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旅籠編
990.素っ頓狂な声
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ヒイラギたちが言っていた通り、ユウゲが戻ってきた報告を伝えに退魔組の頭領である『サテツ』の部屋に入ったが、だいぶ時間は経っていたにも拘わらずまだ機嫌が悪い様子で勝手にイツキの任務を優先して何も言わずに出て行ったユウゲは、相当にサテツに絞られるのであった。
イツキの助けもあって何とか解放されたユウゲは、夜になり前回の裏路地の一部屋でイツキに愚痴を零していた。
「全く……貴方が『煌鴟梟』の様子を見に行けというから俺は言う通りに従ったというのに、貴方の所為でサテツの頭領に文句を言われたじゃないか」
「それはさっきから何度も謝っているじゃないか。俺が思っていた以上にサテツは、ゲンロクの決めた事に反感を持っていたようだ」
「あのゲンロク様が退魔組に落ち度があると認めて『妖魔召士』側の……。まぁ暫定の長としての立場としてですが、それでも落ち度を認めたって本当なんですかね? かつてのゲンロク様を知る者としては信じられない話です」
「ゲンロク様も一線を退かれたという事の証左だろう。そもそもヒュウガ様とサテツ様が裏でやり取りを行っている事を知った時点でヒュウガ様達に対して、お咎め無しで済んでいる事自体、俺には信じられんよ」
実際には少々ヒュウガに対してはゲンロクからのお叱りはあったのだが、イツキの言っている規模の意味では無い為、それを分かっているユウゲも首を縦にして頷くのであった。
「それで? お前が見てきた『煌鴟梟』の内情を教えてもらおうか」
そこでようやく本題に入るとイツキは、正座をしているユウゲに楽にするようにといわんばかりに、足を崩すように促す。
コクリと頷いて胡坐をかき始めたユウゲは『煌鴟梟』のボスである『トウジ』の事や、最近『煌鴟梟』の組織に入った『新人』。更には新たに幹部になったスキンヘッドの男『ヒロキ』の事も報告する。
「ヒロキって奴の事はまぁ聞いてはいたが、そのセルバスって野郎の事は俺には一切伝えてきていないな」
「ミヤジ殿やサノスケ殿がアジトに居れば、詳しくセルバスという者の事を聞こうと思って居たのですが、どうやら旅籠町でこれから仕事をするらしく、残念ながら居ませんでした」
大まかに調べてきた事を話し終えるユウゲを見てイツキは頷きを見せる。
「トウジの野郎は回りくどいやり方を好んでやるからな。俺の時は一度『仕事』を行えばほとぼりが冷めるまでその町から手を引くが、トウジは『仕事』をやり終えても表に一切情報を出させない事を徹底して狙い目と思った場所なら根こそぎ奪うやり方をもっていやがる。俺とは違うタイプだが、俺と同じくらい徹底して物事を進めるやり口だ。そのやり口に関してはアイツのやり方に口出しするつもりは無かったが、その新人が少しばかり気に喰わねぇな」
どうやら『煌鴟梟』のボスであるトウジから、セルバスという新人の方へイツキの興味は移ったらしい。
「魔力の残滓や『青い目』といった『魔瞳』を使った痕跡はありませんでした。しかしながら何かしらその新人がトウジ殿に術を施していると思われますね。実際に見てきた俺の感想は以上です」
「お前は俺以上に退魔士としての資質は上だ。俺は『青い目』なんて使えねぇが、お前は『妖魔召士』でもない身で『青い目』を使えるくらいの魔力も有しているしな。そんなお前がその新人がトウジの野郎を操っていると認めているんだ。まず間違いなくそのセルバスって野郎で間違いないだろう」
ユウゲはイツキに褒められた事で、表向きでは普段通りの表情だが、内心では飛び上がるくらいに喜んでいた。イツキは『上位退魔士』程度の退魔士で、そこまで魔力も高くはない男だが、事戦闘に及べばまず間違いなく『ユウゲ』よりも強い。
あくまで殺し合いという場においてではあるが、ユウゲの目測ではイツキという男は『妖魔召士』の『サテツ』より上だと見ている。
だからこそ『特別退魔士』のユウゲは『上位退魔士』のイツキに面と向かっては敬語を使って彼の言う通りに従っているのである。
「では今度は新人の『セルバス』とやらに対象を絞って調べて見ますか?」
そう言うユウゲの顔をじっと見つめるイツキだったが、やがて首を横に振るのであった。
「くははっ! 前と違ってお前もやけに乗り気になったじゃないか。俺が首を縦に振ったらこのまま再び『煌鴟梟』の元に行きそうだな。はははっ!」
余りに話が早く更には動きまで軽妙なユウゲに、イツキは上機嫌になった様子で大笑いを始めるのだった。
やがてひとしきり笑い終えたイツキだったが、蟀谷をぽりぽりと人差し指で掻いた後、顔をあげて真正面に居るユウゲに真剣な目をしながら口を開いた。
