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旅籠編

983.煌鴟梟の当代ボス

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「ありゃあ一体何なんだ?」

 ユウゲはボスが居る部屋の前で待っていた男の前で静かに呟く。

「実はあれはですね、最近ボスの推薦でうちに入った新人なんですよ」

「し、新人……?」

 堂々と自分の家に居るように、長椅子にふんぞり返っている男を少し離れたところから見直すユウゲは、信じられ無いとばかりに眺め続けている。

「驚かれるのも無理はありませんが、彼はボスに気に入られているようでしてね。今も好きにさせるようにとボスに言われているんですよ」

 スキンヘッドの男も本心では彼に対して思うところはあるようだが、彼らのボスが直々に好きにさせろと告げた以上は、それに従う他はないというのが組織の総意なのだろう。

 退魔組もまた『煌鴟梟こうしきょう』とは色々と違う組織ではあるが、サテツが決めた事に対しては逆らう者は少ない。

 同じ『組織』という枠組みで働いている身としては、ユウゲもまたスキンヘッドの男の心情を汲み取れるのだった。

(どうやらイツキが言っていた最近の『煌鴟梟こうしきょう』のボスがおかしいという話は、まんざら考えすぎというワケでも無さそうじゃな)

 まだ直接ボスを見ていないユウゲだったが、すでにこの新人の一例を見てもイツキが懸念を抱いている理由が窺い知れるという物であった。

「さて、それではまずは私がボスに取り次いできますので、ここで少々お待ち頂いても宜しいでしょうか」

「あ、ああ……。すまぬがよろしく頼むよ」

 イツキの事を考えていたユウゲは、スキンヘッドの男の言葉に我に返り、慌てて返事をするのであった。

 スキンヘッドの男が部屋の中へと入って行き、事情を説明しているであろうもの間、ユウゲはその場で振り返って、椅子に座って酒を呑み続けている先程の男の観察を続けるのであった。

(あれが新人だと? 何処をどう見てそう思えると言うのだ)

 ユウゲは当然この事をイツキに報告をするつもりだが『煌鴟梟こうしきょう』のボスにも怪しまれない程度には、この新人の事を聞いておこうと思うのであった。

 そしてそんな事を考えているとボスの部屋の扉が開き、中からスキンヘッドの男が出て来た。

「お待たせしました。どうぞ中へ」

「あ、ああ……」

 ユウゲはひとまず当初の予定通りにボスの様子を見る為に『煌鴟梟こうしきょう』のボスの室内へと、その足を踏み入れるのであった。

 背を向けて椅子に座っていたセルバスは、ボスの部屋にユウゲが入っていった後、ゆっくりと振り返り、笑みを浮かべながらそのボスの部屋の扉を見るのだった。

 …………

「久しぶりですね、少し痩せられましたか?」

 ユウゲは部屋に入り『煌鴟梟こうしきょう』のボスの顔を見ながら、まずは開口一番にそう口にする。

「ユウゲ殿か。久しぶりだな」

 ユウゲは目の前に居る煌鴟梟のボスをこの『煌鴟梟こうしきょう』に居るほとんどの者達より古くから知っている。イツキが『煌鴟梟こうしきょう』のボスを座を目の前の男に譲り渡した時、ユウゲはその場に居たからである。

 ユウゲは『煌鴟梟こうしきょう』の人間では無いが、イツキとは昔からの付き合いであり、彼が退魔組に入る前の事も当然知っている。

 そしてこの目の前の男以外にも、当時に居た幹部達とも面識は持っている。
 『煌鴟梟こうしきょう』のボスが代わってからもミヤジやサノスケとは交流を持っていて、何度かユウゲが退魔組所属となった後もこのボスとは何度か会ってはいた。

 しかし『特別退魔士とくたいま』になってからは任務続きとなって、ユウゲも忙しい身となってしまい、このボスとはそれ以来ぶりだろうか。

 ユウゲはボスと挨拶をしながらもイツキに報告が出来るように、何か変わった点はないかとボスの顔を観察する。

「それでユウゲ殿は何やらイツキ様から言伝ことづてを預かって来ているとか?」

 どう探りを入れようかと考えていたユウゲだったが、先に彼から切り出された為、そのまま本題に入る事にするのであった。

「『』さん。あなた最近は少しやるべき事を疎かにしていませんかね」

「……」

 この場には『煌鴟梟こうしきょう』の当代のボスである『トウジ』以外にもここまで案内をしてくれたスキンヘッドの男が居る。ユウゲは言葉を選び、曖昧ながらも一番聞きたい事を聞き出す為に、まずはそう口にするのであった。
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