲはイツキの言葉に目を丸くして絶句する。
何故ならば今回の件に関してゲンロクは自分達の落ち度と認め、組織の長としての立場とした上で報復行動の一切を禁ずると告げたのである。
暫定とはいっても既に名実ともに『妖魔召士』の長の立場にあるゲンロクが、大々的に決定をして退魔組にも証文を認めてきたのである。
だからこそサテツ様はやり場のない怒りを屯所内で発散させたくらいなのである。それをまさか現在の『妖魔召士』の組織のNo.2と呼べるヒュウガが、ゲンロクの決定に背いて報復行為を取ったとあればこれはもう冗談では済まされない。これが明るみになれば組織の長に対しての謀反と、見做されてもおかしくはない。良くて組織から追放。下手をすれば組織から命を狙われても文句は言えない。
これまでのようなゲンロクに内密で行われていたサテツとヒュウガ達との取り決めが、可愛く見える程の出来事である。
「そ、それで加護の森に現れた連中は、い、今何処に?」
「連中はゲンロク様の里を出た後、どうやら『煌鴟梟』のアジトの近く、その旅籠町に向かったらしい」
それでようやくイツキが先程動くなと言った理由が、ユウゲにも理解出来たのであった。
何故なら『煌鴟梟』のアジトの近くの旅籠町は一つしかない。そして先程イツキにも報告した事だが、アジトからの帰り際あのヒロキという男がいうには『新人』の『セルバス』とやらはサノスケ殿に連れられて旅籠町に向かい、これから例の仕事を行う事になっている筈である。
このままセルバスとやらの素性を調べに『旅籠町』へ向かえば『加護の森』に現れた連中や、ヒュウガ殿の息のかかった『妖魔召士』達と鉢合わせになる可能性が出て来る。
ヒュウガ殿も自分の進退が関わっている以上、向かわせたという取り巻き連中の『妖魔召士』達も本気で連中を襲い掛かる事だろうし、下手に鉢合わせれば面倒な事になるのは、間違い無いだろう。
「しかしまずいかもしれんな。このまま事が終わるまで放っておきたいところだが『旅籠町』には『妖魔退魔師』の『予備群』達が大勢護衛として居るだろうからな、こちらも直ぐに動けるように随時情報は仕入れておきたい」
イツキが今口にしたまずい事とは多くの意味を孕んでいた。一つはヒュウガの取り巻き達が、加護の森に現れたという連中。つまりソフィ達を襲った場合、当然『旅籠町』に居る『予備群』達は争いに介入してくる事になるだろう。
これがまだ加護の森に現れた者達が取るに足らない連中であったならば、取り巻きの『妖魔召士』達があっさりと戦闘を終わらせて『予備群』に気づかれる前に、事を運ぶ事も可能かもしれないが、その取り巻き達の標的はタクシン達とやり合えるレベルなのである。
つまり加護の森に現れた連中は少なくとも『特別退魔士』クラスの強さを有している事になる。そんな者達が殺し合いを始めたとなれば『予備群』達も見過ごすわけにはいかなくなる。
そしてもう一つのまずい事とは『旅籠町』に居る『煌鴟梟』の幹部達や、新人のセルバス達の事である。
イツキが『煌鴟梟』のボスであった頃はまだ、旅籠町のような小さな町などには『予備群』達は居なかった。
しかし今はもう立派に護衛業は『妖魔退魔師』側の稼業になっている為、旅籠町で人攫いのような真似を行えば『予備群』達は捕らえる為に動くだろう。
これまでであれば『煌鴟梟』の二代目の『トウジ』のやる事に疑問などもたず、任せていても大丈夫だと判断出来ていたが、その新人が今回は居る。
未知数なセルバスとかいう新人がもし下手を打った場合、そこから『煌鴟梟』の存在が割れてしまうかもしれない。
それだけならまだ許容範囲だが何かの間違いで『煌鴟梟』の先代ボスが、退魔組に所属しているイツキだと『予備群』達にバレた場合、非常に面倒な事になるのは間違いない。
ヒュウガ殿の取り巻き達の戦いが大きくなれば、それだけ『予備群』達の動きも機敏になりこれまで以上に視野広くなってしまうだろう。
このタイミングは非常に不味いと、イツキの考えていた事に、ユウゲの思想もようやく辿り着き、
同じ事を心の中で呟くのであった。
退魔組で見せる表情でも無く、先程まで見せていた表情とも違う。この今見せているイツキの表情は『煌鴟梟』のボスであった頃に見せる表情であった。
ユウゲは『煌鴟梟』に属していたわけではないが『特別退魔士』になる前は彼と協力関係にあった間柄である。そんな彼だからこそこんな表情をするイツキにも見覚えがあったのである。
「今から話す事はゲンロク様すら知らぬ事だ。絶対に他の退魔組の奴らにも話すなよ?」
ユウゲはごくりと生唾を飲み込みながら首を縦に振って見せる。
「加護の森に現れた連中が『ゲンロク』の里に来て、ゲンロクと直接会話をした事はもう説明したから分かっているな?」