「駄目だ。今は絶対に動くなよユウゲ」
「へぇ?」
――『よし! じゃあ早速行ってこい!』
とでも言われるかもしれないとまで、予想をしていたユウゲはそのイツキの言葉に素っ頓狂な声をあげるのであった。
イツキの助けもあって何とか解放されたユウゲは、夜になり前回の裏路地の一部屋でイツキに愚痴を零していた。
「全く……貴方が『煌鴟梟』の様子を見に行けというから俺は言う通りに従ったというのに、貴方の所為でサテツの頭領に文句を言われたじゃないか」
「それはさっきから何度も謝っているじゃないか。俺が思っていた以上にサテツは、ゲンロクの決めた事に反感を持っていたようだ」
「あのゲンロク様が退魔組に落ち度があると認めて『妖魔召士』側の……。まぁ暫定の長としての立場としてですが、それでも落ち度を認めたって本当なんですかね? かつてのゲンロク様を知る者としては信じられない話です」
「ゲンロク様も一線を退かれたという事の証左だろう。そもそもヒュウガ様とサテツ様が裏でやり取りを行っている事を知った時点でヒュウガ様達に対して、お咎め無しで済んでいる事自体、俺には信じられんよ」
実際には少々ヒュウガに対してはゲンロクからのお叱りはあったのだが、イツキの言っている規模の意味では無い為、それを分かっているユウゲも首を縦にして頷くのであった。
「それで? お前が見てきた『煌鴟梟』の内情を教えてもらおうか」
そこでようやく本題に入るとイツキは、正座をしているユウゲに楽にするようにといわんばかりに、足を崩すように促す。
コクリと頷いて胡坐をかき始めたユウゲは『煌鴟梟』のボスである『トウジ』の事や、最近『煌鴟梟』の組織に入った『新人』。更には新たに幹部になったスキンヘッドの男『ヒロキ』の事も報告する。
「ヒロキって奴の事はまぁ聞いてはいたが、そのセルバスって野郎の事は俺には一切伝えてきていないな」
「ミヤジ殿やサノスケ殿がアジトに居れば、詳しくセルバスという者の事を聞こうと思って居たのですが、どうやら旅籠町でこれから仕事をするらしく、残念ながら居ませんでした」
大まかに調べてきた事を話し終えるユウゲを見てイツキは頷きを見せる。
「トウジの野郎は回りくどいやり方を好んでやるからな。俺の時は一度『仕事』を行えばほとぼりが冷めるまでその町から手を引くが、トウジは『仕事』をやり終えても表に一切情報を出させない事を徹底して狙い目と思った場所なら根こそぎ奪うやり方をもっていやがる。俺とは違うタイプだが、俺と同じくらい徹底して物事を進めるやり口だ。そのやり口に関してはアイツのやり方に口出しするつもりは無かったが、その新人が少しばかり気に喰わねぇな」
どうやら『煌鴟梟』のボスであるトウジから、セルバスという新人の方へイツキの興味は移ったらしい。
「魔力の残滓や『青い目』といった『魔瞳』を使った痕跡はありませんでした。しかしながら何かしらその新人がトウジ殿に術を施していると思われますね。実際に見てきた俺の感想は以上です」
「お前は俺以上に退魔士としての資質は上だ。俺は『青い目』なんて使えねぇが、お前は『妖魔召士』でもない身で『青い目』を使えるくらいの魔力も有しているしな。そんなお前がその新人がトウジの野郎を操っていると認めているんだ。まず間違いなくそのセルバスって野郎で間違いないだろう」
ユウゲはイツキに褒められた事で、表向きでは普段通りの表情だが、内心では飛び上がるくらいに喜んでいた。イツキは『上位退魔士』程度の退魔士で、そこまで魔力も高くはない男だが、事戦闘に及べばまず間違いなく『ユウゲ』よりも強い。
あくまで殺し合いという場においてではあるが、ユウゲの目測ではイツキという男は『妖魔召士』の『サテツ』より上だと見ている。
だからこそ『特別退魔士』のユウゲは『上位退魔士』のイツキに面と向かっては敬語を使って彼の言う通りに従っているのである。
「では今度は新人の『セルバス』とやらに対象を絞って調べて見ますか?」
そう言うユウゲの顔をじっと見つめるイツキだったが、やがて首を横に振るのであった。
「くははっ! 前と違ってお前もやけに乗り気になったじゃないか。俺が首を縦に振ったらこのまま再び『煌鴟梟』の元に行きそうだな。はははっ!」
余りに話が早く更には動きまで軽妙なユウゲに、イツキは上機嫌になった様子で大笑いを始めるのだった。
やがてひとしきり笑い終えたイツキだったが、蟀谷をぽりぽりと人差し指で掻いた後、顔をあげて真正面に居るユウゲに真剣な目をしながら口を開いた。
「駄目だ。今は絶対に動くなよユウゲ」
「へぇ?」
――『よし! じゃあ早速行ってこい!』
とでも言われるかもしれないとまで、予想をしていたユウゲはそのイツキの言葉に素っ頓狂な声をあげるのであった。
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