上 下
1,005 / 1,915
旅籠編

990.素っ頓狂な声

しおりを挟む
 ヒイラギたちが言っていた通り、ユウゲが戻ってきた報告を伝えに退魔組の頭領である『サテツ』の部屋に入ったが、だいぶ時間は経っていたにも拘わらずまだ機嫌が悪い様子で勝手にイツキの任務を優先して何も言わずに出て行ったユウゲは、相当にサテツに絞られるのであった。

 イツキの助けもあって何とか解放されたユウゲは、夜になり前回の裏路地の一部屋でイツキに愚痴を零していた。

「全く……貴方が『煌鴟梟こうしきょう』の様子を見に行けというから俺は言う通りに従ったというのに、貴方の所為でサテツの頭領に文句を言われたじゃないか」

「それはさっきから何度も謝っているじゃないか。俺が思っていた以上にサテツは、ゲンロクの決めた事に反感を持っていたようだ」

「あのゲンロク様が退魔組に落ち度があると認めて『妖魔召士ようましょうし』側の……。まぁ暫定の長としての立場としてですが、それでも落ち度を認めたって本当なんですかね? かつてのゲンロク様を知る者としては信じられない話です」

「ゲンロク様も一線を退かれたという事の証左だろう。そもそもヒュウガ様とサテツ様が裏でやり取りを行っている事を知った時点でヒュウガ様達に対して、お咎め無しで済んでいる事自体、俺には信じられんよ」

 実際には少々ヒュウガに対してはゲンロクからのお叱りはあったのだが、イツキの言っている規模の意味では無い為、それを分かっているユウゲも首を縦にして頷くのであった。

「それで? お前が見てきた『煌鴟梟こうしきょう』の内情を教えてもらおうか」

 そこでようやく本題に入るとイツキは、正座をしているユウゲに楽にするようにといわんばかりに、足を崩すように促す。

 コクリと頷いて胡坐をかき始めたユウゲは『煌鴟梟こうしきょう』のボスである『トウジ』の事や、最近『煌鴟梟こうしきょう』の組織に入った『新人』。更には新たに幹部になったスキンヘッドの男『ヒロキ』の事も報告する。

「ヒロキって奴の事はまぁ聞いてはいたが、そのセルバスって野郎の事は俺には一切伝えてきていないな」

「ミヤジ殿やサノスケ殿がアジトに居れば、詳しくセルバスという者の事を聞こうと思って居たのですが、どうやら旅籠町でこれからをするらしく、残念ながら居ませんでした」

 大まかに調べてきた事を話し終えるユウゲを見てイツキは頷きを見せる。

「トウジの野郎は回りくどいやり方を好んでやるからな。俺の時は一度『仕事』を行えばほとぼりが冷めるまでその町から手を引くが、トウジは『仕事』をやり終えても表に一切情報を出させない事を徹底して狙い目と思った場所なら根こそぎ奪うやり方をもっていやがる。俺とは違うタイプだが、俺と同じくらい徹底して物事を進めるやり口だ。そのやり口に関してはアイツのやり方に口出しするつもりは無かったが、その新人が少しばかり気に喰わねぇな」

 どうやら『煌鴟梟こうしきょう』のボスであるトウジから、セルバスという新人の方へイツキの興味は移ったらしい。

「魔力の残滓や『青い目ブルー・アイ』といった『魔瞳まどう』を使った痕跡はありませんでした。しかしながら何かしらその新人がトウジ殿に術を施していると思われますね。実際に見てきた俺の感想は以上です」

「お前は俺以上に退魔士としての資質は上だ。俺は『青い目ブルー・アイ』なんて使えねぇが、お前は『妖魔召士ようましょうし』でもない身で『青い目ブルー・アイ』を使えるくらいの魔力も有しているしな。そんなお前がその新人がトウジの野郎を操っていると認めているんだ。まず間違いなくそのセルバスって野郎で間違いないだろう」

 ユウゲはイツキに褒められた事で、表向きでは普段通りの表情だが、内心では飛び上がるくらいに喜んでいた。イツキは『上位退魔士じょうたいま』程度の退魔士で、そこまで魔力も高くはない男だが、事戦闘に及べばまず間違いなく『ユウゲ』よりも強い。

 あくまで殺し合いという場においてではあるが、ユウゲの目測ではイツキという男は『妖魔召士ようましょうし』の『サテツ』より上だと見ている。

 だからこそ『特別退魔士とくたいま』のユウゲは『上位退魔士じょうたいま』のイツキに面と向かっては敬語を使って彼の言う通りに従っているのである。

「では今度は新人の『セルバス』とやらに対象を絞って調べて見ますか?」

 そう言うユウゲの顔をじっと見つめるイツキだったが、やがて首を横に振るのであった。

「くははっ! 前と違ってお前もやけに乗り気になったじゃないか。俺が首を縦に振ったらこのまま再び『煌鴟梟こうしきょう』の元に行きそうだな。はははっ!」

 余りに話が早く更には動きまで軽妙なユウゲに、イツキは上機嫌になった様子で大笑いを始めるのだった。

 やがてひとしきり笑い終えたイツキだったが、蟀谷をぽりぽりと人差し指で掻いた後、顔をあげて真正面に居るユウゲに真剣な目をしながら口を開いた。

「駄目だ。今は絶対に動くなよユウゲ」

「へぇ?」

 ――『よし! じゃあ早速行ってこい!』

 とでも言われるかもしれないとまで、予想をしていたユウゲはそのイツキの言葉に素っ頓狂な声をあげるのであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

処理中です...