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旅籠編
987.看破するユウゲ
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「トウジ殿?」
セルバスがユウゲの事をヒロキに訊ねていた頃『煌鴟梟』のボスの部屋では、トウジのあまりの変貌振りにユウゲは眉を寄せながら驚きを隠せないでいた。
『煌鴟梟』に最近入った新人の事をユウゲ訊ねる前までは、これまでの『煌鴟梟』ボスであるトウジそのままであったのだが、今のユウゲの前に居る『煌鴟梟』のボスは目を虚ろにしながら、その場に今まで話をしていたユウゲを認識出来ない様子で虚空をずっと見つめているのであった。
「……」
ユウゲは直ぐにこれは何者かの攻撃を受けていると思考を到達させたが、外に控えているヒロキを呼んだりはせず、むしろ冷静に今のトウジの観察を続けるのであった。
(魔力の奔流等は感じられない。つまりトウジ殿に対して、実時間で攻撃を仕掛けられているわけではない)
ユウゲは『煌鴟梟』のボスのトウジから視線を外した後、部屋の入り口や部屋の奥、魔力の『スタック』のポイントとなる場所がないか、次に部屋を中心とした『結界』の有無など仕掛けられていないかなど『特別退魔士』としての行動を速やかに行っていく。
――更に『ユウゲ』は目を青くさせながら『トウジ』の周囲一帯を見る。
魔瞳『青い目』を使用したユウゲは、トウジに自身以外の『青い目』を使われていないか、魔力圧の影響を受けていないかを調べ始める。
もしこの段階で『青い目』の効力の残滓などが発見出来た場合は『退魔士』や『妖魔召士』が犯人だと見分けられる。
しかしトウジはそういった魔力圧の影響を受けている様子ではなかった。
(『妖魔召士』や『退魔士』の仕業ではないのか。更には俺の『結界』では『妖魔』の反応はないと出ている……)
ユウゲは目の色を元に戻して溜息を吐いた。
どうやらトウジがこうなっている理由は、退魔士や妖魔の力が働いているワケでは無く、本人が持病か何かの影響で意識が混濁しているようにしか思えない。
「しかしなぜ突然? 今の今まで普通通りだったのに何が原因でこうなったのか……」
ユウゲは理由が分からずトウジを眺め続けていたが、次の瞬間トウジの目に光が戻ったように感じられた。
「え? あ、ユウゲ殿か。何やら誤解をされていたようだが、その誤解も解けたようで何よりだ」
「は? あ、ああ……」
どうやら意識が戻ったトウジがそんな事を口にした為に、ユウゲは一瞬何の事か分からずに返事に労したが、彼はどうやら意識を失う前に交わした言葉を思い出してそう告げたのだろう。
つまりこの意識を失っている間の記憶が、すっぽりそのまま抜け落ちていて、彼の中では先程のユウゲとの会話から時が動いていないのだろう。
仕方なく話を合わせるように返事をしながらユウゲは、そこでようやく何が原因だったかという事に思い当たった。
(意識を失う直前、俺はトウジ殿に新人の事を聞いた。その瞬間にまるで催眠術にかけられたかの如く、トウジ殿は目を虚ろにさせた。成程、どうやら部屋の前に居たあの新人が何かをトウジ殿に施しているのだな)
証拠も何もなく起きている状況からのユウゲの単なる推測に過ぎないが、この『煌鴟梟』の組織に最近入った新人が何故、ここまで自由にさせてもらえているのか。そしてこの『煌鴟梟』の二代目ボスであるトウジに気に入られているのか。そこまで考えて行き着いた先の思考は至極簡単な答えであった。
(これを最優先でイツキ殿に報告しなければならないな。しかしトウジ殿は新人を組織に入れたところまでは、理解出来ているのだろうか)
どうやら未知数の力か何かでトウジ殿は部屋の前に居た男に操られているのだろうが、どこからどこまでを認識しているのか、そこが分からなければユウゲでは手を出しようがない。
そしてキーワードとなる『新人』の事を軽く聞いただけで、こうまでトウジ殿の目が虚ろになって、意識が混濁したのである。無理にトウジが聞き出そうとすればどうなるか分からない。
イツキの指示はあくまで内情を調べたりボスの様子を見てくる事。
そうであるならば、ひとまずここでユウゲは何かをする必要がない。あくまで推測ではあるが、トウジ殿がイツキに新人を入れた事を報告しなかったのではなく、身に覚えが無かったか深層意識レベルで操られて報告自体を『新人』に止められていたのだろう。
本当にそんな事が出来る人間が居るのかそこまでは分からないが、実際にこの目でトウジ殿がおかしくなったところを見た以上はユウゲは、そのあるがまま起きた事をイツキに報告するだけである。
「近い内にまたイツキ様と会って、しっかりと話をしなければならないな」
そう言って笑い始めるトウジに、ユウゲも愛想笑いを浮かべる。
(俺がこの事に気づいた事を前の部屋に居る奴に悟られるわけにはいかない)
何も気づかなかった風を装いながら『退魔組』まで戻らなければならない。