「え、ええ……。タクシンを返り討ちにしたという者達の事でしょう。そしてゲンロク様がその者達には手を出すなと退魔組に対して通達を行われたのですよね」
この長屋で最初に話をした通り、それによってサテツの機嫌を害して、偉い目にあったユウゲであった。
「ああ。だがそれはあくまでゲンロクの意向でな。恥をかかされたとみられるヒュウガ様は、その連中に対して陰ながら追手を差し向けたのだ」
「!?」
ユウゲはイツキの言葉に目を丸くして絶句する。
何故ならば今回の件に関してゲンロクは自分達の落ち度と認め、組織の長としての立場とした上で報復行動の一切を禁ずると告げたのである。
暫定とはいっても既に名実ともに『妖魔召士』の長の立場にあるゲンロクが、大々的に決定をして退魔組にも証文を認めてきたのである。
だからこそサテツ様はやり場のない怒りを屯所内で発散させたくらいなのである。それをまさか現在の『妖魔召士』の組織のNo.2と呼べるヒュウガが、ゲンロクの決定に背いて報復行為を取ったとあればこれはもう冗談では済まされない。これが明るみになれば組織の長に対しての謀反と、見做されてもおかしくはない。良くて組織から追放。下手をすれば組織から命を狙われても文句は言えない。
これまでのようなゲンロクに内密で行われていたサテツとヒュウガ達との取り決めが、可愛く見える程の出来事である。
「そ、それで加護の森に現れた連中は、い、今何処に?」
「連中はゲンロク様の里を出た後、どうやら『煌鴟梟』のアジトの近く、その旅籠町に向かったらしい」
それでようやくイツキが先程動くなと言った理由が、ユウゲにも理解出来たのであった。
何故なら『煌鴟梟』のアジトの近くの旅籠町は一つしかない。そして先程イツキにも報告した事だが、アジトからの帰り際あのヒロキという男がいうには『新人』の『セルバス』とやらはサノスケ殿に連れられて旅籠町に向かい、これから例の仕事を行う事になっている筈である。
このままセルバスとやらの素性を調べに『旅籠町』へ向かえば『加護の森』に現れた連中や、ヒュウガ殿の息のかかった『妖魔召士』達と鉢合わせになる可能性が出て来る。
ヒュウガ殿も自分の進退が関わっている以上、向かわせたという取り巻き連中の『妖魔召士』達も本気で連中を襲い掛かる事だろうし、下手に鉢合わせれば面倒な事になるのは、間違い無いだろう。
「しかしまずいかもしれんな。このまま事が終わるまで放っておきたいところだが『旅籠町』には『妖魔退魔師』の『予備群』達が大勢護衛として居るだろうからな、こちらも直ぐに動けるように随時情報は仕入れておきたい」
イツキが今口にしたまずい事とは多くの意味を孕んでいた。一つはヒュウガの取り巻き達が、加護の森に現れたという連中。つまりソフィ達を襲った場合、当然『旅籠町』に居る『予備群』達は争いに介入してくる事になるだろう。
これがまだ加護の森に現れた者達が取るに足らない連中であったならば、取り巻きの『妖魔召士』達があっさりと戦闘を終わらせて『予備群』に気づかれる前に、事を運ぶ事も可能かもしれないが、その取り巻き達の標的はタクシン達とやり合えるレベルなのである。
つまり加護の森に現れた連中は少なくとも『特別退魔士』クラスの強さを有している事になる。そんな者達が殺し合いを始めたとなれば『予備群』達も見過ごすわけにはいかなくなる。
そしてもう一つのまずい事とは『旅籠町』に居る『煌鴟梟』の幹部達や、新人のセルバス達の事である。
イツキが『煌鴟梟』のボスであった頃はまだ、旅籠町のような小さな町などには『予備群』達は居なかった。
しかし今はもう立派に護衛業は『妖魔退魔師』側の稼業になっている為、旅籠町で人攫いのような真似を行えば『予備群』達は捕らえる為に動くだろう。
これまでであれば『煌鴟梟』の二代目の『トウジ』のやる事に疑問などもたず、任せていても大丈夫だと判断出来ていたが、その新人が今回は居る。
未知数なセルバスとかいう新人がもし下手を打った場合、そこから『煌鴟梟』の存在が割れてしまうかもしれない。
それだけならまだ許容範囲だが何かの間違いで『煌鴟梟』の先代ボスが、退魔組に所属しているイツキだと『予備群』達にバレた場合、非常に面倒な事になるのは間違いない。
ヒュウガ殿の取り巻き達の戦いが大きくなれば、それだけ『予備群』達の動きも機敏になりこれまで以上に視野広くなってしまうだろう。
このタイミングは非常に不味いと、イツキの考えていた事に、ユウゲの思想もようやく辿り着き、
同じ事を心の中で呟くのであった。
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