ユウゲはトウジに時間を取らせて申し訳なかったと謝罪をしながら、そのまま『煌鴟梟』のボスの居る部屋を退室するのであった。
セルバスがユウゲの事をヒロキに訊ねていた頃『煌鴟梟』のボスの部屋では、トウジのあまりの変貌振りにユウゲは眉を寄せながら驚きを隠せないでいた。
『煌鴟梟』に最近入った新人の事をユウゲ訊ねる前までは、これまでの『煌鴟梟』ボスであるトウジそのままであったのだが、今のユウゲの前に居る『煌鴟梟』のボスは目を虚ろにしながら、その場に今まで話をしていたユウゲを認識出来ない様子で虚空をずっと見つめているのであった。
「……」
ユウゲは直ぐにこれは何者かの攻撃を受けていると思考を到達させたが、外に控えているヒロキを呼んだりはせず、むしろ冷静に今のトウジの観察を続けるのであった。
(魔力の奔流等は感じられない。つまりトウジ殿に対して、実時間で攻撃を仕掛けられているわけではない)
ユウゲは『煌鴟梟』のボスのトウジから視線を外した後、部屋の入り口や部屋の奥、魔力の『スタック』のポイントとなる場所がないか、次に部屋を中心とした『結界』の有無など仕掛けられていないかなど『特別退魔士』としての行動を速やかに行っていく。
――更に『ユウゲ』は目を青くさせながら『トウジ』の周囲一帯を見る。
魔瞳『青い目』を使用したユウゲは、トウジに自身以外の『青い目』を使われていないか、魔力圧の影響を受けていないかを調べ始める。
もしこの段階で『青い目』の効力の残滓などが発見出来た場合は『退魔士』や『妖魔召士』が犯人だと見分けられる。
しかしトウジはそういった魔力圧の影響を受けている様子ではなかった。
(『妖魔召士』や『退魔士』の仕業ではないのか。更には俺の『結界』では『妖魔』の反応はないと出ている……)
ユウゲは目の色を元に戻して溜息を吐いた。
どうやらトウジがこうなっている理由は、退魔士や妖魔の力が働いているワケでは無く、本人が持病か何かの影響で意識が混濁しているようにしか思えない。
「しかしなぜ突然? 今の今まで普通通りだったのに何が原因でこうなったのか……」
ユウゲは理由が分からずトウジを眺め続けていたが、次の瞬間トウジの目に光が戻ったように感じられた。
「え? あ、ユウゲ殿か。何やら誤解をされていたようだが、その誤解も解けたようで何よりだ」
「は? あ、ああ……」
どうやら意識が戻ったトウジがそんな事を口にした為に、ユウゲは一瞬何の事か分からずに返事に労したが、彼はどうやら意識を失う前に交わした言葉を思い出してそう告げたのだろう。
つまりこの意識を失っている間の記憶が、すっぽりそのまま抜け落ちていて、彼の中では先程のユウゲとの会話から時が動いていないのだろう。
仕方なく話を合わせるように返事をしながらユウゲは、そこでようやく何が原因だったかという事に思い当たった。
(意識を失う直前、俺はトウジ殿に新人の事を聞いた。その瞬間にまるで催眠術にかけられたかの如く、トウジ殿は目を虚ろにさせた。成程、どうやら部屋の前に居たあの新人が何かをトウジ殿に施しているのだな)
証拠も何もなく起きている状況からのユウゲの単なる推測に過ぎないが、この『煌鴟梟』の組織に最近入った新人が何故、ここまで自由にさせてもらえているのか。そしてこの『煌鴟梟』の二代目ボスであるトウジに気に入られているのか。そこまで考えて行き着いた先の思考は至極簡単な答えであった。
(これを最優先でイツキ殿に報告しなければならないな。しかしトウジ殿は新人を組織に入れたところまでは、理解出来ているのだろうか)
どうやら未知数の力か何かでトウジ殿は部屋の前に居た男に操られているのだろうが、どこからどこまでを認識しているのか、そこが分からなければユウゲでは手を出しようがない。
そしてキーワードとなる『新人』の事を軽く聞いただけで、こうまでトウジ殿の目が虚ろになって、意識が混濁したのである。無理にトウジが聞き出そうとすればどうなるか分からない。
イツキの指示はあくまで内情を調べたりボスの様子を見てくる事。
そうであるならば、ひとまずここでユウゲは何かをする必要がない。あくまで推測ではあるが、トウジ殿がイツキに新人を入れた事を報告しなかったのではなく、身に覚えが無かったか深層意識レベルで操られて報告自体を『新人』に止められていたのだろう。
本当にそんな事が出来る人間が居るのかそこまでは分からないが、実際にこの目でトウジ殿がおかしくなったところを見た以上はユウゲは、そのあるがまま起きた事をイツキに報告するだけである。
「近い内にまたイツキ様と会って、しっかりと話をしなければならないな」
そう言って笑い始めるトウジに、ユウゲも愛想笑いを浮かべる。
(俺がこの事に気づいた事を前の部屋に居る奴に悟られるわけにはいかない)
何も気づかなかった風を装いながら『退魔組』まで戻らなければならない。
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